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「選手の育成に関してはNBAで一番」のラプターズで躍進を誓う渡邊雄太

三尾圭スポーツフォトジャーナリスト
トロント・ラプターズの渡邊雄太(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

Text by KIYOSHI MIO/All-American Sports

 過去2シーズンはメンフィス・グリズリーズでプレーした渡邊雄太は、彼にとって最高の環境を与えられるチームを選んだ。

 NBAのチームの中で唯一カナダに本拠地を置くトロント・ラプターズは、一昨シーズンにNBAチャンピオンに輝いた強豪チーム。渡邊が生まれた翌年の1995年に誕生したラプターズは歴史こそ浅いが、7年連続でプレイオフ出場中で、過去7シーズンで6度も地区優勝をしている。

 スーパースターはいないが、個人の力ではなく、チームの総合力で戦う軍団で、昨季の平均失点はリーグ・ナンバー1だったように守備力を売りにする。

 チームの主力には育成リーグのGリーグを経験した選手が多く、選手の育成にとても高い定評を得ている。

 「ラプターズはGリーグ上がりの選手もかなりいますし、選手の育成に関してはNBAの中で一番だと僕も思っている。そういうチームの中でどれだけ成長できるのか――それは僕自身の努力次第の面もあるけど――実績がある組織の中で自分を高められるのはとても楽しみ」と渡邊はコメントする。

 ラプターズ第2の男、206センチのパスカル・シアカムは2016年のドラフト1巡目指名選手だが、全体26位とそこまで評価の高い選手ではなかった。

 カメルーン出身のシアカムが本格的にバスケットボールをプレーしたのは高校生のとき。16歳のときにカメルーンからアメリカに渡った当初は、ポテンシャルは高いが基礎技術が足りない選手だった。大学はあまり強くないニューメキシコ州立大学に進学。大学で2年プレーしただけで、アーリーエントリーを宣言して2016年のドラフトに望んだ。

 もしも、シアカムがラプターズ以外のチームに入団していたら、今頃はNBAでプレーしていないかもしれない。NBAでは過去にも数多くのバスケ経験の少ない外国人選手がポテンシャルを買われて入団したが、才能を開花できずに終わった選手も少なくはない。

 NBA1年目は55試合に出場(38先発)したシアカムはDリーグ(現Gリーグ)でもプレー。ラプターズ905(ラプターズのDリーグ・チーム)のDリーグ優勝に大きく貢献して、Dリーグ・ファイナルMVPにも選ばれた。

 NBAでは1年目に試合平均4.2得点、2年目は7.3得点だったシアカムは、3年目の2018-19年シーズンに16.9得点と成績を大きく伸ばして、リーグで最も成長した選手に贈られるMIP賞を受賞。ラプターズのNBA優勝にも大きく貢献して、そのオフに4年総額1億2990万ドル(約135億960万円)で契約を延長した。

 昨季はオールNBAのセカンドチームにも選ばれ、NBAトップレベルの仲間入りを果たした。

2019年オフに4年総額約135億円の超大型契約を手にしたパスカル・シアカム
2019年オフに4年総額約135億円の超大型契約を手にしたパスカル・シアカム写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

 シアカムが才能をフルに開花できたのは、ラプターズの育て方がうまかったからに他ならない。攻守両面で常に全力を尽くし、自己よりもチームを優先する選手を育て上げている。

 シアカムは評価が低かったとはいえドラフト1巡目だったが、ラプターズ第3の男であるフレッド・バンブリートは渡邊同様にドラフト外から這い上がってきた選手だ。

 バスケットボールでは中堅校のウィチタ州立大学でプレーしたバンブリートは、チームを4年連続してNCAAトーナメントに出場させたが、強豪校でプレーしていなかったことから2016年のドラフトで指名するチームは現れなかった。

 ラプターズのサマーリーグ・チームでプレーして、トレーニング・キャンプでの激しい競争を勝ち抜いて、開幕ロースターの座を勝ち取ったが、NBA1年目は37試合の出場に留まった。Dリーグでは16試合に出場して、16.9得点、7.6アシストとエース級の働きでラプターズ905を牽引。持ち前の勝負強さを発揮して、ラプターズ905をDリーグ優勝に導いた。

 2年目からはNBAに定着して、成績も1年目の2.9得点、0.9アシストから2年目は8.6得点、3.2アシスト、3年目は11.0得点、4.8アシスト、そして4年目の昨季は17.6得点、6.6アシストと毎年成績を伸ばしている。

 今年の開幕前には4年総額8500万ドル(約88億4000万円)で契約を延長。これはドラフト外選手の中ではNBA史上最高額の契約であり、バンブリートは渡邊にとって大きな励みとなる存在だ。

ドラフト外から約88億円の大型契約を手にする選手へと成長したフレッド・バンブリート
ドラフト外から約88億円の大型契約を手にする選手へと成長したフレッド・バンブリート写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

 昨季、ブレイクしたノーマン・パウエルもラプターズの育成システムで磨かれた選手。タフなディフェンスを武器にする選手で、ドラフト2巡目指名ながら主力選手として活躍している。

 今季からラプターズに加入したウクライナ出身のビッグマン、アレックス・レンは「お金ではなく、最上級の組織でプレーできる機会を選んで、ラプターズ入りを決めた。このチームには勝者のカルチャーが根付いている。それにラプターズでプレーする外国人選手は、ほぼ全員が大きく成長している。このチームで数年鍛えられると、見違えるような選手になる」とラプターズを選んだ理由を説明する。

 レンは2013年のドラフトで1巡目全体5位指名を受けてフェニックス・サンズに入団。とても高い評価を得ていたが、NBAでプレーしたここまでの7シーズンで入団当初の期待には応えられてはいない。

高度なバスケIQとオールラウンダーを求めるラプターズ

 ラプターズのニック・ナース・ヘッドコーチ(HC)は、高度なバスケットボールIQを持ち、攻守両面でマルチな活躍ができるオールラウンドな選手を好む。

 「ラプターズはすごくディフェンシブなチームで、全員が運動量を増やしてチームディフェンスで守る部分を得意としていて、そこからのトランジションの速い攻撃でどんどん得点を重ねていくというのが強みだと思っています」と渡邊はラプターズの印象を語るが、このチームは渡邊の持ち味を十分に引き出し、用いることができる組織だ。

 渡邊はサイズがありながらも走れる選手で、トランジション・オフェンスにも対応できる。守備では複数のポジションの選手とマッチアップができ、バスケットボールの戦術理解度も非常に高い。

 「ディフェンスの決まりごとがいくつかある中で、それは僕はすごく徹底して練習、試合の中でもできていたと思いますし、それが結果として数字としても残っていた。そこは完全にラプターズのシステムに僕のディフェンス力がフィットすると思っていますし、これからもどんどんアピールしていける部分だと思っています」

 ナースHCは「バスケットボールの理解度が高く、オフェンスではボールハンドリング、パス、カットなど器用に動け、ディフェンスでも言ったことを忠実に遂行できる。安定していて、とても使い勝手の良い選手だ」と渡邊を評価する。

 昨季もGリーグでは中心選手として活躍した渡邊だが、NBAではあと数シーズンは中心選手ではなく、サポート役としての働きが求められる。控え選手にとってHCから使い勝手が良いと評価されることはとても重要で、起用場面も増えてくる。そこで結果を積み重ねていくことが、NBAへの定着に繋がっていく。

 「最も大切なのは、彼が正しい方法でプレーしていたことだ。小さなことにも忠実で、汚れ役も厭わない。そして、彼は素晴らしいチームメイトで、一緒にプレーしたいと感じさせる」とナースHCは付け加えた。

 組織的なバスケットボールをするラプターズでは、能力が高くても自分勝手な選手は評価されず、基本に忠実で規律正しいハードワーカーが好まれる。スタッツに現れなくても、チームに役立つ泥臭く献身的なプレーが自然にできる渡邊は、ナースHC好みの選手だ。

 「自分のプレースタイルを貫いた結果、この契約を勝ち取ることができました。契約を勝ち取るために何か特別、今までの自分のやってなかったことをしたかと言うと全然そうではなくて、今まで自分がやってきたことを徹底してやった結果、契約を勝ち取ることができた」

 「もっと身体を強くすることと、もっと3ポイントシュートをシーズン通して高確率で決めること、この2つが特に大事になってくる」と渡邊は今後の課題を挙げたが、シュートに関しては「彼はシュートもうまく、スタッツの結果よりも良いシューターだ」とナースHCから褒められている。

 渡邊雄太のNBA3シーズン目は、過去2シーズン以上に成長が期待できる楽しみなシーズンになりそうだ。

スポーツフォトジャーナリスト

東京都港区六本木出身。写真家と記者の二刀流として、オリンピック、NFLスーパーボウル、NFLプロボウル、NBAファイナル、NBAオールスター、MLBワールドシリーズ、MLBオールスター、NHLスタンリーカップ・ファイナル、NHLオールスター、WBC決勝戦、UFC、ストライクフォース、WWEレッスルマニア、全米オープンゴルフ、全米競泳などを取材。全米中を飛び回り、MLBは全30球団本拠地制覇、NBAは29球団、NFLも24球団の本拠地を訪れた。Sportsshooter、全米野球写真家協会、全米バスケットボール記者協会、全米スポーツメディア協会会員、米国大手写真通信社契約フォトグラファー。

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