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ワールドカップ恒例の“魔のジンクス”再び…非常事態の韓国サッカーがすがるのは?

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
(写真:ロイター/アフロ)

ロシア・ワールドカップの開幕を待たずして、サッカー韓国代表が非常事態に直面している。これまでチームの主力だった選手たちが相次いで負傷しているのだ。

2か月足らずで主力5人が故障離脱

最初の負傷者はディフェンス陣からだった。3月の欧州遠征で右サイドバックのキム・ジンス(全北現代)が左ひざの内側靭帯を負傷。4月になると、かつてドイツ・ブンデスリーガでもプレーしたCBのホン・ジョンホがハムストリングを痛め、5月になるとKリーグ・ベストイレブンにも輝いたCBのキム・ミンジェ(全北現代)が脛骨骨折で戦線離脱した。

その1週間後には、Kリーグ歴代最多アシスト記録保持者で頼れるベテランでもある左サイドのスペシャリストのヨム・ギフンが肋骨を骨折。事態を重く受け止めたシン・テヨン監督は予備エントリーメンバー5名を含む28名でロシアの準備を始めることにしたが、最近になってさらに深刻な事態を迎えている。

(参考記事:サガン鳥栖チョン・スンヒョンも抜擢。韓国がロシアW杯メンバーに「5人追加」した背景とは)

期待の注目株と頼れるベテランも離脱

国内合宿を始めようとしていた矢先の5月20日に、右サイドの主力で今大会期待の注目株だったクォン・チャンフンが負傷してしまったのだ。

2017年1月からフランスのディジョンでプレーするクォン・チャンフンは今季、リーグ戦33試合出場11得点3アシストを記録するなど好調を維持していたが、あろうことかリーグ戦最終節で右足アキレス腱破裂の大けがを負ってしまい、ロシア行きを断念せざるを得なくなった。

そして昨日5月22日には、かつて日本のJリーグでも活躍したFWイ・グノが戦線離脱。イ・グノは21日から始まった合宿に合流していたものの、5月19日のKリーグ第14節で右ひざ内側靭帯を痛めて全治6週間の診察を受けて、代表合宿から去ることになってしまったのだ。

キム・ジンスはなんとか回復して最終エントリーメンバーに滑り込んだものの、この2か月足らずで実に5人の主力がケガに見舞われてしまった悪夢の連続。「韓国がロシアに盛り上がれない3つの理由」(『スポーツ・ソウル』)といったネガティブ記事が出回るほどだ。

繰り返されてきた“魔のジンクス”

もっとも、長く韓国サッカーを取材してきた立場から振り返ると、韓国サッカーがワールドカップ開幕直前にケガで主力を欠くのは今回が初めてではない。

例えば1998年フランス大会直前には、当時のエースだったファン・ソンホンが中国代表との壮行試合で右ひざ十字靭帯を痛めているし、2006年ドイツ大会の2か月前には、ストライカーのイ・ドングッがKリーグの試合中に右ひざ十字靭帯断裂の大ケガを負った。

2010年南アフリカ大会前には直前のオーストリア合宿でDFクァク・テヒが左ひざ靭帯を負傷。2014年ブラジル大会前には、当時アルビレックス新潟に所属していた前出のキム・ジンスが、右足足首を負傷して泣く泣くブラジル行きを断念している。ワールドカップ開幕前に主力が故障離脱することは、韓国サッカー界定番の“魔のジンクス”でもある。

ただ、それでもさすがに5名は多いと言わざるを得ない。韓国がロシア・ワールドカップで属するのは、スウェーデン、メキシコ、ドイツと対戦する“死の組”であることもあって、国内の期待値はもともと高くはなかったが、相次ぐ主力の離脱でさらに絶望感が増している状況だ。

(参考記事:「3戦全敗はない」!? 自国の専門家10人が予想した韓国代表“ロシアW杯の成績表”とは)

期待寄せられる“韓国のメッシ”

それゆえに、わずかな望みにすがり期待を寄せる声も出てきている。その望みを託されているのは、今や韓国代表のエースに成長したソン・フンミンだが、にわかに大きな期待を集めているのは“韓国のメッシ”である。

FCバルセロナのカンテラ育ちで、今季からイタリア・セリエAのベローナに所属。5月6日のACミラン戦で待望のセリエA初ゴールを決めたイ・スンウのことだ。今年1月で20歳になった“韓国のメッシ”に、メディアやファンたちは大きな期待を寄せているのだ。

(参考記事:生意気?礼儀知らず?自分勝手? “韓国のメッシ”イ・スンウの意外な素顔)

ちなみに、韓国のワールドカップ最年少出場記録は、1998年フランス大会でイ・ドングッが記録した19歳と約2か月。そのほかにも、ホン・ミョンボが21歳で1990年イタリア大会を経験しているし、パク・チソンが大ブレイクするキッカケとなった2002年大会は彼が21歳のときだった。前回ブラジル大会では、当時23歳だったソン・フンミンがチーム最年少だった。

イ・スンウがロシア・ワールドカップに出場すれば、韓国サッカー史上2番目の若さ(20歳と5か月)でワールドカップのピッチに立つことになる。ケガ人続出の今、その可能性はかなり高まったというのは複雑でもあるが、もはやそこに一縷の望みを見出すしかないというのが韓国サッカーファンたちの心情なのだろう。

いずれにしても“魔のジンクス”に襲われ、ますます窮地に立たされている感が否めない韓国サッカー。韓国では「危機は機会だ」とよく言うが、それが強がりにならなければいいのだが……。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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