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「心眼」の使い手は実在した! 視覚障害を持つeスポーツ選手が「スト6」でスゴ腕を披露

鴫原盛之ライター/日本デジタルゲーム学会ゲームメディアSIG代表
視覚情報なしで「ストリートファイター6」をプレイする選手たち(※筆者撮影)

JR東日本スタートアップとePARAは、カプコンの対戦格闘ゲーム「ストリートファイター6」を使用した交流イベント「心眼PARTY 2023 powered by JEXER」を、ジェクサー・eスポーツステーションJR松戸駅店で10月29日に開催した。

「心眼PARTY」とは、視覚情報を使わずに、ゲーム中に流れる音声だけで状況を判断しながらプレイする、ePARAの発案によるeスポーツ交流イベント。以前は「ストリートファイターV」を使用して、視覚障害を持つ選手同士が対戦する企画だったが、今回はバリアフリーeスポーツの認知度向上と選手たちとの交流を目的として、晴眼者も含め一般公募で選ばれた来場者と選手が組んだチーム同士での団体戦と、選手と個別に対戦および指導が受けられるeスポーツ体験会が行われた。

「心眼PARTY」の会場となった、エキナカにあるeスポーツ施設「ジェクサー・eスポーツステーション JR松戸駅店」(※筆者撮影。以下同)
「心眼PARTY」の会場となった、エキナカにあるeスポーツ施設「ジェクサー・eスポーツステーション JR松戸駅店」(※筆者撮影。以下同)

団体戦の出場者は、晴眼者も含め全員がアイマスクを着用してプレイしたが、全盲または弱視の障害を持つ選手も来場者も、複雑なコマンド入力が必要な必殺技を難なく繰り出していた。入力の正確さに加え、相手との間合いに応じて攻撃と防御を巧みに使い分けたり、時には相手の技を察知してカウンター攻撃を当てて反撃に転じたりするなど、選手たちの見事な立ち回りには誇張なしで本当に驚かされた。

スタッフによると、団体戦のダイジェスト動画を近々公開する予定とのことなので「ストリートファイター6」に興味のない人も、動画をぜひ一度ご覧になっていただきたい。「心眼PARTY」の試合であることを知らずに動画を見た人は、実は視覚情報を全員が遮断したうえで対戦していることを、初見ではまず気が付かないだろう。

ePARA所属の実里選手。拳法の使い手であるキャラクター、ジェイミーを、全盲であることが信じられないほど華麗に操り、対戦相手を何度も翻ろうした
ePARA所属の実里選手。拳法の使い手であるキャラクター、ジェイミーを、全盲であることが信じられないほど華麗に操り、対戦相手を何度も翻ろうした

全盲のプレイヤーでも「ストリートファイター6」が楽しめる理由

なぜ、視覚障害者でも晴眼者と同様に「ストリートファイター6」をプレイできるのか? その答えは、本作には視覚情報がなくても遊べる「サウンドアクセシビリティ」機能が搭載されているからである。

本機能は、技の種類によってヒットしたときの音色がそれぞれ変わったり、プレイ中に常時流れる音の高低が相手との距離によって変化したりするなどの方法で、音だけでゲーム内の全情報をプレイヤーに伝える仕組みになっている。

実は、本機能はカプコンから依頼を受けた、他ならぬePARA所属の全盲や筋ジストロフィー症の障害を持つ選手たちが協力したうえで完成させたものだ。

団体戦の解説を担当した「なおや」選手(左)も、全盲とは信じられないほどの実力の持ち主だ
団体戦の解説を担当した「なおや」選手(左)も、全盲とは信じられないほどの実力の持ち主だ

筆者もスタッフのご厚意により、同社のePARA Voice事業部長兼ナレーターで、普段は声優やナレーター、社内SEなどの仕事をこなし、全盲のeスポーツ選手としても活躍する「なおや」こと北村直也選手と、アイマスクを着用してお手合わせをしていただいた。

「遠方からの空中攻撃や、こっそり背後に回り込んで投げ技を狙えば対応できないだろうな……」と思いきや、こちらの作戦はことごとく読まれて反撃を受け、お世辞抜きでまったく歯が立たず、1ラウンドも取れないまま負けてしまった。時には1日5時間も練習に励み、日々精進を重ねて「心眼」を体得した、なおや選手の強さには只々敬服するばかりだ。

本作の「サウンドアクセシビリティ」機能に興味を持った人は、ぜひ設定をオンにしたうえでプレイしていただきたい。視覚障害を持つ選手たちのレベルが、いかに高いのかが実感できるはずだ。

(参考リンク)

・「スト6」サウンドアクセシビリティ特別対談。-興奮と可能性が詰まった大仕事の舞台裏-(※「ePARA」のニュース記事)

来場者に「サウンドアクセシビリティ」を利用した対戦プレイをレクチャーするなおや選手
来場者に「サウンドアクセシビリティ」を利用した対戦プレイをレクチャーするなおや選手

将来は海外進出も視野に

株式会社ePARA代表取締役の加藤大貴氏は、「心眼PARTY」の今後の展開について「将来は賞金付きの大会もできればと思っていますが、それよりもバリアフリーeスポーツのすそ野を広げることを目指したいですね。将来は海外でも、特にアジアのアクセシビリティ対応が十分ではない地域で、今回のような体験会を開催できればと思っております」との構想を持っている。

今年の8月には、アメリカのラスベガスで開催された世界最大級の対戦格闘ゲーム大会「Evolution Championship Series 2023」の「ストリートファイター6」プール予選で、オランダ出身のBlindWarriorSven選手が晴眼者に勝利する歴史的快挙を達成した。

なおや選手も「eスポーツは、障害者と健常者が一緒に参加できるところが魅力。自分も健常者と同等に戦えるようになるのか、これからもチャレンジしていきたいと思います。BlindWarriorSven選手には、常に先を越されているので『打倒BlindWarriorSven』を目指します」と意気軒昂だ。

「心眼PARTY」がきっかけで、eスポーツのバリアフリー化が進むとともに、晴眼者にも引けを取らない実力を身に着けた障害者eスポーツ選手が次々と誕生し、世界を舞台に活躍する未来がやって来ることを大いに期待したい。

(参考リンク)

・盲目の格闘ゲームプレイヤー「BlindWarriorSven」がEVO2023『スト6』のプール予選で勝利し会場大盛り上がり。サウンドアクセシビリティ機能を利用しエドモンド本田が対空とコンボを華麗に決める(※「電ファミニコゲーマー」の記事)

観客席では、視覚障害を持つ選手たちの健闘に対し、幾度となく大きな拍手が贈られた
観客席では、視覚障害を持つ選手たちの健闘に対し、幾度となく大きな拍手が贈られた

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ライター/日本デジタルゲーム学会ゲームメディアSIG代表

1993年に「月刊ゲーメスト」の攻略ライターとしてデビュー。その後、ゲームセンター店長やメーカー営業などの職を経て、2004年からゲームメディアを中心に活動するフリーライターとなり、文化庁のメディア芸術連携促進事業 連携共同事業などにも参加し、ゲーム産業史のオーラル・ヒストリーの収集・記録も手掛ける。主な著書は「ファミダス ファミコン裏技編」「ゲーム職人第1集」(共にマイクロマガジン社)、「ナムコはいかにして世界を変えたのか──ゲーム音楽の誕生」(Pヴァイン)、共著では「デジタルゲームの教科書」(SBクリエイティブ)「ビジネスを変える『ゲームニクス』」(日経BP)などがある。

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