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トランプの“オレ様主義”で深まる危機。本来なら北朝鮮の平昌五輪参加を「拒否」すべきだろう

山田順作家、ジャーナリスト
オレ様は天才(genius)!どこが?(写真:ロイター/アフロ)

 トランプ大統領というのはとことん無知で、この世界の自由と人権と民主主義を守る意思がないことが確定した。なんと、北朝鮮との無条件対話にOKしてしまったのである。あきれてものも言えない。信じ難きアメリカ大統領である。

 北朝鮮が平昌五輪に参加するだけで、米韓軍事演習を延期し、南北高官級会談を前にして、「五輪だけにとどまらずそれ以上のものになるよう期待する。適切な時期にアメリカも(対話に)参加するだろう。そうした対話からなにかが生まれるのであれば、全人類にとって、世界にとってすばらしいことだろう」と、対話を全面支持するような声明を出して、“日和見男”の韓国の文在寅大統領をつけあがらせた。

 そうして、まったく成果のない南北高官級会談後は、文在寅と電話会談。アメリカが北朝鮮に対して強硬な態度をとっていなければ対話は実現しなかったとして「ムンは非常に感謝していた」と言ってのけたのだ。他国の大統領から感謝されると、すぐ嬉しくなって、「それ見たことか」という“オレ様自慢”が止まらない。

 暴露本に対するリアクションでも、単に否定していればいいものを、とんでもないオレ様自慢。なんと、自分をビジネスマンとして成功しテレビのトップスターから大統領にまで上り詰めたと強調したうえに、「賢いだけでなくとても安定している天才(genius)だ!」と言ってのけたのだ。

 どこが天才? 天才はけっしてそんなことは言わない。

 

 彼は、東アジアの危機が世界にどんな影響を与えるかより、自分にしか興味がないのである。独裁政権が核を持ち、それによって他国を堂々と恫喝できる世界が訪れたとき、なにが起こるか想像がつかないのだ。自分が言ってきた「アメリカ第一主義」(America first)など吹っ飛んでしまうことにすら気がついていない。

 トランプは10日、ホワイトハウスで記者団に対して、さらにこう言った。

「向こう数週間~数カ月はなにが起きるか様子を見る」

 要するに、あらゆる選択肢のなかの一つ「先制攻撃」をしないことを表明したのだ。

 つけておまけに、ホワイトハウスはペンス副大統領夫妻が平昌五輪でアメリカ代表団のトップを務め、2月9日に行われる五輪開会式に出席すると正式発表した。自分が行けばいいものを、副大統領に行かせる。ペンスはいい迷惑である。

 こうして北朝鮮危機はますます深まった。金正恩はたかが五輪に選手団を出すだけで、五輪が終わる2月25日までは自分の首をつなげることができた。しかも、水面下でいくらでも核開発できる時間を手に入れた。国連決議によって制裁を受けている国、トランプ自らが“ならず者政権”(rogue regime)と呼んだ国(2017年9月国連演説)に、こんなことを許せば、そこから世界はなにを学ぶだろうか?

 アメリカと韓国が本来やるべきことは、北朝鮮の五輪参加拒否であろう。あるいは、韓国は五輪開催を返上すべきではなかったか?

 一部メディア、一部専門家は、対話路線を歓迎している。彼らは、ともかく戦争さえ起こらなければいいという考え方で、このようなエセ平和主義は、相手を利するだけだ。”ロケットマン”金正恩の高笑いが聞こえてくる。本当に、笑いが止まらないだろう。

 

 時間がたてばたつほど、危機は深まり、将来、取り返しのつかない事態になる。自由や人権、民主主義は北の核によって崩壊する。力だけがものを言う世界がやってくる。その前に、“ならず者”が持つ力を削がなければならない。 

作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

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