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NTT都市開発の「行きたくなるオフィス 4×SCENE」はひとつの正解を示す

遠藤司皇學館大学特別招聘教授 SPEC&Company パートナー
(写真:アフロ)

 6月1日、マイナビニュースに「最先端のオフィスを見学したら「神棚」発見で魂消る→理由を聞いて納得した」と題する記事が掲載された。

 ウィズコロナやアフターコロナを念頭に、日本の会社員の働き方は大きく変わった。ヤフーは無制限リモートワークを導入し、一方でホンダは原則出社に切り替えているが、正解は何か。そのような中、NTT都市開発が自社オフィスの運用において「未来のオフィス 4×SCENE」というコンセプトを発表したので、著者の金井唯さんは見学してきたようである。

 記事によれば、このオフィスは「一言でいうと行きたくなる未来のオフィス」とのことだ。基本はリモートワークだが、個人の業務内容に応じてオフィスに出勤し、勤務スペースを選択するスタイルがとられている。この考え方を推し進め、一人ひとりが好みや行動、目的に合わせて、自由かつ柔軟に働く環境を選べるよう配慮されている。フロアは INTRODUCTION、TEAM、FOCUS、CASUAL の4つのエリアに分かれており、各自が働く場所を選択できる。さらには、入り口のマップモニタにより、誰が出社しているのかを把握できるため、同僚との円滑かつ活発なコミュニケーションもまた実現される。

 確かにそれらは、業務上の生産性向上に役立つであろう。加えて、働く人びとにはリフレッシュもまた必要である。よってオフィスには「(MU)ROOM」という瞑想室や、歩きながら仕事のできるウォーキングマシン等が設置されているようだ。これらの施策により、Well-being の実現もまた目指されている。

 ところで筆者は、かねて人びとが生きがいをもって働く社会を実現したいと考えてきた。それは、一人ひとりが人生の目的に到達するための生き方や働き方であり、とりわけ創造的な働き方を意味する。そうすることが、来たるパーソナルな時代における、多様性の尊重された生き方だからである。

 その観点からいえば、同社のオフィスの考え方やコンセプトは、一つの「正解」を示していると筆者は考える。まずもって、出社するかリモートで働くかということは一律で決められるものではなく、何のためにするのか、何を求めて出社するのかという観点から、考えられねばならない。

よい働き方とは何であるか

 記事の中には Well-being(ウェル・ビーイング)という考え方が示されている。

 ポジティブ心理学の大家マーティン・セリグマンは、心身および社会的に満たされた状態として Well-being という概念を提唱し、実現における5つの要素を示している。すなわち、楽しい・嬉しいといったポジティブな感情 Positive Emotion、夢中になって没頭できること Engagement、愛し愛される人間関係 Relation、人生の目的 Meaning/Purpose、何ごとかを達成すること Accomplish の5つである。

 頭文字をとってPERMAと呼ばれる5つの要素は、一時的な心地よさや快楽ではなく、持続的な幸福感を実現するために必要となる。その幸福感は、ひとが何らかの意味や目的に向かい、到達するまでのプロセスの中にこそ見出される。スポーツの練習や困難な仕事などは、必ずしも快適ではなく、快楽でもない。しかし目標に向かうプロセスとその達成により、幸福感を味わうことができることは、多くの人が認めるところである。

 そして人生の目的は、自らが見出すものであり、他者の手によるのではない。自らが到達したいと思う内発的な動機に従い、仕事や業務のあり方を柔軟に変えていくことで、自分らしい働き方ができるようになる。一人ひとりが仕事に対する認知や行動を主体的に修正していくことで、退屈な作業や「やらされ感」のある業務をやりがいのあるものへと変容させることができる。このような考え方を、ジョブ・クラフティングという。

 自らの価値観に従って仕事のあり方を変えることは、たしかに創造的な働き方といえる。あるいはまた、ドラッカーのいうように企業の目的は顧客の創造 create a customer である。つまり顧客が価値とみなす事業を創造することであり、そのための環境が、働く人びとには用意されている必要がある。かくして Well-being は、創造的な働き方とリンクする。実際に、様々な研究によって幸福感は、創造性を高めるのにも有効であることが分かっている。

 かつてセリグマンはいった。人は高い成果を挙げるから幸福なのではない。幸福だから、高い成果を挙げるのである。自身が働きやすく、他者とともに相互の人生の目的に向かって手を取り合うことのできる環境は、人びとの行きたくなるオフィスであろう。出社命令ではなく、自ずと向かうことが志向されるオフィスこそ、未来のオフィスと言えるのではないか。

創造的な場を目指して

 未来のオフィスを発展させるには、経営学や心理学、社会学等の各種の実証的研究を参照する必要がある。なぜなら、私たちが創造性を高めるはずと考える環境は、研究の結果と乖離することがあるからである。

 例えば、オープンオフィスによって、ときに創造性や生産性を低下させることが指摘されている。ハーバード・ビジネススクールのイーサン・バーンスタインらは、米国の大手企業がオープンオフィスに変えた際、対面型のコミュニケーションが70%も低下した事例を報告している。雑音が気になるとき、集中して考えたい人はイヤホン等を着けて仕事をするようになる。それを禁止した場合、雑音によって集中力が削がれるため、逆効果となる。加えて、フリーアドレスによって相談したい同僚がどこにいるか分からない場合にも、対面型コミュニケーションは減退されよう。

 またバーンスタインによれば、プライバシーが確保された環境のほうが、新たなアイディアによる試行錯誤を生み出し、創造的な成果が向上するようだ。つまりオープンオフィスの場合でも、場所によっては透明性を低下させたほうが、創造性にはよいのである。他者の目を気にせず失敗を繰り返すことで、人の創造性は喚起される。オフィスにおいては、オープンとクローズのバランスが大切なのである。

 4×SCENEでは、まさしく上記の問題を解決するアプローチがなされている。つまり、TEAM、FOCUS、CASUAL のエリア分けにより、各自の仕事内容と目的に応じて場所を選択できる。マップモニタによって、誰がどこにいるのかを把握できれば、すぐさま移動し、対面で会話することができる。

 歩き回るスタイルもまた、創造性にはよさそうである。スタンフォード大学のマリリ・オペッゾとダニエル・シュワルツは、新しい発想を生み出すための拡散的思考を測定するために、座ってテストを受ける場合と、ルームランナーで歩きながらテストを受ける場合とを比較した。すると後者のほうが、前者よりも1.6倍成果を上げることができたようだ。

 瞑想については、注意が必要である。いまこの瞬間に意識を集中することで瞑想に至る手法をマインドフルネスというが、これは拡散的思考よりも、一つの答えを見つけるための収束的思考を高める傾向がある。反対に、時々の自分の思考をありのまま観察するタイプの瞑想をオープン・モニタリングというが、こちらは拡散的思考を高めるようである。

 最後に神棚について。人はみな、何らかの心の拠り所を求めながら生きている。とりわけ不確実性の中で行われる創造的な仕事には、不安を払拭するための様々な働きかけが必要となる。日本のムラにはカミ様がいて、人びとの心の支えとなり、連帯の礎となった。職場も一つの集団であるから、それが日本のカミ様かどうかはさておき、何らかの精神的支柱が必要となるのである。論理や合理だけでなく、人びとの心のケアにも配慮することが、よいオフィスづくりには重要であると筆者は考える。

皇學館大学特別招聘教授 SPEC&Company パートナー

1981年、山梨県生まれ。MITテクノロジーレビューのアンバサダー歴任。富士ゼロックス、ガートナー、皇學館大学准教授、経営コンサル会社の執行役員を経て、現在。複数の団体の理事や役員等を務めつつ、実践的な経営手法の開発に勤しむ。また、複数回に渡り政府機関等に政策提言を実施。主な専門は事業創造、経営思想。著書に『正統のドラッカー イノベーションと保守主義』『正統のドラッカー 古来の自由とマネジメント』『創造力はこうやって鍛える』『ビビリ改善ハンドブック』『「日本的経営」の誤解』など。同志社大学大学院法学研究科博士前期課程修了。

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