コロナ環境下で進む東京からの移住、脱出先は千葉、茨城県
2020年・東京からの移住は進んだか
昨年より世界中に蔓延したコロナは、いまだ収まることを知りません。2度にわたる緊急事態宣言により収束傾向にはあるものの、予断を許すものではありません。ワクチンが国民に幅広く普及するには、いましばらくの時間がかかりそうです。それまでコロナ感染を防ぐためには、自らがさまざまな予防措置を講ずるしかないのです。
緊急事態措置区域が、東京、神奈川、千葉、愛知、大阪など大都市中心に発令されたことに象徴されたとおり、人口集中度が高く、交通や移動の高い大都市はそれだけ感染リスクの高いエリアであるとも言えるでしょう。
こうした都市部における感染リスクを避けるための方法として近年注目されるのが「移住」です。リモートワークを積極的に推奨する企業の増加も追い風となり、都市居住にこだわる意識は以前よりも低くなっているでしょう。都会に勤務する必要のないリタイア世代にとっても、都市部に住み続ける必然性はさほど高くないと言えます。
本論では、こうした都市部からの移住の実態を調べるために総務省の「住民基本台帳人口移動報告」の月次データを元に、2020年(暦年)の移動実態を調べてみました。
県別に見た2020年転出入状況
図表1は2020年暦年で見た都道府県別の転入超過数です(転出者と転入者数の差分)。東京都、大阪府などの大都市に人が集まる傾向は昨年も特に変わるものではありませんでした。東京都(31,125人)、神奈川県(29,574人)、埼玉県(24,271人)、千葉県(14,273人)、大阪府(13,356人)などに次ぎ、福岡県(6,782人)、沖縄県(1,865人)が転入超過となっています。この2県は、転入数は微減でしたが、コロナの影響で県外への転出者が減った結果、転入超過となりました。
一方、転出数が高かったのは、愛知県(-7,269人)、兵庫県(-6,865人)、福島県(-6,681人)、長崎県(-6,379人)、岐阜県(-5,803人)などです。近年、愛知県、岐阜県では、転出が増加しており、この原因として主力産業である製造業の業績低迷が影響しているのではとの指摘もあります(OKB総研 調査部 中村 紘子 「新型コロナ禍における 東海3県の人口動向 ―愛知県は人口のダム機能を果たせるかー」)
図表2は、2020年転入超過数を前年と比較したものです。
この図表を見て分かるとおり、東京都の転入超過数は大幅に減少していることがわかります。2019年8万2千人であった転入超過数が約5万人減少しています。これはコロナの影響により、東京での就職や入学を控えた人がいたことに加え、移住などにより、東京から他県への流出があったためではないかと推察されます。転出超過県では、同じく埼玉県が19年に比べ1,710人減少しています。一方で、転入超過数が増えているのは、千葉県(4,880人)、大阪府(5,502人)、福岡県(4,024人)などの県でした。
東京からの移住を考える場合、仕事の継続性などを考慮すると、おそらく周辺近隣県への移住が想定されます。千葉県は、見た通り転入超過でしたが、その他周辺県では、茨城県、栃木県、山梨県、長野県の転出者数が減少しており、こうした県が移住先として選ばれたのではないかと推測することが出来ます。
月次ベースで見た東京都及び周辺県の転出入状況
さらに、月次べースで東京都の転入超過を見たのが図表3です。
2019年は全月通じて転入超過でしたが、20年は5月から転出に転じ、7月以降は年末に至るまで転出が続いています。とりわけ8月は転出数が4,514人と高く、夏休み期間を利用し転出した人々が多かったことを示しています。
では、次に東京都民が移住先として選んだと考えられる県で、千葉県、茨城県、山梨県、長野県、4県の転出入状況を月次ベースで見てみましょう。
千葉県は、19年は3月、4月に大幅な転入超過となり、その後はさほど人口移動が起こっていませんでした。しかし20年では、4月の転入数は少なかったものの、5月以降も11月まで継続的な転入超過が続いています。茨城県では転出入者の逆転現象が起きています。19年は全月転出超過でしたが、20年は5月から転入超過が続きました(11月を除く)。
近年、移住ブームの中で、注目されていた山梨県や長野県も同じような動きを示しています。転入者実数値は、千葉県や茨城県ほどではありませんが、やはり5〜6月以降、転入者数が転出者数を上回るといった傾向が続いています。
東京からの脱出移住層は30〜40代の子育て世代
最後にどの年代が東京から転出入しているのかを、19年と20年比較で見たのが、図表8です。これで見ると、15歳〜29歳までは、その数は減少しているものの転入超過であることが分かります。一方で、転出が高いのは、30歳から44歳までの層と、おそらくその子どもである0〜4歳の子育て世代です。この年代は、賃貸生活から家取得に転換する時期であるということも含め、東京に通いやすい周辺県としての千葉県、茨城県に注目が集まったのではないかと考えられます。また50歳以上についても、19年でも転出が転入を上回っていましたが、20年はその数がさらに増加しています。
移住先として有望な千葉・茨城方面
以上のように見て、昨年の東京移住環境をまとめると、まず、言えることは、明らかに東京からの移住(脱出)マインドが高まったということ。そして、その動きはコロナが日本を襲い、第1回の緊急事態宣言が解除された5月末以降に明らかに高まる傾向にあったことが分かりました。
そして、具体的に移住マインドが高まり、実際に行動に移した層は、主に30代から40代前半の結婚、子育て層であったこと。また彼ら彼女らが主に移住先として選んだのは、以前から移住先で注目されていた長野県、山梨県ではなく、千葉県、茨城県が多いことも分かりました。これは、東京都心への利便性を考えた場合、中央線や信越本線、上越新幹線などの路線よりも、常磐線、つくばエクスプレス、総武線、京成線など都心と繋がる鉄道路線が多く、移住先の選択肢が多い千葉、茨城が結果として選ばれたのではないかとも考えられます。コロナ禍の収束がまだ見えない現在において、こうした傾向は今しばらく続くのではないかと考えられます。