就活の参考になるので、企業の「教育力測定」があるといい
3月に入り、17年卒の就活シーズンがはじまりました。経営コンサルタントである私の周囲も、にわかに騒がしくなってきた感があります。いい会社に入りたい求職者、いい人財を採用したい企業、双方ともにベストな選択をすべく知恵比べをする時期です。期限が短いため、それぞれが正しく意思決定するための指標がうまく開示されるといいと思っています。
私は現場に入って目標を絶対達成させるコンサルタントです。研修の講師や、単なる講演家なら、企業の上っ面しかわからないでしょうが、私は現場に入り込むため、いろいろな裏事情を知ることになります。
企業のブランディングには「エクスターナルブランディング」と「インターナルブランディング」という2つの言葉があります。エクスターナルブランディングとは、文字通り、外部から見たブランドイメージをアップすること。インターナルブランディングとは、内部から見たブランドです。
つまりエクスターナルブランディングとは、外面(そとづら)です。テレビCMや雑誌、新聞などのメディアを上手に利用することで、エクスターナルブランディングは成功します。いっぽうインターナルブランディングとは、人間でいうと内面を磨くことですから、簡単ではありません。その会社のスタッフが、本当に生き生きと働いていると、その会社の風土や雰囲気のようなものが外にまでこぼれ出てきます。そのこぼれ出た空気感が企業ブランドを底上げするのです。
就活生が、会社の本質を知るために必要なのは、当然「エクスターナルブランディング」によって形作られた上っ面のイメージではなく、「インターナルブランディング」によってできたその会社の風土です。そこに真実が隠れているからです。
私のコンサルティング先は、中堅、中小企業がメインです。しかし、中には、テレビで広告宣伝をバンバンやっている有名企業から、コンサルティングのオファーをもらうこともあります。「業績が不安定なので、何とかしてほしい。何とか中期経営計画を絶対達成させたいので力を貸してもらいたい」といった依頼です。
オファーをいただくと私どもは現場へ向かい、調査をスタートさせます。そして提案書を出して、意思決定を促すのですが、大企業はこの意思決定プロセスが総じて長い。2ヶ月経っても3ヶ月経っても、社内稟議を巡って、あーでもないこーでもないとやっています。その間もずーっと、テレビCMやら雑誌の広告は続きます。現場の問題を放置しておいて、エクスターナルブランディングのための巨額の広告費用が流され続けるのです。
5ヶ月ぐらい待たされたあげく、コンサルティングではなく研修スタイルにしてもらえないかと言われるケースもあります。コンサルティングであれば、病院の医師が患者を治すように対応できますが、研修だと、治療のやり方を教えることになるので、効果は各段と落ちます。しかしビジネスですので私どもは受け入れます。「いいですよ。いいですけれど、はやめに決断されないと問題はドンドン大きくなっていきますよ」と忠告します。しかし、それでもなかなか決断できない。
オファーがあってから10ヶ月ぐらい経過して、幹部が「以前、他のコンサルティング会社に研修をやってもらったが効果がなかった。外部の人間に研修をされてもうまくいく保証がない」などといった、極めて悪質な評論家的コメントを出す。そして、この話はお流れになる。こういうパターンがすごく多い。なぜこの会社が業績を悪化させているのか、これですぐに明らかになります。
コンサルタントの私は別にいいですが、正直なところ、現場の人たちは本当に可哀想だなと思います。時代はドンドン変化しており、それを最も痛切に受け止めているのが現場です。現場では組織改革はできない、外部の厳しいコンサルタントが入って、変革をもたらしてほしい、と願っているのです。そうであるなら、その担い手が当社でなくてもいいですが、誰かに託すべきではないのか。もし外部の人間に任せられないのであれば、内部の誰かにその任を早急に与えるべきです。
この10ヶ月の間、ずっとその会社をウォッチしてきましたが、現場は何も変わっていません。業績を向上させるための策を何も打てずにいます。にもかかわらず、テレビCMや雑誌広告は流れつづけ、一人でも多くの就活生を確保しようと、就活イベントにも多額の費用を投資し続けています。外側から見たら、とてもアグレッシブに企業活動をしているように見えます。しかし、ドンドン財務体質は悪化し、組織の雰囲気も悪化の一途。「何をやってもムダだ」という学習性無力感を募らせるばかりです。
私が問題視するのが、経営幹部の「過去に研修を受けたが効果がなかったので、今回は見送る」という常套句です。こういう発言をする幹部はとても多い。変化を嫌い、明確な解決策も示さないので、当事者意識がまったくないと言えます。だから評論家的なのです。
そもそも研修を1回、2回受けただけで、組織が変わると思っている感覚を疑います。前述したとおり、短期間で結果を出したいのならコンサルティングを受けるべきです。病院でたとえるのなら、治療のやり方を教えてもらうのではなく、治療を受けるのです。とはいえ、大企業は、外部のコンサルタントに深く介入してもらいたくないでしょう。それは理解できます。それなら研修スタイルでもいいので、定期的に研修を受けるべきです。学ぶ場を正しく設置する必要があります。
子どもが通っている学校に問題があるのなら、学校を変えればいいのです。学校そのものに行かせない、という選択肢はあり得ません。子どもには選択する権限はない。親の方針に従うしかないのです。「世の中にはろくな学校がない。あなたは学校へ行かなくてもいい」と親に言われたら、子どもはそれを受け入れるしかないでしょう。
そこで働く従業員には、基本的に選択権がありません。「以前、研修を受けたけれど効果がなかったから、自分で学ぶように」と幹部に言われたら、それで終わりです。正しい教育の機会を与えられない従業員は、そのまま市場価値に直結します。その会社を辞めたあと、他社へ転籍しようとしても、本来受けるべき教育を与えられてこなかったわけですから、人財としてのバリューは高くありません。とても残念なことです。就活生は、そういうところを見抜いてほしい。本来持っている自分の価値を下げるような会社に入社すべきではありません。
外面(そとづら)はいいのですが、内面がヒドイ会社は本当に多い。いっぽうで、地味な会社でも、組織風土が素晴らしい会社もたくさんあります。エクスターナルブランディングはうまくできていませんが、インターナルブランディングに成功している会社です。
子どもが学校へ通いはじめると、体力測定を受けます。企業にも「教育力測定」があったらいいのにと思います。教育力という指標があれば、就活生たちはその企業に自分の人生の一部を捧げていいのかどうかの判断ができるからです。
ただ、このときの「教育力」というのは、本当に教育する力があるかどうかを表さなければなりません。体力というのは、すぐに身につくものではない。企業の教育力も同じで、社員教育のお品書きがあるだけではダメ。どんな外部環境の変化があっても、正しく対応できる力を養うために必要な”教育する力”が備わっているかどうかです。
しっかりとした教育をされている会社では、みな生き生きと働き、業績も安定するものです。外部のコンサルタントが治療に入るまでもありません。就活生の皆さんには、外部の圧力によって「外科手術」されそうな企業に入らないよう注意してもらいたいです。