衆院選での各党の労働・福祉政策は? 主要政党マニフェスト比較!
10月31日投開票の今回の衆院選における各党の労働・福祉政策に関する公約を比較検討してみたい。以下では、「労働政策」「貧困対策」「子育て・教育」「その他の福祉政策」に分類した(末尾に比較表)。
労働政策
まず、今回の選挙では、コロナ禍において貧困が拡大する中、「分配」が主要なテーマとなっている。労働政策において重要な要素の一つは、賃金の引き上げだろう。
90年代以降、日本の実質賃金は先進国で唯一下がり続けており、1997年=100とすると、2016年には89.7まで低下している。
しかも、賃金が相対的に低下を続けているだけでなく、絶対水準としても「飢餓的賃金」とすら呼べる状況になっている。最近では「手取り13万円」がTwitterでトレンド入りした。非正規雇用の平均賃金が約21万円(税・社会保険料込み)であるから、「手取り13万円」は非正規雇用にありふれていると思われる。それだけ賃金の引き上げは急務だということだ。
これについて、与党である自民党は賃上げを行う企業への支援を挙げている。また、公明党は求職者支援制度の拡充を掲げている。岸田首相が「分配」を強調している割には、野党各党の政策に比べ、分量も内容もかなり見劣りするものになっている。
それに対し、維新を除く野党は、共通して全国一律での最低賃金1500円を公約している。さらに、その他に以下のような労働政策も掲げられている。
コロナ以前より人手不足が問題となっている介護・保育労働者などのエッセンシャルワーカーについて、立憲民主党は処遇改善と非正規職の正規化、共産党はそれらに加えて配置基準の見直しにも言及している。れいわ新選組は具体的に給与の月額10万円アップを明記した。
また、コロナ禍で大きな影響を受けたシフト制労働者やフリーランス、ギグワーカーなどの保護ルールについて、立憲民主党と共産党が言及した。それぞれ「労働者保護ルール」「権利保護のルール」を作ると公約している。
一方、ハラスメントの禁止や労働者保護については、立憲民主党、共産党が明記。共産は加害者と被害者の範囲を広げ、独立した救済機関を設置すべきなど、具体的である。外国人技能実習制度については、共産党、れいわ新選組が廃止すべきとしている。
さらに、正社員化について、立憲民主党は国家公務員や自治体職員の正規雇用化を、社民党は正規雇用への転換を公約している。
そのほかに、共産党が派遣法改正、解雇・雇止め規制、勤務間インターバル制など網羅的に公約している。また、国民民主党は求職者支援制度を拡充した「求職者ベーシックインカム」の構築を提唱。維新の会は解雇の金銭解決の導入などの規制緩和とセーフティネットの整備でフレキシキュリティを高めるとしている。
このように見てくると、今回の共通した重要な争点が、最低賃金の大幅引き上げであることが見えてくる。与党政権下においても、これまで最低賃金の引き上げは一定行われてきたが、世界的に見ると非常に低い水準にとどまっている。「分配」の観点からも、最低賃金はもっとも注目すべき争点である。
また、ギグワーカーの法的保護も世界的な課題であり、日本が立ち遅れている分野である。立憲民主党、共産党がこの点に着目した点は重要である。さらに、公務員の雇用劣化は、この間のコロナ禍への対応力の不足を見えても非常に重要であり、立憲民主党がこれを重視していることも注目に値する。なお、日本の人口当たり公務員数は先進国で最低レベルの水準にある。
貧困対策
今回の選挙の主要なテーマである「分配」を実現する上で、特にクローズアップされているのが、各党による現金給付の公約だ。具体的な内容は各党によって異なっている。
自民党は非正規・女性・子育て世帯・学生を対象にするとしているが、具体的な金額への言及はない。公明党は「未来応援給付」として、0歳から高校3年生までの子どもに1人10万円の給付を明記。立憲民主党は低所得者へ年額12万円、共産党は減収した人に10万円給付などとなっている。社民党は前回と同じく一律の給付金10万円だと思われる。国民民主党と維新の会は給付付き税額控除を導入するとした。
確かに緊急の給付も重要ではあるが、それだけでは不十分だろう。すでに、サービス業に従事する女性を中心に失業の長期化も指摘されている。今年4~6月の3か月平均で失業期間が6か月を超えた女性は34万人と、昨年の28万人を上回っているという。
特に、これまでは飲食業や宿泊業などのサービス業が、失業者予備軍の流入する「雇用の受け皿」であったが、これがコロナで崩壊したことで失業が顕在化することとなっており、より抜本的な貧困対策が必要である。具体的には、雇用保険の拡充や失業扶助の創設、あるいは生活保護の改革が急務だ。また、住宅手当などにより住居保障を行うことも重要だ。
そうした観点に関連して、公明党、立憲民主党、れいわ新選組が住宅手当(家賃補助)の創設を、共産党が住居確保給付金の拡大を掲げている。さらに、立憲民主党と社民党が空き家を借り上げての「みなし公営住宅」の整備、れいわ新選組も民間住宅の借り上げによる公的住宅の拡充を掲げている。これらはぜひ実現すべき政策だろう。
生活保護についても、共産党が「生活保障制度」に名称を改め、保護費引上げ、水際作戦や扶養照会を辞めることを明記。れいわ新選組は生活保護の単給化(現在は8つの扶助が一体となっているが、それぞれを個別に受給できるようにすること)を提言した。
ただ、失業時保障としての雇用保険の拡充に言及している政党は見当たらなかった。今後、各党の政策論に加えてほしいと思う。
子育て・教育
日本では半数以上の人たちが「子どもを産み育てやすいとは思わない」と考えており、子育て世帯に冷たい「子育て罰」の社会とも言われる。特に子育て世帯の生活を経済的に支援する現金給付である児童手当を削減するなど、政府の家族関連支出の対GDP比は国際的に見ても少ないとされる。さらに、日本においては教育費について親負担原則を採っており、世界的に見ても家計負担の割合が非常に高いのが特徴だ。
それにもかかわらず、親の年収は下がり続け、他方で学費は上がり続けたため、奨学金と言う名の借金で埋め合わせることが求められている。現在、大学生・短大生の37.5%が借り入れており、平均借入額は324.3万円にも上る。
若い労働者に数百万円の借金を負わせた状態で、労働市場に送り出しているこの状況も、「分配」が必要とされる一つの背景であった。
公約を見ると、自民党、公明党はほぼ保育段階の政策のみに限られている。自民党は待機児童の減少、児童手当の強化を掲げるが、具体的な記述はない。公明党は前述の通り、0歳から高校3年生までの子どもに現金給付を行う。その他、野党では国民民主党が男性を含めた育休の付与義務化、育休中の賃金保障100%とする法改正、社会保険料免除を掲げる。
それに対して、野党共闘勢力は児童手当の拡充、学校給食などの無償化による義務教育の実質的な無償化、高等教育の授業料引き下げや給付型奨学金の拡充、奨学金返済の減免などが共通している。いずれも実現が求められる「分配」だ。
具体的には以下の通りである。
児童手当は立憲民主党が所得制限撤廃、共産党が18歳までの支給、れいわ新選組が高校生相当の年齢まで金額2倍の3万円支給。国民は所得制限撤廃と18歳まで月額1万5千円に拡充としている。
高等教育の授業料については、立憲民主党と共産党が半額引き下げ、共産党は入学金制度もなくすべきとする。れいわ新選組は完全無償化を提言。
給付型奨学金は、立憲が私立大学生や専門学校生に拡充、共産が自宅4万円、自宅外8万円の給付を75万人(現在の奨学金利用者の半分)に拡充。国民が中所得世帯に拡充するとしている。
奨学金返済については、立憲が返還免除制度の拡充と利子分の免除、国民が債務の減免、共産が減免制度に言及。れいわは全面帳消しにするとした。
終わりに
今回の選挙は、コロナ禍における貧困の拡大のなか、「成長と分配」が大きなテーマとされている。
しかし、与党特に自民党は、「分配」としての労働・福祉政策に関しては言及が少なく、具体性に欠けている。岸田首相は「新しい資本主義」「新自由主義からの脱却」を掲げたが、従来の路線を大きく変えていくようには思われない。
他方で、維新の会を除く野党各党はコロナ禍で苦しい状況に置かれたエッセンシャルワーカーや非正規雇用の待遇改善、住居保障の拡充、児童手当の強化や学費の無償化、給付型奨学金の拡大など、重要な制度について言及している。
これらはコロナ禍を通じて様々な社会運動が訴えてきたことであり、与党にあまり浸透していない点は残念だが、野党各党にはある程度それが反映された形である。生きやすい社会のための政策を実現するには、政治を動かす社会運動が不可欠であることも明記しておきたい。
そしてぜひ、今回の政策比較を各人の投票行動に生かしていただきたいと思う。
なお、各党の公約として参照したのは下記のサイトである。