組織風土改革の実現のために必要だったのは、リーダーからの「お叱り」だった!
「組織風土」とは何か?
組織風土を変えたい、組織風土を改善させたい、というニーズはどこの企業にもあるもの。
優秀なメンバーで構成されながらも、正しい意思決定ができなくなることを、「集団思考」「グループシンク」と表現します。実体のないこの「組織風土」という名の空気によって、組織が実力以上の成果を上げることができたり、反対に本来のポテンシャルを下回るような結果しか出せないこともあるのです。
特に社員の価値観が多様化する現在において、組織を一枚岩にするためには「風土」を良好に保つことがとても重要です。
それではこの「組織風土」とは何でしょうか? 簡単に解説しますと、組織構成員・メンバーの平均的な価値観のことです。人の価値観や思考パターンは、過去の体験の「インパクト×回数」でできています。したがって、歴史のある企業の「組織風土」ほど、変えようと思っても一筋縄ではいきません。
組織の共通価値観を測る
「風土」とは空気のような組織の価値観ですから、明確なものがありません。そこで共通の価値観を推し量るには、メンバーが「しっくり」くるかどうか、違和感を覚えるかどうかを観察します。
たとえば、外部のコンサルタントである私が、
「始業時刻までに、会社に来ているのはあたりまえですよね?」
と問い掛けたとき、「しっくり」くるかどうか? で考えてみましょう。考えるまでもなく「あたりまえ」「そりゃそうでしょう」と答える人が多ければ、会社の始業時刻までに会社に出社する「風土」ができあがっています。「その時間までに出社できないこともある」「たまに遅刻する人がいるが、特に叱られたりしてないな」と答える人が多ければ、会社の始業時刻までに会社に出社する「風土」ができあがっていません。
次に、
「会議の開始時刻までに、会議室に来ているのはあたりまえですよね?」
と問い掛けたとき、「しっくり」くるかどうか? で考えてみましょう。考えるまでもなく「あたりまえ」「そりゃそうでしょう」と答える人が多ければ、会議の開始時刻までに会議室に来ている「風土」ができあがっています。「会議にもよるかな。経営会議では遅刻する人はいないけど、課長の会議はそうでもないかも」とか「たまに会議に遅刻する人がいるが、特に叱られたりしてないな」と答える人が多ければ、会議の開始時刻までに会議室に来ている「風土」ができあがっていません。
次に、
「上司から言われた資料を、期限までに提出するのはあたりまえですよね?」
と問い掛けたとき、「しっくり」くるかどうか? で考えてみましょう。考えるまでもなく「あたりまえ」「そりゃそうでしょう」と答える人が多ければ、上司から言われた資料を、期限までに提出する「風土」ができあがっています。「どんな資料か、にもよるかな。緊急のものだったらそうだけど」とか「ケースバイケースでしょう。期限を守らなくても、特に叱られたりしないし」と答える人が多ければ、上司から言われた資料を、期限までに提出する「風土」ができあがっていません。
次に、
「会社から言い渡された目標を、絶対達成するのはあたりまえですよね?」
と問い掛けたとき、「しっくり」くるかどうか? で考えてみましょう。考えるまでもなく「あたりまえ」「そりゃそうでしょう」と答える人が多ければ、会社から言い渡された目標を絶対達成する「風土」ができあがっています。「目標にもよるでしょう。逆立ちしたってできないような目標なら、絶対達成とか言われるとかえって引く」とか「目標はあくまでも目標であって、達成できるかどうかはわからない。達成できなかったからといって、うちの組織では誰も叱らないし」と答える人が多ければ、会社から言い渡された目標を絶対達成する「風土」ができあがっていません。
組織風土を改革するのはリーダーしかいない
前述したとおり「組織風土」が良好でない組織は、「あたりまえ」にしたい価値観、常識観から逸脱したことが起こっても「誰からも叱られない」という現象が起きています。ということは誰かからの「お叱り」があれば、風土は変わっていく、ということなのです。
組織風土が良好でない、もしくは悪くなっている場合、メンバーの自主性は低いレベルにあります。したがって相互で注意し合おう、声を掛けあおうだなんて呼びかけても、主体的に動くメンバーは少数でしょう。全員が「誰かがやってほしいけど、私はいやだ」と思っています。ということは、組織のリーダーがやるしかないのです。
組織風土改革の成否は、すべてリーダーにかかっています。他人の顔色をうかがうような人物ではなく、少々鈍感で、曲がったことが嫌いなリーダーでなければ、淀んだ空気を、美しい空気にリフレッシュさせることなどできません。
人の思考パターン、価値観を変えるには、体験の「インパクト×回数」が必要だと書きました。しかしこの場合、重要視するのは「回数」です。インパクトのある「お叱り」をするのではなく、「お叱り」の量を増やすのです。
「なぜ会議に遅れてきた? 次回からは遅れてこないように」
「会議には遅れてくるなと言っただろう? 言い訳をするな。絶対に会議には遅れてくるな」
「会議には遅れてくるな。何度でも言う。君以外、全員時間を守ってるんだ。わかったか。言い訳はするな」
なぜこんな小さなことを言わなくてはならないのか、それぐらい言われなくても自分で考えてやれよ、とリーダーは思ってはいけません。淡々と「お叱り」を続けます。誰もが当然のことだと思っているからこそ、「リーダーに何度も言わせるなんて」「部長に言われなくても、いい加減、守ってほしい」と考える人が組織の中で多数派を形成しはじめます。そうすると空気が変わってきます。
「ちょっと! 今日は会議に遅れないでよ」
「そうだよ。会議の開始時間ぐらい守れよ。ちょっと気を付けるだけじゃないか」
……と、周囲も口にしはじめます。口にはしなくても、そういう目で、見るようになるのです。本人も、(やばいな。ちょっと最近、ゆるんでるかも)と反省することでしょう。緩んでいた空気が、少し引き締まると、
「庶務のAさんから依頼されている資料、提出期限は金曜日だ。絶対に守れよ。いいな」
と、言うぐらいで「期限守らなきゃ」「期限を守らないと、またお叱りを受けそう」という空気が広がります。あたりまえのこと、常識のことですから、「期限守れないときだってあるよ」という思考ノイズに惑わされるメンバーは少なくなっていることでしょう。
「組織風土」を改革するためには、まずリーダーの「お叱り」を増やすことです。手順はハードルの低いことからです。会議時間を守る、資料の提出期限を守る、報告・連絡・相談を定期的にやる、組織の共通目標を達成させる……。順々に「あたりまえ」にしていくことです。半年から1年という、少し長いスパンで考え、「組織風土改革」を実現させましょう。