WEリーグ“3強の壁”破った広島が一つ目のタイトルを奪取。創設4年目で刻んだ「連覇」
【リーグ最多観客者数を更新、「3強の壁」を撃破】
12月29日。サンフレッチェ広島レジーナが、また一つ歴史を刻んだ。
女子サッカー3大タイトルの一つ、WEリーグカップで2大会連覇を成し遂げたのだ。
創設メンバーの一人で、最終ラインを統率するキャプテンの左山桃子が国立競技場のピッチの中央でトロフィーを掲げると、割れんばかりの拍手が響いた。入場者数は2万1524人。これまで1万2330人が最多だったWEリーグの最多入場者数を更新し、国立競技場で行われた女子サッカーの試合では、2004年のアテネオリンピックアジア最終予選北朝鮮戦(3万1324人)以来となる観客数を記録した。
リーグが1万人の無料招待など集客のための大胆な施策を打った結果だが、高校サッカーと日程が重なる年の瀬にも関わらず幅広い客層が詰めかけ、熱気あふれる雰囲気の中で試合は行われた。
WEリーグが発足した2021年からの3シーズン、リーグ戦と皇后杯はいずれも浦和、神戸、東京NBの3強がタイトルを掲げてきたが、カップ戦でそこに唯一割って入り、3強の牙城を崩したのが広島だ。今大会は、準決勝で120分間の激闘の末に浦和を破り、決勝では神戸を撃破した。
神戸の攻撃を外に誘導して巧みに奪い、鋭いカウンターからゴールに迫った。33分に上野真実のゴールでリードを奪った後は、屈強な外国人選手たちを前線に投じてパワープレーを仕掛ける神戸に対し、広島は3(5)バックに移行。左山、市瀬千里、中村楓と、対人に強いセンターバック陣が、ロングボールやクロスを跳ね返し続けた。
今季、公式戦21試合で、先制した試合の勝率は100パーセント。真骨頂とも言える堅守を武器に、2度目の頂を極めた。
「正真正銘、三強に入り込める力を見せられたと思うので。(後期の)WEリーグでも、どれだけ3強に食い込めるかだと思っています」
90分間を通して安定したセービングに加え、ピンチの場面ではファインセーブを連発。1点のリードを守り抜いたGKの木稲瑠那の口調には、以前とは違う自信が込められていた。
【4シーズン目の積み上げ】
WEリーグ創設時にゼロからのスタートを切った広島は、今季で創設4シーズン目を迎える。中村伸前監督が3シーズン率いたチームは「選手が特徴を引き出し合い、躍動するサッカー」を標榜し、トライアンドエラーで戦い方の幅を広げていった。2011年W杯優勝メンバーでもある近賀ゆかりと福元美穂のベテラン二人が精神的主柱となり、選手の流出を最低限に留めながら、適材適所の堅実な補強を実現。4年目の今季は、中村監督の後を引き継いだ吉田恵監督が、課題だった守備強化に着手し、短期間でその成果を示してきた。左山は、その変化をこう口にする。
「練習から細かいラインコントロールを強調されていて、相手が少しでもラインを下げたら上げていく。それをみんなで徹底してこられたことが、決勝の舞台でも発揮できました。(吉田)恵さんは守備を徹底的に伝えてくれる監督なので、積み上げてきた部分にプラスして、細かいところまでできるようになったと思います。試合中に細やかなコミュニケーションを取れるようになったところにもチームの成長を感じています」
攻撃に関しては、頼りになるストライカーがチームを導いた。上野の懐の深いボールキープや足元のテクニック、ゲームの組み立ての上手さや決定力の高さは周知の事実だが、吉田監督は守備面での貢献度を評価する。
「守備面で、ポジションが変わっても自分の役割を的確に理解して、チームを助ける守備を今日も献身的にやってくれました。押し込まれた中でもゴール前に戻り、セカンドボールを拾ってカウンターに出ていく。苦しい時こそ頼りになる選手だなと改めて感じました」
内容面の積み上げに加えて、昨年からの積み上げが感じられるのは選手層の厚みだ。吉田監督はリーグ戦とカップ戦で先発メンバーを入れ替えるなど、連戦の中でターンオーバーを敢行し、結果も伴わせてきた。12月は皇后杯などで連戦となり、コンディション面では他のチームよりも不利だったが、チーム力を落とさず、得点者もバラエティーに富んでいる。
左サイドの松本茉奈加は、増した選手層の“厚み”を象徴する選手の一人だ。ずば抜けたスピードが武器のサイドアタッカーは、緻密な連動性を要する広島のサッカーで、その強みを出せる場面が増えてきた。前線の中嶋淑乃、サイドバックの藤生菜摘とのコンビネーションで左サイドを抉る攻撃は、この試合でも対戦相手の驚異となった。
基本となる4-4-2の原則を頭と体に染み込ませた昨季を経て、今季は課題の守備と向き合うべく、「守備のスタート位置や、ポジショニングを意識するようになった」(松本)という。その結果、左サイドのキーマンである中嶋とのコンビネーションも向上した。
「味方との距離感をすごく気にするようになりました。以前はスペースでパスをもらおうという気持ちが強く、守備も攻撃も遠かったと思いますが、(ボランチの柳瀬)楓菜とも、(中嶋)シノとも(藤生)ナツとも近い距離でボールを受けられる位置を考えてプレーしたらコンビネーションでワンツーもできるようになりました」
リーグ戦でも3強の牙城を崩すために、チームが目指すのは、リードした状況で「耐える」のではなく、「突き放す」こと。そのために、吉田監督は「個の力」と守備面のさらなる強度向上を求める。
皇后杯はすでに敗退が決まっているが、3月に再開するリーグ後半戦は、3強に次ぐ4位と好位置からのリスタート。首位の東京NBとの勝ち点差は「5」で、優勝争いもできる位置につけている。レジーナらしいサッカーで、リーグ戦でも新たな歴史を刻むことができるか。次なる目標とチャレンジへの道筋は、明確に描かれている。