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空気階段が逆境を乗り越えて『キングオブコント2021』で優勝した理由

ラリー遠田作家・お笑い評論家

昨年10月に行われたコント日本一を決める大会『キングオブコント2021』は「史上最高レベルの激戦」と言われた。過去最多の2015組の出場者の中から厳しい予選を勝ち抜いた10組のファイナリストが、ハイレベルなネタを次から次へと披露して、会場を爆笑の渦に巻き込んだ。

そんな中で優勝を果たしたのは、鈴木もぐらと水川かたまりの2人から成る空気階段だった。彼らは2012年にコンビを結成して以来、コントを専門にしてライブ中心の活動を続けてきた。

だが、最初のうちは全く芽が出なかった。外見も芸風も地味な彼らのネタは、若い女性中心のライブの客層には刺さらなかった。しかも、彼らがデビューした当時はテレビでもネタ番組がほとんどなく、無名の若手芸人がメディアに出る機会はほとんどなかった。当時は若い女性客から「虫」のような扱いを受けていて、まともにネタも見てもらえなかったと本人たちは振り返っている。

それでも、八方塞がりの状況でネタを磨き続けているうちに、数少ないチャンスを着実にものにしていった。徐々にネタ番組に呼ばれるようになり、ラジオのレギュラーも始まった。

それと並行して、多額の借金を抱え、ギャンブルに溺れ、遅刻を繰り返すもぐらが「クズ芸人」として注目されるようになり、多くのバラエティ番組に出演した。荒れ放題の家で怠惰な生活を送ってきたもぐらは「ネズミしかかからない病気」にかかったこともあったという。

一方のかたまりは何でも母親の言う通りにする極度のマザコンとして知られ、同級生に岡山なまりをからかわれたことが原因で大学を中退してしまったほど傷つきやすい繊細な性格でもある。不器用な2人が演じるコントは、笑いの中にせつなさを感じさせるものが多く、そこが人気を博している。彼らは地道にコントの腕を磨き続けたことで、昨年ついに日本一の称号を手にすることになった。

いまや結婚して二児の父となったもぐらは、ギャンブルから足を洗い、借金の返済に手をつけ、少しずつ更生の道を歩み始めた。地味で繊細な2人が栄光への階段を上り始めている。

作家・お笑い評論家

テレビ番組制作会社勤務を経て作家・お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など、多岐にわたる活動を行う。主な著書に『松本人志とお笑いとテレビ』(中公新書ラクレ)、『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと『めちゃイケ』の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)、『なぜ、とんねるずとダウンタウンは仲が悪いと言われるのか?』(コア新書)、『M-1戦国史』(メディアファクトリー新書)がある。マンガ『イロモンガール』(白泉社)では原作を担当した。

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