「家賃を何とかしてほしい!」 若者の訴えは政治にとどくのか?
今回の選挙公約において、いくつかの政党で住居保障が掲げられている。コロナ禍で貧困が拡大する中、ようやく住居問題にも焦点が当てられたようだ。
すでに、コロナ禍における貧困に対応すべく、住居確保給付金の要件が緩和されており、2020年度の支給件数は約13万5000件に上り、前年度の34倍、リーマンショック後の2010年度の3.6倍と過去最高となっとぃる。
なぜ、これほど住居保障が切実な問題になったのか。高齢者の住居問題や住宅価格の高騰、ローン破産など要因は多岐にわたる。今回は、特に若い世代の実情と背景について検討し、その上で、今回の選挙公約についても検討していく。
参考:衆院選での各党の労働・福祉政策は? 主要政党マニフェスト比較!
重い家賃負担に苦しむ「賃貸世代」
今日の問題を理解するためには、日本の住宅政策を振り返る必要がある。
戦後日本の住宅政策の中心は、住宅ローン供給による持ち家取得の促進だった。高度成長を通じて、終身雇用・年功賃金の日本型雇用が成立し、雇用と所得の安定が長期のローン支払いを保障した。仕事と収入を安定させ、結婚して家族を持ち、賃貸住宅から持ち家に移り住んでいくのがかつての標準的なライフコースであった。
しかし、バブル崩壊以降、経済成長が停滞し、日本型雇用が縮小して非正規雇用が増大した。低賃金で不安定な雇用が広がる中で、未婚率が高まり家族形成が困難な若者が増えていった。こうして、持ち家取得は困難となり、賃貸住宅に長くとどまり続ける「賃貸世代」が形成された。
実際、持ち家率は平均値としては6割前後でほとんど変化していないが、世帯主が30~34歳では、1983年から2018年にかけて45.7%から26.3%へ、世帯主35~39歳では、60.1%から44.0%に低下している。
その上、賃貸住宅市場では、より低所得の借り手が増えているにもかかわらず、低家賃住宅が減少している。そのため、家賃負担は重くなった。住居費負担率は1989年の12.2%から2009年には17.2%、2014年も17.1%となっている。
さらに、低所得層の若者に限定すると状況はかなり厳しくなる。ビッグイシュー基金が行った、首都圏・関西圏に住む20~39歳、未婚の年収200万円未満の個人を対象とした調査によれば、住居費負担率が30%を超える者が57.4%、50%を超える者が30.1%と、異様に重い住居費負担を強いられている。
重い住居費負担を避けるため、全体としては親同居の割合が非常に高くなっている。国勢調査(2015年)によれば、未婚の若者一般の親同居率は63.3%だが、ビッグイシュー調査では77.4%にも上っている。
流行する「親ガチャ」
そうした中で流行しているのが「親ガチャ」という言葉だ。これは、人生が親に左右されるという現状を揶揄する言葉である。学費の高騰の中で、将来が親に左右されてしまうことに加え、住宅政策の劣悪さから、親元から自立できず、虐待状態に陥ることも少なくないことが流行の背景にある。
また、かつては若者が自立するときは、「社員寮」がおおかったのが、非正規が増えことに加え、正社員でも社員寮がコスト削減で廃止が相次いでいることも追い打ちをかけている。
「賃貸世代」と「親ガチャ」という言葉には、強い関係があるといえるだろう。今日では、住宅ローン減税などの「持ち家政策」よりも、何とか親元から自立するための賃貸者向けの住宅政策への転換が求められているのである。
参考:「親ガチャ」は努力したくない若者の言い訳か? 親に人生を左右される若者のリアル
「賃貸世代」の若者から寄せられた具体的な相談事例を見ていこう。
事例1
都内在住の24歳男性Aさんは、新聞配達の仕事から転職するのに合わせて引っ越しをしたが、転職先でコロナが発生したという理由で内定を取り消された。単発の仕事をして食いつないできたが、仕事が入らなくなり、家賃も支払えていない。
実家は母子家庭で頼れないうえ、父親に扶養照会を送ってほしくないので生活保護も受けたくない。父親は、母親がAさんのために貯めたお金を使いこんだり、敬語を使わないと怒ってくる。離婚してから養育費も払わないのに、家を継げなどとしつこいので、実家から上京して新聞配達をしていた。
生活保護の代わりにコロナの特例貸付を利用し、何とか生活している。
事例2
都内在住の25歳男性Bさんは、実家で母親と2人で暮らしている。Bさんが働いて家賃と食費分のお金を家に入れていたが、コロナの影響でイタリア料理店のアルバイトの仕事が減り、別の仕事を探そうとするも見つからない。
親からはお金を請求され、暴言も吐かれるので家に帰れなくなってしまった。親との関係が原因でパニック障害も患っているためだ。そのため、友人宅に居候している。
生活保護を申請しようとしたが、窓口では無料定額宿泊所に入所しなければならないと説明された。個室も確保されていない中で他人と一緒にいるとパニック障害を起こすだろうと思い、申請できなかった。後日、POSSEのスタッフが同行して居候状態での申請が認められた。
事例1のAさんのように、親との関係が悪く、親元から離れて一人暮らしをしている若者は少なくない。仕事がある限りではアルバイトの仕事で何とか家賃を支払っていても、ギリギリの生活であるため貯蓄もない。コロナなどのきっかけで仕事がなくなれば、たちまち家賃を滞納してしまうのである。
親に頼れる関係にないために生活保護を利用したいが、扶養照会があるために利用できないというジレンマに陥ってしまう。必要な人への給付を妨げる扶養照会はすぐにでも廃止すべきだろう。
他方、事例2のBさんのように、重い家賃負担を軽減するために実家暮らしをしている若者も多い。この場合も、家族関係が良好であればよいかもしれないが、そうでなければBさんのようにホームレス状態になりかねない。
幼少期から虐待を受けていたことで精神疾患を罹患し、働けないために実家を出ることができず、さらに虐待を受け続けるという負のスパイラルに陥っている若者も少なくない。
こうした若者が生活保護を申請する際、問題となるのが一時的な宿泊場所だ。都内などでは無料定額宿泊所が案内されることが多いが、居住環境に問題が少なくない。
「賃貸世代」の若者に居住を保障するうえでは、持ち家政策一辺倒から転換し、生活保護制度の改善とともに、普遍的な住居保障として、家賃補助や安価な公的住宅の整備が必要だろう。
選挙公約における住居保障
では、各党の住宅政策は、こうした若者の住宅事情を改善するのだろうか。公約を見ていこう(末尾参照)。
今回の選挙公約においては、住宅手当と公的住宅の拡充という二点から住居保障について提言がなされている。
住宅手当については公明、立憲、れいわが掲げており、共産は住居確保給付金の拡大を主張している。「賃貸世代」の若者にとっては、非常に期待できる政策提案である。
ただし、具体的な内容は記載されていないため、詳細に検討することは難しいが、少なくとも現行の住居確保給付金の問題点を踏まえた制度設計を提案してほしいところだ。
住居確保給付金はコロナ禍で対象者などの要件が緩和され、冒頭の通り給付が拡大していったが、それでもまだ使いづらさは残っている。給付期間が延長されたとはいえ、1年間までと限定的であること、収入要件が生活保護とさほど変わらない厳しいものであること、再支給を受けるには解雇された場合に厳しく限定されていること、などが挙げられる。
また、公的住宅については、立憲とれいわが空き家や民間住宅の借り上げによる拡充、社民が住居喪失者に空き家を活用することを掲げている。すでに、震災時には民間住宅を借り上げて被災者に提供する「みなし仮設住宅」の政策が実施されており、これを参照しているのかもしれない。
前述の通り、日本では持ち家取得が推進され、公的住宅の整備は非常に限定的にしか行われてこなかった。公的住宅の貧弱さは国際比較を通じてもわかる。2018年のデータによれば、公的住宅の割合はオランダで37.7%、デンマークで21.2%、イギリスで16.9%に対し、日本はわずか3.6%に過ぎない。
公的住宅の拡充は今日の若者の現実からすれば、非常に重要な政策であり、ぜひ拡充していくべきである。
なお、自民党、国民民主党、日本維新の会に関しては、残念ながら住居政策の明確な記載がみあたなかった。
終わりに
日本の若い世代にとっては、もはや長期の住宅ローンの負担をすることで持ち家という資産を形成することは現実的ではない。長期にわたって賃貸住宅に住み、重い家賃負担に耐えるか、実家を頼るか、という二択しかなくなっている。
こうした客観的な条件のもとでは、家賃補助や安価な公的住宅を整備し、居住権を保障しなければ、ただちに多くの若者がホームレスとなってしまうだろう。
今回の選挙では複数の政党が住居保障を公約に掲げたが、実際に実現するかどうかは不透明だ。また、どのような水準の制度になるかも重要だ。「賃貸世代」の実情に即した政策転換を、若い世代が求めていくことが必要だろう。
無料生活相談窓口
TEL:03-6693-6313
火曜日 18:00~21:00/土曜日・日曜日13:00~17:00
メール:seikatsusoudan@npoposse.jp
LINE:@205hpims
各党政策資料
日本共産党「総選挙政策 なにより、いのち。ぶれずに、つらぬく。」
れいわ新撰組「2021年衆議院選挙マニフェスト れいわニューディール」
住宅政策の比較表