「尹錫悦対金正恩」の強面同士の対決で危険な朝鮮半島! 南北の「先制攻撃」応酬!
朝鮮半島がキナ臭くなってきた。韓国と北朝鮮の国防トップが「先制打撃」「先制攻撃」を口にし、相手を威嚇し始めたからだ。
北朝鮮が極超音速ミサイルに続き、中距離弾道ミサイル「火星12」、大陸間弾道ミサイル(ICBM)を連射し、レッドラインを越えたことに態度を硬化させた韓国国防部の徐旭(ソ・ウク)長官が「北朝鮮のミサイル発射兆候が明確ならば先制打撃する」と口火を切ったのが1日。この発言に北朝鮮軍No.1の朴正天(パク・ジョンチョン)党中央軍事委員会副委員長(元軍総参謀総長)が即座に反応し、「仮に韓国軍が誤判し、我が国家を相手に先制打撃のような危険な軍事的行動を行った場合、我が軍隊は容赦なくソウルの主要標的と韓国軍を壊滅することに総集中する」と応酬してみせた。
北朝鮮は金正恩(キム・ジョンウン)総書記の実妹である金与正(キム・ヨジョン)党副部長も「韓国軍部が我々に対して深刻なレベルの挑発的刺激と対決意志を示した以上、私も委任を受け、厳重警告する」と前置きし、「惨事を招きたくなければ、自粛せよ」と、韓国に警告を発していた。
南北ともに先制攻撃の能力もあり、備えもできている。後は、有事の際の最高指導者の意思の問題である。韓国の尹錫悦(ユン・ソクヨル)次期大統領は大統領選挙期間中に「北朝鮮は主敵である」と断じ、北朝鮮のミサイルを防ぐには「先制打撃しかない」と公言してきた。
韓国には朴槿恵(パク・クネ)政権下の2013年に北朝鮮の核·ミサイルなど大量破壊兵器を追跡し、挑発兆候を探知した後、30分内に先制攻撃することを定めた「キルチェーン」計画がある。作動させれば、発射地点だけでなく、指揮・支援施設(指導部)も攻撃のターゲットとなる。
韓国軍はこれまで米軍と共に「5015」というコードネームの作戦計画に基づいて北朝鮮の核・ミサイル基地への攻撃に加え、首都の平壌の攻略と金総書記ら最高司令部の除去に向けた上陸作戦を含む全面戦争も想定した攻撃的な訓練を実施してきた。この作戦計画には韓国軍の「キルチェーン」の概念も反映されている。
米国との間で行われた2014年夏の合同軍事演習では北朝鮮の核とミサイルをいかに除去、無力化するかの訓練が行われ、2015年夏の合同訓練では各種最新兵器を動員して、北朝鮮の反撃意思を挫く演習が行われた。さらに2016年春の合同訓練では北朝鮮の核・ミサイル基地への制圧作戦と特殊部隊による金総書記ら指導部の除去を目指す「斬首作戦」遂行に向けての上陸訓練も行われた。
北朝鮮がミサイルを発射する前に予め軍事的に対応し、被害を予防することは先制攻撃ではなく、自衛権に基づく対応と韓国軍はみなしている。「挑発の兆しがあれば」との前提条件は付けているものの人の喧嘩に例えるなら殺気を感じれば先に手を出して叩いてしまうという概念だ。
一方、北朝鮮も「先制攻撃も辞さない」と再三表明している。
地雷事件で米韓と一触即発となった2015年8月に始まった米韓合同軍事演習時には人民軍総参謀部は「我々の自主権が行使される領土と領海、領空へわずかでも侵略の兆候が見える場合、容赦なくわが式の核先制打撃を浴びせ、挑発の牙城を灰の山にする」と韓国を威嚇していた。
人民軍最高司令部は2016年2月23日には「5015作戦計画」に基づく米韓合同軍事演習に対抗して発表した重大声明で「先制的作戦遂行に進入する」として第一次攻撃対象を青瓦台(韓国大統領府)と政府統治機関、第二次攻撃対象をアジア太平洋地域の米軍基地と米本土に定めていた。金総書記も翌3月には「(我が)首脳部と体制崩壊を企てる斬首作戦を騒ぎ立て、特殊作戦武力と核殺人装備を我々の目と鼻の先に突き付けている以上、我々の軍事的対応は不可避となった。これからの(我々の軍事対応)は先制攻撃にすべてシフトする」と命じていた。
北朝鮮には2012年8月に承認された「7日戦争作戦計画」がある。「7日戦争作戦計画」に基づけば、北朝鮮は序盤に機先を制すため初日にソウル、京畿道、義政府、水原に向け集中砲火し、核ミサイルで韓国を圧倒し、ソウルを3日で制圧するとしている。
ソウルはDMZ(非武装地帯)から50kmしか離れていない。前方の砲兵部隊は発射命令を受けてから30分の間、240mm、300mm、600mm放射砲と中長距離砲12万6千発と地対地ミサイル1千発で韓国の主要攻撃対象物を壊滅する作戦だ。
米朝だけでなく、南北間でもこれまで一触即発の事件が数多く発生した。主な事件だけでも以下のとおりだ。
▲「青瓦台(大統領官邸)襲撃未遂事件」(1968年1月)
▲「文世光事件(朴正煕大統領暗殺未遂事件)」(1974年8月)
▲「ラングーンテロ(全斗煥大統領暗殺未遂)事件」(1983年10月)
▲「大韓航空機爆破事件」(1987年11月)
▲「北朝鮮潜水艦浸透事件」(1996年9月)
▲「第一次海戦(西海南北艦船銃撃戦)(1999年6月)
▲「第二次海戦(西海南北艦船銃撃戦)(2002年6月)
▲「韓国哨戒艦(天安艦)撃沈事件」(2010年3月)
▲「西海沖延坪島砲撃事件」(2010年11月)
▲「非武装地帯地雷事件」(2015年8月)
▲「韓国拡声器への砲撃事件」(2015年8月)
このうち海の38度線と称される西海(黄海)のNLL(北方限界線)では南北艦船による衝突が過去4度も起き、そのうち2回は6月に発生し、「海戦」にまでエスカレートした。その延長戦上で韓国の哨戒艦が北朝鮮の潜水艦の魚雷で撃沈され、延坪島も砲撃されている。
北朝鮮の度重なる軍事挑発に怒り心頭の韓国軍は哨戒艦沈没事件後「一発撃ったら、10発、100発で報復し、北朝鮮が追加挑発すれば、自衛権の次元から航空機を利用し、(砲撃基地を)爆撃する」ことをマニュアル化している。北朝鮮軍もまた前線に「ちょっとでも(敵が)動いたら、徹底的に叩け」との指示を出している。
「挑発すれば、先制攻撃も辞さない」との牽制は今に始まったことではないが、これまでと異なるのは韓国が保守政権となり、南北の指導者が「尹錫悦対金正恩」の強面同士の組み合わせになることだ。そして最も危険なのは、相手の目つきが悪いだけで「殺気を感じた」として手を出しかねないことだ。
相互不信が根強いだけに偶発的な出来事や誤算が「第二次朝鮮戦争」の引き金とならないとは断言できない。