「個人の判断」に委ねられたマスク着用 着けるべき場面や状況についての考え方
政府は2023年5月8日から新型コロナを5類感染症に引き下げることを発表しました。
引き下げにあたって、マスクの着用については「屋内・屋外を問わず個人の判断に委ねることを基本とする」という方針となったようです。
それでは私たちはマスクの着用についてどのように考えれば良いのでしょうか?
マスク着用を「個人の判断に委ねる」という政府の方針は正しいのか?
新型コロナの流行初期からマスクの着用については日本国内では義務ではなく、屋内での装着を「推奨」という位置づけでした。
ですので、個人の判断に委ねるというのは、これまでの方針と大きな齟齬はないのではないかと思います。
私自身は、各自がそれぞれの場面における感染リスクを理解し、マスクを着けるべき場面、着けなくてもよい場面が適切に判断できるようになることが重要であると思いますので、「5類になったら屋内のマスクは廃止」などとするよりは、こういった個人の判断を尊重するという政府の方針はとても良いことかと思います。
ただし、全ての人が適切にマスクを着ける場面、外す場面を理解することは難しく、どうしても個々人の理解には差が生じます。
また、人によって感染リスクの捉え方は様々であり、できる限り感染することを避けたいという人もいれば、ある程度の感染リスクを許容してでもマスクを外してのコミュニケーションを優先したいという方もいるでしょう。
マスクを着けたくても皮膚が荒れたりといった理由で着けられない方もいらっしゃいます。
この辺りは、人それぞれに考え方や事情が異なるところかと思いますが、マスクを着ける人、着けない人がお互いを尊重しながら緩和を進めていくことが大事かと思います。
それでは、各自が自身の判断でマスクの着用について考えるためのポイントをいくつかご紹介したいと思います。
マスク装着は「周りに感染を広げないため」の感染対策
まず、マスクの着用は新型コロナに対する有効な感染対策であるという前提のもとに議論を進める必要があります。
新型コロナウイルス感染症では、咳などの症状がある人だけでなく、症状のない感染者からも感染が広がります。
このため、症状のない人も含めてマスクを着用する「ユニバーサルマスキング」という概念が新型コロナ以降の感染対策として定着しました。
特に換気の悪い屋内においては、離れた距離であっても感染が起こることがあり、屋内におけるマスク着用は、主要な感染予防策の一つとして寄与してきました。
アメリカのボストンでマスクの着用の義務化をやめた地区と継続した地区の学校における新型コロナの新規感染者数を比較した研究では、マスクの着用の義務化をやめることで15週間の間に1000人当たり45人分の新規感染者数が増加しました。
このように、マスクの着用は特に屋内における新型コロナの感染対策として有効であることが分かっています。
また、マスクは自分が感染しないためというよりも、周りに感染を広げないためという意味合いの方が強い感染対策です。
自分が感染していた場合にも、飛ぶ飛沫を減らすことで周囲への感染を減らすことができます。
「自分は重症化しないから感染しても大丈夫」という理由でマスクを着けない方もいらっしゃるようですが、そうではなくマスクは自分が周りに広げないために着けるものです。
ワクチンは自分が感染リスクや重症化リスクを下げるために接種するものですが(間接的に周りの感染を減らすことができます)、マスクは自分を守るというよりも周りを守るための感染対策と言えます。
また「マスクを着けずに会話などで飛沫が飛ぶこと」が感染のリスクになりますので、屋内であってもデスクワークをする、読書をする、など喋らない状況であればマスクを着用しなくても周囲への感染リスクはありません(※厳密には呼気中の飛沫などを考慮すると感染リスクはゼロではないですが、今はゼロリスクを求める状況でもありませんので)。
「海外ではマスクを外しているから日本も外すべき」は正しいのか
「海外ではもうとっくにマスクを外しているのに!日本はいつまでマスクを着けているんだ!」と思われる方も多いと思いますが、海外と日本の新型コロナの流行状況は大きく異なっています。
世界的には、最も新規感染者数や死亡者数が多かったのは今から1年前の2021年末から2022年1月の時期です。これは、ちょうどオミクロン株が世界中に拡大した時期と一致しています。
そして現在では、新規感染者数や死亡者数も多少の増減はあれど減少しています。
一方で、日本はご存知の通り、第8波で過去最多の死亡者数を記録してしまうなど、未だに流行の収束が見えない状況です。
このような違いは「すでにオミクロン株に感染した人の割合」が関連していると考えられています。
なぜなら、オミクロン株に感染した人は、別の亜系統のオミクロン株に対して感染しにくくなるためです。
もちろんワクチン接種でもある程度感染を防ぐ効果は期待できますが、オミクロン株が広がって以降、ワクチン接種だけでは完全に防ぐことは難しくなっています。
例えば、イギリスは2023年1月12日時点で、過去に新型コロナに感染したことを表すN抗体の陽性率が82.5%に達しています。イギリスのN抗体陽性率はオミクロン株が拡大した2022年の1年間で20%から80%に上昇していますので、大半の人はオミクロン株に感染していることになります。
さらに、イギリスはワクチン接種率も高く、ワクチン接種済みかつオミクロン株に感染した人が多く、いわゆる「ハイブリッド免疫」という強固な免疫を持つ人が多い状態となっています。
一方で、日本のN抗体陽性率は2022年11月時点で28.6%であったと報告されており、イギリスと比較するとまだオミクロン株に感染していない人が多いため、感染者が増える余地があることになります。
イギリスがマスクを外しても新型コロナがそれほど増えない状況は、これまでに非常に多くの感染者と死亡者を出してきた結果のものですので、まだまだ未感染者が多い今の日本がそれをマネをしても良い結果にはならないでしょう。
では、どのような状況であればマスクを外しても「比較的安全」と言えるでしょうか?
これを考えるための目安として、
・現在の流行状況が落ち着いているか
・周囲に重症化リスクの高い人がいないか
・周囲に感染したことがある人やワクチン接種者がどれくらいいるか
などが挙げられます。
地域における流行が落ち着いている状況であれば、それぞれが感染している可能性は低くなりますのでマスクを外しやすいタイミングと言えます。一方で、感染者が多い状況では感染リスクを考慮して屋内でのマスク着用をしっかり行うなど、流行状況に合わせたマスク着用の考え方、というのはコロナ以前のインフルエンザシーズンでも行われていたものですので、我々日本人にはしっくり来る考え方ではないでしょうか。
重症化リスクの高い高齢者や基礎疾患のある人が周りにいるときには、普段よりも感染を広げないための配慮が必要です。
逆に、周囲に最近感染した人ばかりの場合は、感染が広がりにくい環境と言えます。
こうした感染リスクとは別に、お互いの関係性の問題もあると思います。
家庭内でマスクを着ける人がほとんどいないように、特に親しい間柄では感染リスクよりもマスクを外して会食をすることを優先するという考え方もあるでしょう。
この辺りは、5類感染症になるにあたって、これまで以上に尊重されるべき考え方であると思います。
社会が感染対策の緩和に向かう中で、マスクの着用についても、これまで以上に個人の考え方を尊重すべき段階に来ていると思います。
しかし、誰であっても「周りの人に感染させたくない」という思いは共通だと思います。
マスクについて正しい知識を持った上で、場面や流行状況によってマスクの着用を個人個人が判断できるようにしましょう。