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8月としては珍しい現象 中部太平洋から西進してきた熱帯低気圧が台風12号となって接近

饒村曜気象予報士
日本列島の前線に伴う雲と南東海上の熱帯低気圧の雲(8月15日15時)

台風12号発生

 令和3年(2021年)8月15日(日)9時、気象庁はマーシャル諸島の熱帯低気圧が、24時間以内に台風へ変わる見込みと発表しました。

 熱帯低気圧の存在する海域は、海面水温が台風発達の目安である27度より高い海域で、台風発生後も、発達しながら西へ進み、8月20日(金)には強い台風として日本の南に達する見込みです(図1、タイトル画像参照)。

図1 発達する熱帯低気圧に関する進路予報と海面水温(8月15日21時)
図1 発達する熱帯低気圧に関する進路予報と海面水温(8月15日21時)

 台風になれば、令和3年(2021年)で12個目ですので、台風12号です(表)。

表 台風の発生数・接近数・上陸数
表 台風の発生数・接近数・上陸数

 令和3年(2021年)は、これまで、ほぼ平年並みの発生数、接近数、上陸数となっています。

 ただ、この台風12号は、8月としてはちょっと珍しい現象です。

 秋が進んでくれば、太平洋高気圧の勢力の南への張り出しが弱くなり、太平洋高気圧の南縁に沿って、台風や熱帯低気圧が中部太平洋から日付け変更線を越えて西進することがあります。

 しかし、8月は太平洋高気圧の勢力が強く、太平洋高気圧の南縁を通って西進する台風は少なく、むしろ、太平洋高気圧の中で発生し、ゆっくり北上してきたり、迷走する台風が多くなります。

 令和3年(2021年)夏の太平洋高気圧は、みかけより弱いのかもしれません。

台風12号の今後

 気象庁の台風予報は、5日先までですが、5日先の8月20日(金)には、日本の南海上に達し、暴風警戒域が沖縄本島にかかる予報となっています。

 昔、台風の進路について統計調査をしたことがあります。

 これによると、8月に沖縄の日本の南海上まで北西進してきた場合は、その後北上して沖縄本島近海を通って北上する場合と、そのまま北西進して台湾付近に向かう場合があります(図2)。

図2 台風の平均経路図(8月)
図2 台風の平均経路図(8月)

 北上して沖縄本島近海に達する場合は、西日本を中心に台風に対する風や雨など厳重な警戒が必要です。

 また、北西進して台湾付近に向かう場合でも、台風周辺の湿った空気が太平洋高気圧縁辺をまわるように日本付近に流入してきます。

 現在、日本列島は、梅雨末期のように前線が停滞して各地で大雨が降り続いています。

 台風が、どちらの場合をとるにしても、大量の湿った空気を日本付近へ送り込むポンプの役割をする可能性があります。

 台風と前線という危険な組み合わせになる可能性がでてきました。

 今後の台風情報に注意してください。

【追記(8月16日10時30分)】

 気象庁は8月16日10時15分に、トラック諸島近海の熱帯低気圧は、台風発生の可能性は小さくなったとして、熱帯低気圧の進路予報等を打ち切りました。

 ただ、熱帯低気圧は引き続き西進を続けており、大量の湿った空気が、太平洋高気圧の縁辺部をまわるように日本付近へはいってくることには変わりがありません。

タイトル画像の出典:ウェザーマップ提供。

図1の出典:ウェザーマップ提供資料に筆者加筆。

図2の出典:饒村曜・宮沢清治(昭和55年(1980年))、台風に関する諸統計、研究時報、気象庁。

表の出典:気象庁ホームページ

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2024年9月新刊『防災気象情報等で使われる100の用語』(近代消防社)という本を出版しました。

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