韓国人が抱く“イチローへの愛憎心”を変える人間・鈴木一朗の努力と涙
メジャーリーグ通算3000本安打を達成したイチローの快挙は、韓国でも多くのメディアで報じられている。
「イチロー、ついにやり遂げた…通算3000安打達成」(『MKスポーツ』)
「イチロー、メジャー30人目、アジア最初の3000本安打達成」(『韓国経済新聞』)
「安打の達人イチロー、MLB歴代30人目の3000本安打達成」(『韓国スポーツ』)
6月に日米通算4257本安打を達成したときも、各メディアが大きく報じたが、今回の3000本安打達成のニュースも関心事になっているわけだ。
意外だったのは皮肉屋で口うるさい韓国のネットユーザーたちの反応だ。「アジアの希望であり自慢だ。すべての韓国選手たちが見習うべき生きた伝説」というものもあったという。
(参考記事:“アジアの希望であり自慢”と韓国ネット民も絶賛する、イチロー3000安打達成)
韓国でのイチローと言えば、何かとアンチ・ファンが多いことは以前も紹介した。単にイチローが日本人選手だからではない。
同じ日本人でもテキサス・レンジャースのダルビッシュ有は韓国のネット住民たちから「ダルビッシュは骨のある男」だと絶賛させているし、6月に来日して日本で講演会を開いた韓国人初のメジャーリーガーであるパク・チャンホ氏は、「野茂選手は私にとって、メンター(仕事や人生の指導者)であり、目標であり、憧れなのです」とさえ語っている。韓国球界には日本を意識しつつ、リスペクトする空気が確かにある。
(参考記事:韓国人メジャーリーガーの先駆者パク・チャンホが語った「アジアから世界へ」)
ただ、第1回WBCでの「30年発言」を機に、韓国人の多くがイチローについてだけはどこか複雑な感情を抱いてきた。今から約3年前にイチローが日米通算3000本安打を達成したとき、筆者は韓国にいたが、そのときもテレビをつけるとスポーツニュースの女性キャスターもこう言っていたとほどだ。
「韓国とは何かと悪縁多いイチローですが、それでも今日だけは拍手を送りましょう」
日米通算4257本安打を達成したときも、その記録が日米合算をチクリと指摘するかのように「“計算はしっかりやりましょう”イチロー4257安打論乱」(『朝鮮日報』)もあった。
だが、今回はそうした皮肉に満ちた論調が今のところ見当たらない。「イチロー、歴代最高の安打王であることを証明する“三つの数字”」(『SPOTV NEWS』)、「集中分析!!伝説を作った数字で見るイチローの伝説」(『スポーツ韓国』)など特集記事も組まれている。
「東洋人打者の偏見を割ったイチロー、終わりなき努力の結実」と題された通信社『NEWSIS』の記事の中で、「イチローは自分に厳しい選手だ。40歳を過ぎても現役でいること自体、凄い。それは彼のこれまでの努力と根気強さの結晶」と評価していたのは、野球解説者のソン・ジェウ氏だ。
1998年からメジャーリーグ中継解説者を務めるソン・ジェウ氏は、メジャーリーグ解説はもちろん、ラジオ番組、新聞連載なども多数。韓国で最も有名な野球解説者のひとりとされており、影響力もある。以前、韓国人が抱くイチローの複雑な感情について直接聞いたとき、ソン・ジェウ氏はこんなことも言っていた。
「韓国人は野球人イチローは認めている。ただ、30年発言もあって人間イチローは受け入れらない。ただ、そろそろ韓国人は人間イチローも認めるべきでしょう。自分が定めた目標に対して、ただひたすら努力を続けてきたイチローから、韓国人が学ばなければいけないことは多い。自分との約束を守り続ける人生。それが鈴木一朗だと思うんです」
韓国人にとって、イチローは愛憎の対象だった。憎たらしいが、偉大すぎて認めずにはいられない男だった。だが、今やそうした複雑な感情は薄れつつあるのかもしれない。
(参考記事:「憎たらしいが偉大すぎる」韓国が抱くイチローへの愛憎)
『ヘラルド経済』ではイチローがベンチで涙を見せたことをクローズアップしながら、「彼が流した涙は3000本安打達成までの数多くの努力によるものだ」と賞賛している。
その記事のタイトルになっていたのは、「3000安打イチロー、涙を隠そうとゴーグルを使った“真の男の涙”」だった。
頑固で執着心が強い韓国人の心を動かしたのは、ほかでもなくイチローである。彼が打ち立てた記録と、その記録達成までに続けてきたたゆまぬ努力が韓国人の心を動かしたのではないだろうか。
この事実は限りなく大きい。やっぱりイチローは凄い。偉大だ。