意識高い系の人たちはなぜワインファンドに700万円もだまされたのか
破綻したワインファンドがニュースになっています。投資に詳しいと自認していた人もたくさんだまされたようです。なぜこうした商品にみんな引っかかってしまうのでしょうか。「お金の知恵」的に考えてみると意外な理由がみつかりました。
それは知識不足ではなく、あなたのココロの問題だったのです。
■ワインファンドの会社が金融庁のレッドカードののち破綻になった
高級ワインを現地で買い付け、カーブ等で保管し、値上がりしたら売却することで定期預金など比較にならない利回りが得られる(それどころか株式投資よりもいいかもしれない)と言われていたワインファンドが先日破綻しました。
実はこの会社(ヴァンネット)は昨年の12月25日、つまり日本のカップルがたくさんワインを飲んだ翌日に、財務省(関東財務局)からレッドカード(金融商品取引業の登録取消処分)を受け、業務がストップした状態でした。
それが3月7日に破産手続きが開始されたことを公表し、しくみとしては完全に破綻したことが明らかになったのです。
帝国データバンクのリリースによれば、被害者はおよそ523人、金額ベースで36億7372万円が未償還、とのことです。単純計算では平均700万円が戻らない、ということになります。
700万円戻らない、ということは、被害者は実際にはそれ以上のお金をワインファンドにつぎ込んでいた、ということになります。どうして、こんな被害が起きたのか、「お金の知恵」的にも考えてみたいと思います。
■典型的な投資詐欺案件だが、直前まで見抜くことはなかなか難しかったと思われる
さて、このワインファンド、「国内唯一」を自認し投資資金の募集を続けていましたが、その実態はひどいものでした。ワインの買い付けや売却については虚偽の報告が行われており、募集時の説明と異なる実態であったことが指摘されています。日経新聞は実際の在庫としてのワインは1億円しかないとも報じています。
当然ながら運用収益についても虚偽の報告となっており、新しい投資家からの出資金を過去の出資者への配当に回したり、ワインの在庫もあるべきものが実際にない状態だったとのことです。こういう金融商品トラブルはよく起こるもので、いわゆるポンジ・スキームといわれます。
しかし、外部から見分けることはなかなか難しく、公表された情報のみでここまで酷い有様であることは見抜けなかったかと思います(そもそも公表された情報が虚偽だったわけですし)。
「あやしいなあ」の匂いはしていたかもしれませんが、匂いがするだけで犯罪を証明することはできません。結果としては国がその虚偽を見破るまで時間がかかってしまいました。
■勉強した「意識高い系」の人ほど引っかかったかもしれないという「難しさ」
一般的な投資詐欺案件では、投資に無関心な一般人を相手に営業をしてだますことが多いのですが、今回のワインファンドの特徴的なところは、「意識高い系」の人たちがかなり被害にあったと見られることです。
ワインという、ある意味では金持ちの飲み物を対象とした投資商品であったことと、ワインに関するポジティブな高級イメージがあること、そしてこのワインファンドを推奨した著名人(投資本のベストセラー著者でもある内藤忍氏)がいたこと、などがさらに「意識高い系」をワインファンドに向かわせてしまったようです。
過去のすべての顧客の平均ではひとりあたり390万円くらいの投資がされていたようですし、今回破綻した影響がある分ではひとりあたり700万円以上の投資をしていたことになっていますので、ひとりあたりの投資額は相当なものです。
「知識がない」からダマされるのではなく、むしろ勉強して知識がある人がダマされてしまったというのが今回の案件の怖いところです。
投資について勉強していた人も、やっぱりダマされてしまうのがこうした詐欺的案件の難しさなのです。しかし、こうしたトラブルを回避する方法はないものでしょうか。
■自信を持つことの危うさを知る大切さ~意識高い系の敗北を笑ってはいけない
ワインファンドから学ぶべきお金の教訓があるとすれば、それは「事前に見分けよう」ではなく、「過信はしないようにしよう」だと思います。
まず、このワインを売買するスキームも理屈でいえば成立するものであるはずです。仮に儲けが今ひとつでも、実際に生じた利益だけを還元していけばいいわけですし、本当に実物のワインがあれば投資元本が割れてもせいぜい半分くらいは戻るはずです。最悪でも売れ残ったワインを分配して「ごめんね」という手もあります。
実際には「実はちゃんと購入していなかった」うえに「実態とは異なる利回りを配当した」わけですが、私たちはみんながワインの専門家ではありませんから、客観的に事前に見分けることは困難です(これを情報の非対称性といいますが、向こうは全力で粉飾するのでさらに見分けにくい)。ひとりひとりが実際にワインカーヴをチェックするわけにもいきません。
だとすれば、私たちができることは、相手のしくみを勉強して完全に知ることではありません。「ビジネスの相手方を過信しない」「相手方のウソを見抜けると自分を過信しない」の両方が大切、ではないかと思います。
これは、頭がいいと思っている人ほど難しいことで、その点で今回だまされてしまった「意識高い系」の失敗だと思います。
しかし、失敗した人をあざわらうだけではなく、それを他山の石として自分は同じ轍を踏まないことが大切です。
■簡単な対策、それは……
実はとても簡単で、とても効果的な対策があります。それは、「大金を入れすぎない」ということです。
どんなにだまされたとしても、投資金額以上の責めを負うことはほとんどありません(レバレッジはかけないとして)。納得した(つもりになった)し、信頼できた(と思えた)しくみであっても全財産を投じるなどもってのほかなのです。
個人がどんなに知識を蓄えたとしても、あなたをだまそうとする人はその上をいきます。知識が普通だと思っている人ならなおさらです。
しかし「知恵」があれば知識が足らなくてもこうした悪意からある程度身を守ることができるのです。きちんと相手を疑い、全面的な信認は置かない、というのは大事な知恵なのです。ワインファンドの破綻は残念なことですが、私たちが学べることはしっかり学んでおきたいものです。
追伸
過去、類似記事をあげていたことに気がつきました。
→お金の知恵があれば見破れた「毎月5万円で1億円」やMARS投資の罠
2年前も同じような事件がありました。たぶん、今後もまた起こるのでしょう。