「嘘つき」発見器ではなく、事実と意見の違いを学ぶ ノルウェーのファクトチェック団体(2)
偽ニュースが事実かどうかを調査するノルウェーのファクトチェック団体「ファクティスク」。
調査対象はどのように選ばれているのだろう?
「地球はどのような形をしているか。これはファクトチェックできます。しかし、『ノルウェーで移民を受け入れるべきか、否か』は意見なので、チェックできません。この両者の違いは、実は人によっては判断が難しい。特に、いろいろな意見がある政治においては」と、代表のクリストッフェル・エーゲバルグ氏は話す。
ファクトと意見の違いを学ぶ
チェック対象となる条件は、「みんなが話していること」や、SNSなどで今議論になっていることだと同氏は話す。
「私たちは、そのテーマが『間違っているか』、『正しいか』という自己判断ではスタートはしません。正しいかどうかは、チェックしてから判明すること。自分の先入観を捨て、オープンマインドであることが必要とされます。間違っていることを証明しようとすると、オープンな議論ができなくなってしまいますから」。
アメリカとノルウェーの違い
「アメリカのファクトチェックでは、『嘘つきかどうか』という『ピノキオの長い鼻』が物差しとなっています。これは、相手への礼儀正しさに欠けていて、ノルウェーには合いません」。
「誰かを嘘つき呼ばわりする個人攻撃の形では、相手が意識的に嘘をついたのか、ただ単にそのことを知らなかったのか判断が難しくなります。ピノキオの長い鼻のようなシンボルは相手に対して丁寧ではないし、議論やコミュニケーションをハードにさせます。私たちは議論をハードよりも、ソフトにしたい」。
ノルウェー版ではもっとクリアにわかりやすくなるように、別の物差しを採用したと語るエーゲバルグ氏。
- 緑色 「実は、完全に真実」
- 黄色 「実は、一部が真実」
- 灰色 「実は、よくわからない」
- オレンジ色 「実は、一部が間違い」
- 赤色 「実は、完全に間違い」
浸透すれば色だけでわかるように、5種類の基準に分別。この単純な構造は、偽ニュースに似ていると同氏は説明する。
大きな文字が目立ち、実際は記事はクリックされることが少なく、Facebookに流れるだけの偽ニュース。
ノルウェーで最も使用率が高いFacebookがこの国では意識されているが、日本の場合であればTwitterに合わせたデザインが必要とされるかもしれない。
偽ニュースには動画も多いため、ファクティスク団体では動画への取り組みも力を入れていく予定だそうだ。
こうしてファクトチェックがされる
同社のファクトチェックは毎日このような経緯で起きる。
- 社内ではメンバーが今話題となっていることを常にチェックして、調査対象をピックアップ
- ソースである本人に必ず確認し、「本当にそのように発言をしたのか」を再確認。「なぜそう断言するのか、データや書類はあるか」も確認する
- 独自に調査開始
- 調査後は、社内のメンバーで話し合い、本当に十分に調べたかを問う
- 徹底的に調査をして、「完了」と判断するまでに数日間かかることも
- ソースである本人に再び連絡し、調査結果を伝え、それに対してコメント・反論するチャンスを提供する
- ファクトチェックの結果を掲載。各報道機関やSNSを通じて、一気に拡散させる
第一発言者と読者に対するノルウェー流「礼儀正しさ」
掲載前に本人に弁明する機会を与えることは重要だと、エーゲバルグ氏は強調する。
「読者は、『なぜ、あなたはそう言ったのか』と疑問に思っているでしょうから。これは第一発言者と読者の両方に対しての礼儀正しさだと考えています」。
なぜ団体がその結果に至ったかを詳しく知りたい人は、公式HPに飛ぶと、調査過程が詳細に公開されている。
偽ニュースに追いつくために、すぐさま拡散させる手段とは
驚異的なスピードで拡散される偽ニュースに対抗するために、事実も同じくらい・それ以上のスピードで、拡散される必要がある。
そのため、団体のチェック結果は全公開し、SNSや一般ブログなどで簡単に・自由に・無料で、埋め込み・使用することが可能だ。
この結果だけではなく、団体が使用するプラットフォーム(投稿画面)なども公開されており、国内外の団体が利用することも許可している。
「無料で使用していいのか」と、よく驚かれるというエーゲバルグ氏。
「無料で提供しているから、この活動では金銭的に稼ぐことは難しく、援助が必要になります。偽ニュースに対抗するためには、結果はみんなに読まれないと、意味がない」。
これまでは、新聞社の完成した記事が、どういう経緯で取材され、その内容になったのかを読者は知ることはできず、ジャーナリズムは有料とは限らなかった。
その意味では、「ファクトチェックは伝統的なジャーナリズムではない」と同氏は話す。
ノルウェーのファクトチェック団体(3)に続く
Text: Asaki Abumi