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想像以上に巨大だった太平洋上の「ゴミ大陸」とは

石田雅彦科学ジャーナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 環境中へ放棄されたゴミは、そのままの形で回収されるものもあるが、多くは風雨や紫外線で細かく砕け、海水などより重いものは沈み、軽いものは水面を漂いつつ環境中へ拡散し、あるいは集積される。海洋へ放棄され、流れ出たゴミの多くはペットボトルや漁具などのプラスチック片や化学物質の微粒子だ。最新の調査から北太平洋上にゴミが集まった「ゴミ大陸」が予想外の大きさだということがわかった。

海に浮かぶゴミ大陸

 太平洋上に巨大なゴミ大陸が存在することは1988年の米国海洋大気庁(National Oceanic and Atmospheric Administration)の調査報告書から推定されている(※1)。

 その後、ヨットマンでもある海洋生物学者のチャールズ・ムーア(Charles J. Moore)が、1997年に行われた太平洋横断ヨットレースに参加したとき、北太平洋上に巨大なゴミ大陸があることを報告し、その存在が広く知られるようになった。2001年に発表したムーアらの調査によれば、ゴミの98%はフィルム状のプラスチック、ポリプロピレンなどの漁具、その他のプラスチック微粒子であり、1平方キロメートルあたり5.1キログラムあったようだ(※2)。

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太平洋ゴミ大陸(Pacific Garbage Patch)は、北太平洋を右回りで周回する大きな海流の内側に形成される。その多くは水に浮かぶプラスチック片や漁網、ペットボトルなどだ。Via:米国海洋大気庁のホームページより

 このゴミ大陸は「グレート・パシフィック・ガービジ・パッチ(The Great Pacific Garbage Patch、GEGP)」などと呼ばれているが、最新の調査研究によればその大きさはこれまで推定されていたものより4〜16倍も大きいのではないかという。オランダのオーシャン・クリーンナップ財団などの研究者が英国の科学雑誌『nature』の「Scientific Reports」オンライン版に出した論文(※3)によると、船舶と航空機による調査でゴミの総量は少なくとも7万9000トン、広さは160万平方キロメートルと見積もられた。

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北東太平洋に浮かぶゴミ大陸の大きさ。フランスの面積の約3倍と見積もられている。Via:オーシャン・クリーンナップ財団のホームページより

 その3/4以上が大きさ5センチ以上のゴミで、少なくとも46%が漁具だったという。環境や生態系に甚大な悪影響を与えるとされるプラスチック微粒子の重さはゴミの総重量中の8%だったが、総量1兆8000億個と見積もられる浮遊ゴミの数でみるとプラスチック微粒子は94%を占める。

 今回の論文によると、プラスチック片と微粒子は特定の性質を持つものがゴミ大陸に集積されているとする。これらのゴミのタイプは、東日本大震災の津波で環境中へ放出された漁具やプラスチック製品などと共通するという。こうしたことにより、海流のみならず、風向きによる集積も影響していることがわかったようだ。

漁具やプラ微粒子の恐怖

 従来の調査研究では、プラスチックの浮遊微粒子は海面のすぐ下に層をなしているため、目視ではなかなか観察できないとされてきた。これまでゴミ大陸の質量や大きさがなかなかわからなかったのもそのためだ。

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プラスチックのゴミの中にはなかなか壊れないものもある。これは1977年に作られたボトルケース。こうしたゴミが次第に砕け、微粒子になって環境中で集積する。Via:オーシャン・クリーンナップ財団のホームページより

 プラスチックの特質は、紫外線などによって細かなポリマー破片に崩壊し、最小単位は分子レベルにまで砕かれることにある。また、化学的に分解されたプラスチックは、内分泌撹乱などを引き起こすとされるビスフェノールA(bisphenol A、BPA)、発がん性のあるポリ塩化ビフェニル(PCB)、ポリスチレン(polystyrene)などを発生させる。

 こうしたプラスチックのゴミは、海洋プランクトンや小魚などに取り込まれ、食物連鎖により生態系の中で集積する。太平洋のミッドウェイ環礁のコアホウドリやクロアシアホウドリ、ウミガメからは、プラスチック片を飲み込んだ個体の死骸が観察されている。

 その後、サメや海棲哺乳類、ホッキョクグマのような捕食者に取り込まれる。こうした生態系の頂点にいるのは当然、我々人間だ。環境中の汚染物質は、やがて我々の口の中から体内に蓄積するだろう。

 一方、比較的サイズの大きな漁具やプラスチック製の容器が海鳥やウミガメなどに絡みつくと、動きが制限させられ、やがて死に至る。研究者は、目に見えにくいプラスチック微粒子はなかなか除去できないが、少なくともこうしたゴミを取り除くことは効果的と指摘する。

 推定では、毎年800万トンのプラスチックなどのゴミが海へ流れ出ている。地球の海洋には同じようなゴミ大陸が5つほどあるとされ、こうしたゴミがどんどん集積しつつある。

 研究者は、今回の調査研究は浮かぶゴミ大陸だけで、海中や深層海流、海底などについては依然として未解明だという。こうした環境中へ放棄され続けているゴミの問題を解決しなければ、将来の我々の健康を確保することは難しいと警告する。

※1:Robert H. Day,et al., "The Quantitative distribution and characteristics of neustonic plastic in the North Pacific Ocean, 1985-88." Final Report to US Department of Commerce, National Marine Fisheries Service, Auke Bay Laboratory. Auke Bay, 247-266, 1988

※2:C J. Moore, et al., "A Comparison of Plastic and Plankton in the North Pacific Central Gyre." Marine Pollution Bulletin, Vol.42, Issue12, 1297-1300, 2001

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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