昭和天皇 ご愛用の「正服」に秘められた「質素倹約」の真髄
今週末、4月29日の「昭和の日」からゴールデンウィークがスタートする。
この日は、かつて昭和天皇の誕生日であったことから祝日であったが、今では「激動の日々を経て、復興を遂げた昭和の時代を顧み、国の将来に思いをいたす」日として、祝日はそのままに「昭和の日」に制定されている。
若い世代にとっては、激動の時代を生きた昭和天皇は、遠い過去の歴史上の人物だろうが、昭和天皇をリアルタイムで知る筆者は、いつも穏やかに飄々とされているお姿を思い浮かべる。
感情を露にすることは一切なく、何か言われても「あっそう、あっそう」と、お馴染みの合いの手を入れていらっしゃったものだ。それがとても温かく、昭和天皇の柔和なお人柄を感じさせた。
昭和天皇は幼い頃、学習院院長の乃木希典から、「質実剛健」と「質素倹約」を叩き込まれ、それが生涯を貫く指針となられた。
決して偉ぶらず、常に庶民と同じ、質素な出で立ちでいらっしゃった。
学習院大学史料館で現在開催中(~6/3まで)の特別展、「学習院制服事始」では、昭和天皇が愛用された「正服」(戦前の名称)が展示されている。
その制服には昭和天皇が幼き日、どのように過ごされたのか、その微かな手がかりが刻まれている。
◆学習院初等科時代の昭和天皇
将来天皇になるお立場だった昭和天皇は、当時、普段はこの「正服」を着ていらっしゃったという。
学習院大学史料館の学芸員、長佐古美奈子さんは、初等科時代の昭和天皇と制服の関係性をこう語る。
「大正天皇がまだ皇太子だった時代から、普段着も学習院の制服と決められていたようです。同時にフォーマルな礼服としても使われていたので、『正服』と呼ばれていました。幼かった昭和天皇も、詰襟の『正服』を常に着ていらっしゃったのです」
「学習院制服事始」展では、昭和天皇の制服が二つ展示されている。その違いについて長佐古さんに聞いてみた。
「一つは昭和天皇が初等科2,3年生の時に着ていらっしゃったもの。もう一つが、初等科を卒業した後、東宮御学問所が作られ、そこでご学友とともに学ばれていた時代のものです。皇太子用の学問所なので、学習院中等科と同じ形の制服を作り、記章だけが学習院の桜ではなく、皇室の菊の御紋でした」
衣服は一般的に古くなると生地が損耗したり、色褪せたりなど経年劣化が見られるものだが、この制服は2着とも比較的きれいに保たれている。
なぜ、ここまで大切に保存されてきたのか。
その背景に隠された「正服」の所有者について、長佐古さんは…、
「初等科の制服は、昭和天皇の身の回りのお世話をする、侍女の内海シゲさんという方が退職する際、これまでのご苦労に報いるため、貞明皇后(昭和天皇の母)から下賜されたものなのです。皇室では、古くから天皇や皇太子が、御所で使ったものを臣下に下げ渡す慣習があったんですね。感謝の印であり思い出の品であることから、大切に保管されていたようです」
◆制服に残された昭和天皇の痕跡
侍女の方に贈られた制服は、実はその後、事情は不明ながら別の人に渡り、巡り巡って学習院大学史料館に寄贈されたとか。
長佐古さんによれば、ちょっとしたほつれや虫食い、カラーをつける襟のあたりに少し傷みはあるものの、それもまた昭和天皇の痕跡として貴重だと語る。
さらに、長佐古さんは、昭和天皇のこんなエピソードも教えてくれた。
「教育係だった乃木学習院院長が、『穴のあいているのを着てはいけないが、つぎのあたったのを着るのはちっとも恥じゃない』とおっしゃったことから、昭和天皇は『穴のあいたのにはつぎをあてておくれ』と侍女に語られたと言われています。当館で展示しているものには、つぎあてはないのですが、現存する他所所蔵の制服には、つぎあてがしてあるものが残っているようです」
「質実剛健」「質素倹約」の精神は、すでに昭和天皇の中に生まれていらっしゃったようだ。
最近では、「昭和は遠くになりにけり」と懐かしく語られる機会が増え、若い世代の間でも昭和歌謡がブームになるなど、令和の時代となっても話題にのぼる「昭和」。
4月29日のゴールデンウィークの初日は、しばし、あの時代に思いを馳せてみてはいかがだろうか。
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