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ロック・ドラムスの生けるレジェンド、カーマイン・アピスがカクタスの新作アルバムで降臨【前編】

山崎智之音楽ライター
Carmine Appice / Cleopatra Records

カーマイン・アピスは半世紀以上にわたってロック界に君臨してきたドラム・ゴッドだ。1960年代からヴァニラ・ファッジ、ベック・ボガート&アピス、キングコブラ、ブルー・マーダーなどのバンドやロッド・スチュワート、オジー・オズボーンと活動してきた彼が叩き出す強烈なビートは、世界中の音楽ファンの鼓膜とハートを揺さぶってきた。

そのカーマインが1969年から1972年まで組んでいたバンドがカクタスだ。わずか2年ちょっとの活動期間ながら彼らは大きなインパクトを残し、何回かの再結成が実現。2012年には日本公演も行っている。

2024年に海外でリリースされた『Temple Of Blues - Influences and Friends』は、そんなカクタスの金看板を背負うに相応しい超弩級の新作アルバムだ。「パーチマン・ファーム」「イーヴル」「ワン・ウェイ...オア・アナザー 」などのクラシックスを現代のサウンドで再現。テッド・ニュージェント、ダグ・アルドリッチ、スティーヴ・スティーヴンズ、ヴァーノン・リード、ジョー・ボナマッサ、パット・トラヴァース、ビリー・シーンらスーパー・プレイヤー陣が参加するオールスター・アルバムでもある。

1946年生まれというから現在77歳と、決して若くないカーマインだが、そのドラミングと同じエネルギーに満ち溢れるトークが炸裂。主にカクタスと『Temple Of Blues』について語ってもらったが、話題は彼のキャリア全般に及んだ。全2回のインタビュー記事、彼との対話を可能な限り忠実に再現したい。まずは前編をどうぞ。

Cactus『Temple Of Blues - Influences and Friends』ジャケット(Cleopatra Records / 現在発売中)
Cactus『Temple Of Blues - Influences and Friends』ジャケット(Cleopatra Records / 現在発売中)

<ドラマーはバンドの音楽性を支える背骨>

●前回私があなたと話したのは2023年2月、ジェフ・ベックとの思い出を語っていただいたときでした(Player 2023年 季刊Spring号)。そのときカクタスのアルバムを作っているとおっしゃっていたので、ずっと待っていました。

あれから1年経ってしまったけど、ようやく完成出来て嬉しいよ。いろんな友達がゲスト参加しているんだ。みんなカクタスのファンで、このアルバムでプレイすることにスリルを感じていたよ。ジャケットは彼らと一緒に撮った“神殿”の写真なんだ。当初はただ『Influences and Friends』というタイトルにするつもりだったけど、フォガットやロビン・トロワーのような友人たちが“ブルース・アルバム”と銘打った作品を出しているのを見て、カクタスのやっている音楽もI→IV→Vのブルース進行だよな?と思った。だったら私たちの新作も『Temple Of Blues』にしようと思ったんだ。このタイトルのおかげか、アマゾンのブルース・チャートの3位に入ったよ。長いあいだやっているけど、ブルースのチャートで上位に入ったのは初めてのことだ。総合チャートでもトップ20に入ったし、とてもハッピーだ。

●『Temple Of Blues』や『ギター・ゼウス』など、“神”がかったタイトルがお好きなようですね。

ははは、大仰なのが好きなんだよ。ロック・ミュージシャンが“神”なんかでなく、普通に生活している人間だということは、誰だって知っていることだ。でもライヴを見たりレコードを聴いているあいだは日常を超越した空間にリスナーを連れていきたい。それで“神”とか“神殿”をモチーフにするんだ。

●過去のカクタスの名曲をセルフ・カヴァーするにあたって、どのようなことを意識しましたか?

私自身が全編ドラムスをプレイしてプロデュースも手がけたけど、基本的にそれぞれのプレイヤーに任せたんだ。「ワン・ウェイ...オア・アナザー 」ではテッド・ニュージェントがギターを弾いているけど、オリジナルと異なった形でリフを弾いている。それがクールだと思ったんで、そのままにしたんだ。1970年代のカクタスでギタリストだったジム・マカーティに聴かせてみたら、あまり気に入っていないみたいだったけど、彼は1980年代以降のものには何でも文句を付けるからね(苦笑)。「イーヴル」をトゥイステッド・シスターのディー・スナイダーが歌うと言ったら「エエ〜ッ」と微妙な顔をしていたよ。でも完成したテイクを聴かせたら「誰だこのシンガーは?すごく良いね」と言っていた。ディーはカクタスの初代シンガーだったラスティ・デイのファンだったんだ。「オウリオウ」で弾いているスティーヴ・スティーヴンズはブルックリン出身で、カクタスは地元ニューヨークのヒーローだった。

●大勢の個性的なゲストを迎えながら、カクタスのアルバムとしてのアイデンティティが貫かれているのが素晴らしいです。

多くのバンドについて言えることだけど、ドラマーはバンドの音楽性を支える背骨なんだ。ディープ・パープルだってメンバーが交代しながら誰が聴いても彼らだと判るのは、イアン・ペイスがいるからだよ。決して自分を過大評価するわけではないけど、もし私のドラム・フィーリングがなくなったらカクタスというバンドは意味を成さなくなるだろう。

●トラディショナルなブルースではドラムスはサポート的な裏方仕事であることが少なくありませんが、『Temple Of Blues』では爆撃のようなドラムスを聴くことが出来ます。どのようにバランスを取っているのですか?

どの曲もドラムスを最初にレコーディングしたんだ。「パーチマン・ファーム」ではクリック・トラックを使ったけど、「ワン・ウェイ...オア・アナザー 」では自分の本能に任せて叩いた。「イーヴル」は自分で口ずさんで、それに合わせて叩いたんだ。まあ殊更に珍しいことではなく、前からやってきたことだよ。そうして出来上がったドラム・トラックをギタリストやシンガー達に送ったんだ。直接顔を合わせずに、最もライヴに近いサウンドを得ることが出来るよ。

●1960年代のヴァニラ・ファッジの音楽性はブルース色が薄いものでしたが、どのようにしてカクタスのハードなブルース・ロックに至ったのですか?

私がジェフ・ベックとロッド・スチュワートと新バンドを結成する筈だった話は知っているだろ?それはジェフの自動車事故で流れてしまったけど、私とティム・ボガートはその時点でヴァニラ・ファッジを解散させてしまっていた。実はヴァニラ・ファッジでの日本公演も決まっていたけど、それを棒に振ってでもジェフとロッドとやるつもりだったんだ。ロッドは早い段階で離脱して、ジェフが事故に遭ったことで、何かをやる必要があった。それでミッチ・ライダー&デトロイト・ホィールズのギタリストで“アメリカのジェフ・ベック”という評判もあったジム・マカーティを誘うことにした。それにアンボイ・デュークスのシンガーだったラスティ・デイが加わった。彼らの影響もあって、よりブルース・ロック的な方向に進むことになったんだ。その少し前にレッド・ツェッペリンがデビューしたことで比較されたりもしたけど、気にしなかった。彼らとは友達になったし、ジョン・ボーナムとステージで共演したよ。

Cactus on stage / courtesy of Cleopatra Records
Cactus on stage / courtesy of Cleopatra Records

<「パーチマン・ファーム」がカヴァー曲だと知らなかった>

●当時ハウリン・ウルフの「イーヴル」やモーズ・アリスンの「パーチマン・ファーム」をカヴァーしたのは、誰のアイディアだったのですか?

「イーヴル」を提案したのは私だった。ジェフ・ベックにハウリン・ウルフの『ハウリン・ウルフ・アルバム』(1969)を聴かせてもらったんだ。ジェフはそのアルバムをジミー・ペイジにもらったと言っていた。初期のレッド・ツェッペリンやジェフの『ベック・オラ』(1969)を聴くと、彼らがあのアルバムから影響を受けていたことが判るよ。カクタスのヴァージョンもウルフによるアレンジを下敷きにしながら、よりヘヴィなグルーヴとドラム・サウンドにしたんだ。ツーバスの連打は当時から私の必殺技だった。それにラスティがヴォーカルを乗せて完成させたんだよ。ディー・スナイダーはウィドウメイカーというバンドで「イーヴル」をやっているけど、カクタスのスタイルを踏襲しているね。彼らのアルバムでプレイしているジョー・フランコは私の教則本『カーマイン・アピスのロック・ドラム講座』(別題『カーマイン・アピス/リアルロックドラム』)でドラムスを習得したんだ。

●「パーチマン・ファーム」は?

「パーチマン・ファーム」は実はカヴァーだと知らなかった。バンドでジャムをやるうちに仕上がってレコーディングした曲で、てっきりジムとラスティが書いたものだと思っていたんだ。アルバムが発売になって、作曲クレジットにモーズ・アリスンとあって初めて知ったよ。ラスティに「今まで知らなかったの?」と言われた(苦笑)。この曲はカクタスを代表する曲のひとつとなって、世界中で知られるようになった。ジョー・ボナマッサも「脳天をヤラれた」と言っていたよ。それで今回、彼にギターを弾いてもらうことにしたんだ。

●ハード・ヒットなスタイルで影響を受けたブルース・ドラマーはいますか?

私は基本的には独学で、ジャズやR&Bのドラミングを聴いて自分のスタイルを創り上げたんだ。ツーバスを叩くことでルイ・ベルソンから少しは影響されたかもね。『ハウリン・ウルフ・アルバム』で叩いていたモリス・ジェニングスのグルーヴも個性的でクールだ。あと私がいくつかヒントを得たとしたら、デイヴ・ブルーベック・カルテットでやっていたジョー・モレロだ。彼とは友人だったけど「何もないところからすべてを創り出す人はいない。お互いからいただき合うんだ」と言っていた。彼とも友人だったけど、まったくその通りだと思ったよ。私はいろんなドラマーから触発されてきたし、その逆にさまざまなドラマーが私のスタイルから影響を受けてきた。世の中、そういう風に回っているんだ。

●長年「アラスカ」を聴いてきて、ヴォーカル入りナンバーなので気付かなかったのですが、もしかしてフレディ・キングのインストゥルメンタル「ザ・スタンブル」をモチーフにしているでしょうか?

うーん、意識して「ザ・スタンブル」っぽくしようと考えたことはないよ。ブルース・タイプの曲だし、似てしまうのは仕方ないと思う。『Temple Of Blues』のヴァージョンではオリジナル同様、私はブラシで叩いていて、ジョニーA.がギターを弾いている。彼はブルースを心得たギタリストで、この曲にぴったりだったんだ。ベースを弾いているのはトニー・フランクリンだ。彼とはブルー・マーダー以来の長い付き合いだよ。現カクタスのシンガー、ジム・ステイプリーがハーモニカを吹いている。オリジナルのラスティの歌い回しはすごくユニークだけど、ジムも独自のスタイルで歌いこなしている。良いラインアップだよ。

●多数のゲストが参加している中で、一番古くからの仲なのは誰でしょうか?

「ワン・ウェイ...オア・アナザー 」に参加しているテッド・ニュージェントだと思う。1960年代にヴァニラ・ファッジが彼のいたアンボイ・デュークスとショーをやったことがあったんだ。同じマネージメントだったし、すぐに親しくなった。カクタスを結成してからもフロリダ周辺のアリーナで何度も一緒にショーをやったよ。1982年には彼のバンドで1年やって、さらに親しくなったんだ。今回、アルバムに参加して欲しいと頼んだら「やるよ!」と即答してくれた。「考えてみる」とか、そうのはナシで、その場でやると言ってくれたんだ。どの曲が良い?と訊いたら、やはりすぐ「ワン・ウェイ...オア・アナザー 」だ!という答えが返ってきた。この曲にはキングズXのダグ・ピニックも参加していて、ミュージック・ビデオも作ったんだ。ずっと前にブルー・マーダーがビリー・スクワイアとツアーしたとき、キングズXがオープニング・アクトを務めてくれた。彼らのツアー・バスに乗るとカクタスを大音量で鳴らしたりしていて、ファンだと知ったんだ。それで『ギター・ゼウス』(1995)でダグとタイ・テイバーにゲスト参加してもらった。彼らは一流のミュージシャンで、素晴らしい人間だし、今回も参加してもらいたかったんだ。

●カクタスのシンガー、ラスティ・デイはアンボイ・デュークスで歌っていましたが、彼と知り合ったのも1960年代のことですか?

いや、当時ラスティと会った記憶がないんだ。彼が加入する前か、後だったのかも知れない。私が彼のことを知ったのは新バンドを結成するにあたって、ジム・マカーティが「ラスティに声をかけてみよう」と言ったときだった。それでロングアイランドのリハーサル・スタジオまで呼んだんだ。ワイルドでブルージーな声をしていたし、ぴったりだと思った。ただ“アトランティック・レコーズ”は彼のことを気に入らず、別のシンガーを入れろとうるさかったけどね。結局、ジムとラスティは脱退して、私とティムは後任メンバーを加えて『汗と熱気 'Ot 'N' Sweaty 』(1972)を作ったんだ。そのアルバムでは元アトミック・ルースターのイギリス人シンガー、ピーター・フレンチが歌っている。その頃はフェイセズみたいなことをやりたかったんだ。ただ、バンドの初期にあったマジックは感じられなかった。ラスティはバンドでジャムをやりながら、即興で歌詞やメロディを作り出すのが得意だった。すごい語彙力とセンスをしていたよ。そうしてファースト・アルバムを作ったんだ。「オウリオウ」なんて“日の出と共に目を覚ました♪”とブルース・ナンバーっぽく始まるけど、ヒネリの効いたものになっていくんだ。後の「トークン・チョーキン」の歌詞にも独特のユーモアがあって好きだった。彼が亡くなってしまって残念だよ。バンドを辞めた後、彼は生活のためにドラッグの売人をやっていて、コカイン取引の揉め事で撃たれたんだ。12歳だった彼の息子と友人も巻き添えを食らった。ラスティの分の印税は彼の奥さんに渡すようにしているよ。

●ラスティはどんな人でしたか?

普段は良い奴だった。何の問題もなかったよ。でもたまに危ない側面を見せることがあった。いつも銃やナイフを持ち歩いていたし、大麻やコカインをポケットに入れていた。当時は飛行機に乗るときも身体検査がなかったけど、今だったら一発でアウトだろうね。ブラック・サバスのメンバー達と不穏な空気になって「あいつら刺してやる」とか言い出して、必死に止めたこともあったんだ。

まだまだ続く『Temple Of Blues』話。後編記事では初期カクタスやベック・ボガート&アピス、ブルー・マーダーなどにまつわる秘話をカーマインに訊く。

【最新アルバム】
Cactus
『Temple Of Blues - Influences and Friends』
Cleopatra Records
https://cleorecs.com

【公式サイト】
https://www.cactusrocks.com/

音楽ライター

1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,300以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検1級、TOEIC945点取得。

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