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サクソンが2024年11月来日。地獄・炎・破滅のヘヴィ・メタル【前編】

山崎智之音楽ライター
Saxon live 2024(写真:REX/アフロ)

鷲が舞い降りる。2024年11月、サクソンのジャパン・ツアーが決定した。

英国ヘヴィ・メタルの重鎮として世界中に信奉者を生んできた彼らだが、ニュー・ウェイヴ・オブ・ブリティッシュ・ヘヴィ・メタル(NWOBHM)出身バンドとしては初めて日本上陸を果たすなど(1981年5月)、本邦のファンにとっても特別な思い入れのあるバンドだ。アルバム『ヘル、ファイアー・アンド・ダムネイション〜天誅のヘル・ファイア〜』を引っ提げて、しかもダイアモンド・ヘッドのブライアン・タトラーをギタリストに迎えての来日公演は、2024年最大級のヘヴィ・メタル・スペクタクルと呼んで過言ではない。

73歳という年齢をまったく感じさせない力強さと、ベテランならではの説得力を兼ね備えたシンガーのビフ・バイフォードが、来たるツアーとバンドの歴史に対する哲学、知られざるエピソードなどを語ってくれた。全2回のインタビュー、まずは前編をお送りしよう。

Saxon『Hell, Fire And Damnation』(ルビコン・ミュージック/現在発売中)
Saxon『Hell, Fire And Damnation』(ルビコン・ミュージック/現在発売中)

<サクソンは前進を続けるバンドなんだ>

●2024年11月のサクソン日本征服に向けてのインタビューということで、日本公演のステージについて教えて下さい。若い世代のファン、あるいは生涯を洞窟や南極で過ごしてきた人に、サクソンのライヴをどのように説明しますか?

ハードで、ヘヴィで、ラウドなロックンロールだ。声を上げて、首を振ったり、拳を突き上げたり、自由なことを出来る空間だよ。私たちのショーには1979年のヘヴィ・メタル・ブームを体験した世代の熱心なファンから14、15歳の若いリスナーまで、幅広い年齢層のお客さんが来てくれる。ヨーロッパでは特にそんな傾向があるし、北米でも若いファンが増えてきた。久しぶりの日本でどんなお客さんが来てくれるか、楽しみにしているんだ。もちろん誰が来てもサクソンは全力のステージを見せる。それ以外のやり方を知らないんだ。

●『ヘル、ファイアー・アンド・ダムネイション〜天誅のヘル・ファイア〜』はヘヴィで速い曲やメロディ溢れる曲などさまざまなナンバーが収録されており、サクソンのファンにはお馴染みの歴史を題材にした楽曲もあります。

子供の頃から、ずっと歴史が好きだったんだ。戦士や軍事作戦などに魅了されてきた。決して戦争を肯定するのではなく、むしろ平和主義者だけど、特に少年、あるいは心に少年の魂が住む人は、歴史上の事件に興味を持つものなんだ。

●「1066」ではイギリス史の大きなターニング・ポイントである1066年のノルマン征服を題材にしていますが、これまで曲にしてこなかったのは、サクソン族が敗北したからですか?

ははは、それもある。実際には、歴史的な出来事について歌うには独自の視点が必要なんだ。事実を列記するだけではアート・フォームにはならない。ロックンロールは学校の教科書ではないからね。1066年、イギリスのすべてが一変した。その衝撃を音楽と歌詞で伝えなければならないんだ。「1066」を書いたのは、アモン・アマースと「サクソンズ・アンド・ヴァイキングス」をやったこともヒントになった。それでウィリアム征服王のことやハロルド王が矢で目を射られた逸話などを描いてみようと考えたんだ。とても刺激的な題材だよ。

●『ヘル、ファイアー・アンド・ダムネイション』は24作目のアルバムにして、「マダム・ギロチン」やフランス革命や「ウィッチズ・オブ・セイラム」のセイラム魔女狩りなどポピュラーな題材がまだ残っていたのは奇跡ですね!

そうだね。歌う題材は尽きないよ。私は今でも歴史ファンなんだ。いつも本を読んだり、TVドキュメンタリーを見たりしている。ツアーがオフのときは特に戦争などについて調べているよ。ロズウェルのUFO墜落事件についても興味があって、それにインスピレーションを受けて「ゼアーズ・サムシング・イン・ロズウェル」を書いたんだ。歴史好きという点ではアイアン・メイデンもずいぶん好きだよね。彼らもいろんな事件を題材にしているよ。

●あなたが温めていた歴史のアイディアをアイアン・メイデンに先にやられてしまった...ということはありましたか?

今のところはないよ(笑)。スティーヴ・ハリスやブルース・ディッキンソンの歌詞には敬意を持っているんだ。彼らがサクソンと同じ題材について歌詞を書いたとしても、彼らなりのオリジナリティがあるものになるだろう。その逆に、私が“獣の数字666”についての歌詞を書いたとしても、まったく異なったものになるだろうけどね!「ヘル、ファイアー・アンド・ダムネイション」は悪魔や善と悪について歌っているけど、彼らの「ザ・ナンバー・オブ・ザ・ビースト」とはまったく異なっているだろ?

●「クブラ・カーンとヴェニスの商人」はフビライ・ハンとマルコ・ポーロを題材にしており、日本のファンにとっても非常に興味深いテーマです。

うん、マルコ・ポーロには一種の共感をおぼえるんだ。彼はヴェネチアから東洋までを旅した。サクソンもそうだった。1970年代後半のヘヴィ・メタル・ブームから出てきたバンドで最初に日本でツアーしたのがサクソンだったんだ(1981年5月上旬。同月下旬にアイアン・メイデンが初来日公演を行った)。まるで冒険家になった気分だったよ。

●『ドッグス・オブ・ウォー』(1995)には「ウォーキング・スルー・トーキョー」という曲が収録されていますね。

「ウォーキング・スルー・トーキョー」は初めて日本を訪れたときに受けた衝撃を歌ったんだ。この国には伝統文化とテクノロジー、人々の礼儀正しさとライヴでのクレイジーな反応など、両極端な要素がある。それで日本の歴史についての本を何冊も読んだ。『ライオンハート』(2004)には「トゥ・リヴ・バイ・ザ・ソード」という曲があるけど、侍の生きざまを描いたものだ。“ラウド・パーク”フェス(2007年)での反応は素晴らしかったし、そのおかげでジャパン・ツアーも実現した(2011年)。間が空いてしまったけど、また日本に戻ることが出来て本当に嬉しいよ。1980年代、日本からヨーロッパやアメリカに進出してくるバンドはラウドネスと、あと数えるほどしかいなかったんだ。でも今では夏フェスでたくさんのバンドが出演している。すごい変化だと思うね。

●本物のサクソンが日本を留守にしているあいだに元メンバーのグレアム・オリヴァーとポール・クインが“グレアム・オリヴァーズ・アーミー”として来日して初期サクソンの曲をプレイするライヴを行いましたが、そのことは気になりませんでしたか?

特に気にしないよ(苦笑)。世界中にサクソンの曲をカヴァーするバンドがたくさんいるし、まあ、そのせいで困ったことはないからね。私たちの音楽と伝統を汚すようなものでなければ、この世界で共存することが出来るよ。ポールは去年ツアーから引退したけど、自宅で退屈したんじゃないかな。それでグレアムに誘われたんだと思う。それに私たちは昔の曲を繰り返すだけではない。11月の日本公演ではクラシックスに加えて『ヘル、ファイアー・アンド・ダムネイション』からの曲を含め、新旧のベスト・ナンバーをプレイするし、ブライアン・タトラーも参加する。サクソンは前進を続けるバンドなんだ。

Saxon 2024 / photograph by Lea Stephan
Saxon 2024 / photograph by Lea Stephan

<リドリー・スコットがヘヴィ・メタルを好きだったかは判らないな(笑)>

●「ゼアーズ・サムシング・イン・ロズウェル」はロズウェルのUFO墜落事件を歌っていますが、『パワー・アンド・ザ・グローリー』(1983)の「ウォッチング・ザ・スカイ」でもUFOを題材にしていますね。

宇宙人とUFOにはずっと興味を持ってきたんだ。宇宙人の存在を信じるか?と問われたら信じると答えるだろうけど、それをみんなに触れ回るほどではない。自宅の庭にUFOが上陸したら騒ぎ立てるだろうけどね。ロズウェル事件には多くの謎があるし、それに魅力を感じるんだ。アメリカ政府が何を隠蔽しているかなど、想像を巡らして、それを歌詞にしたんだよ。いろんなバンドがエリア51やハンガー18を題材にしてきたよね。「ウォッチング・ザ・スカイ」は異なった視点からUFOについて歌っている。少年時代に夜空を見上げて、宇宙から何か凄いものが飛来してくるのを待っていたんだ。今でも少し期待しているけど、まだ宇宙人とは遭遇していないよ。

●宇宙人=エイリアンといえば、映像作品『Heavy Metal Thunder The Movie』(2011)によると『パワー・アンド・ザ・グローリー』のジャケット・アートワークは『エイリアン』(1979)や『ブレードランナー』(1982)の監督リドリー・スコットだそうですが、どのようにして彼が関わることになったのですか?

当時マネージャーだったナイジェル・トーマスがリドリーと友人だったんだ。1970年代にジョー・コッカーやスプーキー・トゥースのマネージャーだった人で、顔が広かったんだよ。それでロンドンで私を交えて何度か食事をしたことがあった。そのとき「次のアルバムのジャケットをデザインしてくれない?」ということになったと記憶している。“史上最高のアルバム・ジャケットBEST 10”には入らないかも知れないけれど、良いアートワークだと思うよ。

●リドリー・スコットとは親しくなりましたか?彼はヘヴィ・メタルのファンでしたか?

数回食事をした程度で、ナイジェルが1990年代初めに亡くなったことで、連絡が途絶えてしまったんだ。友好的な関係だったし、アートワークを手がけてくれたぐらいだからサクソンの音楽を嫌いではなかったと思う。でも彼がヘヴィ・メタルを好きだったかは判らないな(笑)。

●『1492 コロンブス』(1992)のクリストファー・コロンブスや『グラディエーター』(2000)のローマ剣闘士など、彼の映画にはいかにも“サクソン的”な作品がありますが、あなた達からインスパイアされた可能性もあるでしょうか?

そうだったら光栄なんだけどね。それほど親密な仲というわけでもなかったし、影響を受けたりはしなかったと思うよ(笑)。

●「パワー・アンド・ザ・グローリー」はゴーストバスターズのような人々が城砦に突入するミュージック・ビデオも作られましたが、そちらにリドリー・スコットは関わっているでしょうか?

うーん、確かビデオは制作会社に作ってもらったんだ。当時フランスの“カレール・レコーズ”と契約していたし、彼らに任せていた。もし現場にリドリーがいたら覚えている筈だから、きっといなかったんだろうな。あの時点で彼のギャラを払えたとは到底思えないよ。

●「パイレーツ・オブ・ジ・エアウェイヴズ」は海賊ラジオを題材にしており、ラジオ・ルクセンブルグやラジオ・キャロラインのような海賊ラジオ局が歌われています。1981年の「デニム・アンド・レザー」でもBBCラジオの番組『フライデイ・ロック・ショー』について言及されていますが、1970年代末から1980年代初頭にかけて、ハード・ロック/ヘヴィ・メタル文化においてラジオはどのような役割を果たしていましたか?

ラジオは絶大な影響力を持っていたし、誰もが聴いていた。当時はトミー・ヴァンスやトニー・ブラックバーンのようなラジオDJの人気が凄まじくて、「ラジオを聴いていない奴はモグリだ!」みたく言われたものだ(苦笑)。私も十代の頃からベッドで布団を被って、日本製の小さなトランジスタ・ラジオで海賊ラジオ局を聴いていたよ。ラジオ・ルクセンブルグやラジオ・キャロラインを受信するのが大変でね。必死でダイヤルを合わせて、ノイズ混じりの放送に聴き入った。電波法でイギリス国内からオンエア出来ず、船で公海まで出ていたというのがロマンをさらに高めたんだ。何か反逆的な行為をしている気分だった。そんな少年時代のスリルを「パイレーツ・オブ・ジ・エアウェイヴズ」に込めたんだ。

●私は1970年代終わりから1980年代初めにかけて英語を学ぶようになって、『007』シリーズのロジャー・ムーア、モンティ・パイソンのジョン・クリーズ、『ナイル殺人事件』のデヴィッド・ニーヴンなどのブリティッシュな発音を理想としてきましたが、トミー・ヴァンスからも影響を受けました。ただ『フライデイ・ロック・ショー』は深夜だったので、主に夕方の『ブリティッシュ・トップ40』を聴いていた記憶があります。

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君が挙げた人達は全員私のヒーローでもあるよ(笑)。ラジオDJはただ曲をかけるだけの存在ではなく、グルー(導師)だったんだ。サクソンが『フライデイ・ロック・ショー』でかかったときは思わず大声を上げたよ。

●以前ブライアン・タトラーと話したとき、「『フライデイ・ロック・ショー』には功罪があった。ハード・ロックやヘヴィ・メタルのファンは毎週金曜の夜、ラジオにかじりついていたから、友達や女の子と出歩かない内向的な人々というイメージが定着してしまった」と言っていましたが、実際にラジオがメタル・ファンのオタク化に関わっていたのでしょうか?

こちらのインタビューをどうぞ)

それは部分的には事実だけど、ちょっと極論でもあるよね(苦笑)。みんな『フライデイ・ロック・ショー』を聴いて、終わってから近所のパブに繰り出していた。当時はジュークボックスが置いてあったし、その日流れた曲をおさらいしたり、友達と交流していたよ。他の曜日だって出歩いたしね。ロック・クラブもあったし...モーターヘッドやホワイトスネイク、そしてアイアン・メイデンやサクソンがラジオの他の番組でも流れて、リスナーに影響を与えたんだ。ロンドンの“マーキー”やノッティンガムの“ザ・ボート・クラブ”がそうだったように、ラジオも重要な情報の発信源だった。

後編記事では『ヘル、ファイアー・アンド・ダムネイション』をさらに掘り下げながら、ブライアン・タトラーとの長い交流、アメリカ市場への侵攻の軌跡などについて解き明かしてもらおう。

Saxon Japan Tour 2024フライヤー(ルビコン・ミュージック)
Saxon Japan Tour 2024フライヤー(ルビコン・ミュージック)

【公演日程】
SAXON Hell, Fire And Damnation
~天誅のヘル・ファイア~JAPAN TOUR 2024

◆2024年11月02日(土)
大阪・難波Yogibo META VALLEY
OPEN 18:00 / START 19:00

◆2024年11月03日(日)&04日(月・祝)
東京・代官山UNiT
OPEN 18:00 / START 19:00

http://diskheaven.shop-pro.jp/?pid=181839637

【最新アルバム】
サクソン
『ヘル、ファイアー・アンド・ダムネイション』
ルビコン・ミュージック 現在発売中
http://rubicon-music.com/

【アーティスト公式サイト】
https://www.saxon747.com/

音楽ライター

1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,300以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検1級、TOEIC945点取得。

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