商標法改正により料金を払わずに出願日を維持し続ける迷惑行為が不可能に
出願料金を支払わずに大量の勝手商標登録出願を繰り返す迷惑行為について既に書きました(「PPAP等の大量勝手商標出願問題について整理してみる」)。
特許庁への出願には所定の料金が必要ですが、仮に料金を払わなくても1カ月程度の猶与が与えられます。この親切制度を悪用して、料金を払わずに手当たり次第に出願を行なうことがこの迷惑行為のポイントです。料金を払わないことを理由として出願を却下してはいけないというのは商標条約の縛りなので、この規定を改正することは困難でした。
実は、この迷惑行為にはもうひとつの「裏技」がありました。先の記事では「模倣犯を防ぐために詳しくは書けない」と書いていた点です。本日(2018年6月9日)より施行される商標法改正によってこの裏技が実行不可能になりましたので、ようやくオープンな場で書くことができるようになりました(本記事を土曜日にアップしたのもそれが理由です)。
商標法には分割出願という規定があります。一つの出願の指定商品群を分けて複数の出願に分割できる制度です。たとえば、一部の商品群については登録が確実だが、その他の商品群について拒絶されるリスクがあるケース(特定の商品についてのみ既存の登録と類似する可能性がある場合等)に便利です。この場合、登録を目指して特許庁と争っていると出願全体の登録が遅延してしまいますので、登録が確実な商品群だけを分割して別出願として先に登録してしまい、残った商品群について特許庁と争うことができます。
ここで、分割した出願(子出願)の出願日は元の出願(親出願)と同じ日として扱われますので、今まではこれを悪用することが可能でした。たとえば2018年1月1日に料金を払わずに出願をしたとします。料金を払えという補正指令が来るのを無視していると数カ月後に手続却下の処分が下りますが、却下される直前に(料金を払わずに)分割出願をすれば、2018年1月1日という出願日をキープしたまま出願をペンディング状態にできます。この分割出願にも料金を払えという補正指令が来ますが、それも同様に無視して却下される直前にまた分割出願するという繰り返しが可能でした。これらの勝手分割出願の実効出願日は2018年1月1日のままですので、たとえば、本来の権利者の出願が2018年1月2日に行なわれていたとしても、その出願は長期的に悪影響を受けることになってしまいます。
今回の商標法改正において、親出願に料金が支払われていない時は子出願の出願日の遡及が行なわれないようになりました(最初からそうしておけば良かったのにと思いますがこういう迷惑行為は想定外だったのでしょう)。タイトル画像に示されているように親出願が料金未納で却下になると出願がなかったことになり、分割出願の出願日も遡らなくなりますので、後願の正規の出願が優先されるようになります。なお、施行日(2018年6月9日)以前にされた出願については、この改正は適用されませんので問題は残ります。
もちろん、この改正でも普通に料金を支払う勝手出願が防げるわけではありませんので、早め早めの出願が重要である点には変わりはありません。しかし、少なくとも、料金を一切払わないで(つまり、ノーリスクで)大量の出願の出願日をほぼ永遠に維持し続けるという迷惑行為は実行不可能になったわけです。