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英サッカー専門誌が選んだ「アジア最高の選手」ソン・フンミンとはどんな選手?

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
ソン・フンミン(写真:ロイター/アフロ)

韓国サッカー界のスーパースター、ソン・フンミン(25歳)がにわかに話題らしい。イギリスのサッカー専門誌『FourFourTwo』が実施した「アジア人選手ベスト50」で堂々の1位に輝いたことがそのキッカケだという。

韓国では異彩を放つ経歴

筆者は2008年にスタートした『FourFourTwo』韓国版で創刊号からゲストエディターとしてコラムを連載してきたが、韓国でも話題だ。ソン・フンミンは2015年にも1位に輝いており、昨年はドイツのサッカーメディアでも「アジア人選手としてもっとも価値ある選手」に選ばれている。今や誰もが認めるアジア最高の選手になったと言えるだろう。

(参考記事:ソン・フンミンは香川真司より価値が高い?ドイツの専門サイトが韓国の欧州組の市場価値を算定)

ただ、このソン・フンミン。実はかなり異例の成長過程を過ごしていることをご存知だろうか。

例えば少年時代は学校サッカー部にもクラブチームにも所属せず、父親から個人レッスンを受けながらサッカーを始めている。元Kリーガーである父から基本やテクニックを学び、実戦経験はフットサルで積みながら育ったのである。

また、KFA(韓国サッカー協会)が2000年〜2008年まで実施した「優秀選手海外留学プログラム」出身者でもある。

同プログラム出身者としては、ソル・ギヒョン(2002年ワールドカップ・メンバー)、チョ・ヨンチョル(元大宮アルディージャ)などがいるが、ソン・フンミンはその最後のメンバーだった。高校こそ名門・東北(トンプック)高校に通ったが、韓国では大学もKリーグも経験していない。つまり、韓国生まれで欧州育ちのプレーヤーなのだ。

取材撮影時の逸話と人柄

そんなこともあって、思考も合理的だ。以前、前出の『FourFourTwo KOREA』の仕事でソン・フンミンの取材撮影に立ち会ったときがあるが、開始時間をキッチリ守り、カメラマンの要望にもテキパキと応えていく。性格も明るく真面目で、ときおりユーモアたっぷりな冗談も口にする好青年だ。

それだけに韓国でも人気者で、芸能人との熱愛説もしばし持ち上がってきた。2014年7月には人気アイドルグループGirls Dayのミナ、2015年11月には人気女性アイドルグループのアフタースクール出身で現在は女優兼タレントとして活躍しているソヨンとの熱愛説も持ち上がった。

特にソヨンとはデート現場をパパラッチされて大きなニュースになったが、ふたりは2016年1月に破局している。

なんでもソン・フンミンの父親が「女性と会うよりも選手生活に忠実になれ」と雷を落としたとか、いないとか。

いずれにしても今はイギリスで独身生活を送っているのだが、昨年10月に話を聞いたパク・チソンによると、よく一緒に食事をするという。「僕の自宅で一緒に韓国料理を食べることもあります」と語っていた。

パク・チソンが語るソン・フンミン

そんな偉大な先輩のアドバイスもあってか、今季は今季プレミアリーグで12得点4アシストを記録中。これにFAカップの2得点、ヨーロッパ・チャンピオンズリーグでの4得点を加えると、合計18ゴール。かつてマンチェスター・ユナイテッドでプレーしたパク・チソンが持っていたアジア人歴代最多得点記録も更新してしまったのだから、ますますこれからが楽しみだ。

パク・チソンも先日、韓国メディアの取材で、「フンミンは今、世界中のどのクラブも欲しがる選手に成長した」と語って目を細めていた。

(参考記事:英雄パク・チソンが語るロシアW杯。「韓国はラッキー」「マンUもソン・フンミンに興味」)

兵役問題と“最悪のシナリオ”

ただ、ソン・フンミンがその選手キャリアをさらに輝かせるためには、ピッチ外で解決しなければならないことがある。兵役問題だ。

韓国では成人男子に約2年間の兵役義務があり、この兵役義務を終えてしなければ海外での就労どころか渡航も制限されている。

男子ゴルフ界のスター選手であるペ・サンムンが、兵役のために主戦場としていたアメリカ・ツアーを中断し、帰国して一般兵として兵役についたことは記憶に新しいだろう。

満29歳6カ月までに入隊しなければならないという韓国の兵役法に基づけば、1992年7月生まれのソン・フンミンに残された時間は決して多くはない。

アジア大会やオリンピックでメダル獲得なら兵役免除の恩恵にあずかれるが、韓国が銅メダルを手にした2012年ロンドン五輪には招集されず、韓国が金メダルに輝いた2014年アジア大会では所属するトッテナムからの許可が下りず参加できなかった。

2018年アジア大会や2020年東京オリンピックなどもあるが、そこでメダル獲得が保証されているわけでもなく、その機会すらも逃してしまえば最悪の場合、欧州から韓国に戻らねばならないどころか、サッカーボールを蹴る代わりに銃を手にしなければならなくなるかもしれないのだ。

(参考記事:リオ五輪ピッチに泣き崩れたソン・フンミンの涙のワケと“最悪のシナリオ”)

それは想像もしたくはない“最悪のシナリオ”でもあるが、いずれにしても今や韓国だけではなく、名実ともにアジアを代表するストライカーとなったソン・フンミン。

2か月後に迫ったロシア・ワールドカップでも、韓国代表のエースとして注目を集めることは間違いないだろう。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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