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『ペンディングトレイン』で6号車の少年役。東宝の大型オーディションからデビューした11歳の素顔

斉藤貴志芸能ライター/編集者
(C)TBS

電車の車両ごと荒廃した未来にワープしたドラマ『ペンディングトレイン-8時23分、明日 君と』が佳境に入る。山田裕貴が演じる主人公たちと別の車両に乗り合わせていて、彼らの前に突然現れた小学生を演じているのが小谷興会だ。昨年、「東宝シンデレラ」と並ぶ形で開催された「TOHO NEW FACE」でグランプリとなった11歳。今作がデビューとなる。まだあどけなくも大器の片鱗を垣間見せる彼の素顔を探った。

泣き虫だったのが空手を始めて世界王者に

 京都出身で、興会(こうえ)という珍しい名前の小谷くん。

「自分では気に入ってます。いろいろなものに興味を持って、ものごとを興す。たくさんの人に出会ってほしい、という意味で付けられたと聞きました」

 11歳にして、すでにその通りの人生になってきているようだ。まず小学3年で始めた極真空手では、去年、今年と型の10歳、11歳部門にて2年続けて優勝。世界王者になっている。

「ずっと弱くて泣き虫だったので、強くなりたいと思って始めたんです。稽古は日曜以外は毎日行ってました。頭ではわかっていても体を動かせなかったり、苦労したときもありますけど、やめようと思ったことはなくて、乗り越えてきました」

 世界で2連覇するほどだと、人がやらないような練習もしたり?

「才能は全然ないので、人より数をこなして、同じ動作を何度も反復する練習をしてきました。家でも、お父さんにミットを受けてもらったり、素振りや筋トレをしていて。腕立てを30回3セット、ジャンピングスクワットを30回3セット、腹筋を50回1セットから、日によって決めてやっています」

「2023国際親善空手道選手権大会」より(東宝芸能提供)
「2023国際親善空手道選手権大会」より(東宝芸能提供)

怒られても落ち込まないで前向きに変えます

 空手を始めてから、普段の自身もガラッと変わったという。

「自分からグイグイ前に出るタイプではなかったんですけど、まず気持ちが強くなりました。怒られるとすぐ泣いていたのが、落ち込みすぎないで、前向きなイメージに変えることができるようになったと思います」

 そう語る小谷くんは、小学生ながら背筋がビシッと伸びた感じで、しっかりした口調で話す。そして、聡明さも感じさせる。

「勉強は普通の成績です(笑)。でも、そろばんも習っていて、頭の中でイメージできるので、掛け算とかはすごくやりやすいです」

 学校ではどんなタイプなのだろう。

「本当に普通です(笑)。あまりしゃべらない人でも、しゃべりすぎる人でもなくて。みんなで遊ぶことは好きで、まとめる係はたまにやっています」

 友だちと遊ぶときはどんなことを?

「中間休みに鬼ごっこをしたり、最近はサッカーにハマってます。実は球技はあまり得意でないんですけど、カンでとりあえず足を出してます(笑)」

大きな画面に自分が映されたらいいなと思って

 小谷くんがグランプリとなった「TOHO NEW FACE」は、1946年から1960年代後半にかけて行われた「東宝ニューフェイス」を引き継いだ俳優発掘オーディション。かつては三船敏郎、宝田明、佐原健二ら芸能史に残る名優を輩出している。

 小谷くんは家族と観に行ったアニメ映画『ミラベルと魔法だらけの家』の上映前に流れた募集告知を見て、「応募したい」と思ったという。

「シンプルに、自分もこんな大きい画面に映されたらいいなと思ったんです。それまで俳優になりたいと考えたことはなかったんですけど、テレビに出たいなというのはあって」

 演技の経験はなく、ドラマや映画もあまり観ていなかったそうだ。

「ただ、ジャッキー・チェンさんの映画はよく観ていました。お父さんの影響です。アクションもいいですし、真剣にやっているのに自然と笑えてくるのが好きでした。特に『ラッシュアワー』は面白くて、いまだに何回も見返しています」

 グランプリ発表の際には、共演したい人に吉沢亮と、極真空手の“世界一”の先輩でもある横浜流星を挙げていた。

「横浜流星さんは『(烈車戦隊)トッキュウジャー』でカッコいいと思いました。吉沢亮さんは『東京リベンジャーズ』のマイキー役を見て、演技もめっちゃうまいしアクションもできて、憧れました」

(C)TBS
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怖がりで夜は1人でトイレに行けません(笑)

 「TOHO NEW FACE」の審査では、「空手の試合で人前に立つのは大丈夫になりました」とのことで、緊張はしなかったという。一方、合宿審査中にはこんなエピソードも。

「ホテルで夜中に廊下で音がしたんです。僕は怖がりなので、ドアをガチャッと開けて外を見に出たら、ドアがバタッと(オートロックで)閉まってしまって。カギを持ってなかったから、『開かない! どうしよう?』と焦ってパニックになりました」

 結局、年上のオーディション出場者が偶然廊下にいて、「ロビーで言えば大丈夫だよ」と教えてくれたそうだが、空手の世界チャンピオンがそんなに怖がりとは(笑)。

「家でも夜は1人でトイレに行けません(笑)。お父さんかお母さんを起こして行ってます。暗いところが怖いというか、1人だと寂しくて(笑)」

 ともあれ、グランプリを獲る自信はあったり?

「自信はあまりなかったです。周りの人たちの演技が上手だったので。でも、審査や合宿をしていくうちに、賞は獲れないとしても全部やり切ったと思えました。後悔はなかったです」

初のドラマで緊張しましたけどワクワクも大きくて

 デビュー作となったドラマ『ペンディングトレイン-8時23分、明日 君と』。電車の車両ごと荒廃した未来にワープした物語で、優斗(赤楚衛二)と紗枝(上白石萌歌)が初めて会った乗客以外の人間、梶原将を演じている。

 実はワープしたもう1台の車両に母親と乗り合わせていて、未来に来た唯一の子どもでもある。演技に関しては、事務所に入ってからレッスンを受けていただけでの抜擢だった。

「レッスンで演技は難しいなと思っていました。役の人が何を考えていて、どんなことがあって、その台詞を言ってるとか、意識しないといけないことがいっぱいあって」

 初登場した4話で、森の中で優斗たちと不意に出会って逃げたときは、「あの少年は誰⁉」とインパクトを残した。

「撮影もあそこのシーンが最初でした。とても緊張しましたし、現場の雰囲気がわからなくて不安もありましたけど、ワクワクも大きかったです。山の中は空気が新鮮で、すごく開放感がありました」

変身ベルトを買ったことをお話ししました(笑)

 少年は川まで走り、「話を聞きたい」という優斗たちに「お母さんに話してくる」と言ったきり、長く待たせ、夜中になって自分たちの6号車に案内……という展開。

「スタッフの皆さんの数が多くて、1シーンを撮るのに何十人もの方が関わるのが、すごいなと思いました。台詞を間違えることはあまりなかったんですけど、監督から『動きが自然でない』と言われたりもして。学びがあって、すごく良かったです」

 記念すべきデビューシーンのオンエアは、撮影のために泊まっていたホテルで、1人で観たそう。

「すごくいろいろな角度から撮られていました。撮ったときは、お芝居はうまくいったと思いましたけど、自分で改めて見ると、改善するところがいっぱいあって。家族からは『初めてで有名な先輩方と演技ができて良かったね』と言われました。

 現場では周りがすべて大人という状況も、初めての経験だったはず。

「皆さんがやさしくしてくれたので、馴染めました。待ち時間にはみんなでクイズを出し合ったり、楽しかったです。赤楚さんには、僕が『仮面ライダービルド』を観ていて、変身ベルトを買ったこともお話ししました(笑)」

台詞と動きを同時に自然にできるように

 将は臆病で怖がりという設定。6話では2つの車両の争いを目の当たりにして、怯えているシーンもあった。

「自分と近い役です(笑)。普段の自分がしないことをやるところは、ほとんどありませんでした」

 もし実際にあの過酷な状況に置かれたら……とも考えたとか。

「ずっとパニクっちゃいそうです(笑)。あたふたして、すぐ助けを求めに行っちゃう感じになると思います」

 今回のドラマ撮影で、他に印象的だったことというと?

「車両が揺れて倒れるシーンがありました。実際には揺れてないので、自然な倒れ方をして、そこから起き上がるのが難しかったです。本当に揺れていたら、どう倒れるのか、すごく考えました」

 それにしても、上々の初演技だったのでは?

「台詞と動きを同時にやるとき、どっちかができても、もう一方が不自然になってしまうのは、監督によく注意されました。でも、撮影を重ねていく中で、自分が実際にそのシーンにいるのを想像できるようになったり、気持ちから変わってきました。この経験を次の現場に活かしたいです」

海外で日本と違う文化に触れたいです

 現在、小学6年生の小谷くん。『ペンディングトレイン』の撮影が終わると、小学校では最後の夏休みも近づいてくる。

「家族でどこかに旅行に行きたいです。できたら海外に行きたくて。いつも日本にいると空気が同じで、考え方もひとつに固まってしまう気がするんです。海外に行くと文化が違っていて、すごく面白いです」

 やはり11歳にして、意識が高い感じ。

「昔、グアムや韓国に行ったことがあります。韓国ではキムチがすごく酸っぱくて、日本と全然違っていました(笑)。今度はハワイかアメリカに行きたいです。まず海で泳ぎたいのと、一番よく聞く外国なので、一度は行ってみたくて」

 今ドキの小学生は、すでにグローバルな感覚を持っているのだろうか。もしかして、ゆくゆくは仕事でも海外で活躍することを考えていたり?

「はい、考えてます。アクションでも演技全般でも、海外の作品に出たいです」

 空手仕込みのアクションは楽しみ。そう言えば、今回の取材で何度か出たが、小学生男子としては、仮面ライダーやスーパー戦隊も好きなのだろうか?

「好きです。特にハマったのは『仮面ライダーエグゼイド』でした。ゲームの世界で仮面ライダーが活躍するのが面白いなと思いました。戦うお話は好きなので、自分も出て変身したいです(笑)」

テレビで楽しんでもらえる人になれたら

 1年前の夏は、まだオーディションを受けている普通の小学生だったが、今は「すごく意識が変わりました」と話す。

「仕事を始めてからドラマに興味が強くなって、映画も観る視点が変わりました。『この人の演技はすごいな』と思ったり、『ここはどうすれば自然に見えるかな』と勉強したりしてます」

 特に参考になった作品も?

「『東京リベンジャーズ2』の『運命』です。カメラへの映り方がすごく面白くて。たとえば殴るシーンを後ろから撮って、顔を反らすタイミングと当てるタイミングをこう合わせているんだ……と思って見てました」

 すでにプロの見方になっている様子の小谷くん。未来のスターを期待させるが、自分では10年後の姿など思い描いているだろうか?

「テレビにたくさん出て、楽しんでもらえる人になっていたらいいなと思います。ドラマだけでなく、『ドッキリGP』や『格付けチェック』にも出たくて(笑)。しゃべるのはあまり得意でないですけど、いろいろなことに挑戦していきたいです」

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Profile

小谷興会(おだに・こうえ)

2011年7月15日生まれ、京都府出身。

2022年に「TOHO NEW FACE」オーディションでグランプリ。放送中のドラマ『ペンディングトレイン-8時23分、明日 君と』(TBS系)でデビュー。

『ペンディングトレイン-8時23分、明日 君と』

TBS系/金曜22:00~

公式HP

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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