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新型コロナ 日本・世界中で急激な感染者の増加 なぜオミクロン株は広がりやすいのか?

忽那賢志感染症専門医
筆者作成

現在、世界中で急激な新型コロナ感染者の増加が観察されており、その背景にはオミクロン株の存在があると考えられます。

日本国内における新型コロナの流行「第6波」においてもオミクロン株が主流になっています。

オミクロン株はなぜこれほどまでに広がりやすいのでしょうか?

 

世界中で感染者が爆発的に増加している

世界における週ごとの新型コロナ患者報告数の推移(WHO. Weekly epidemiological update on COVID-19 - 13 January 2022)
世界における週ごとの新型コロナ患者報告数の推移(WHO. Weekly epidemiological update on COVID-19 - 13 January 2022)

現在、世界で報告されている新型コロナの感染者数がこれまでにないペースで急激に増加しています。

過去2年間の流行では、週当たりの感染者数が600万人を超えることはありませんでしたが、現在は1500万人に達しています。

これは2021年11月に南アフリカ共和国などで見つかり、世界的に拡大したオミクロン株による影響と考えられます。

人口100万人当たりの新規感染者数の推移(Our World in Dataより)
人口100万人当たりの新規感染者数の推移(Our World in Dataより)

特にヨーロッパ、北米での感染者数の増加が顕著であり、各国でかつてない規模の流行がみられています。

フランスでは人口100万人当たり4000人以上が1日に感染しており、これは日本に当てはめると1日40万人の感染者数が出ている計算になります。

フランスのこれまでで1日の最多感染者数は2020年11月に記録した100万人当たり約900人でしたが、現在はこの4倍以上の規模の流行が起こっていることになります。

東京都における新型コロナ患者の新規感染者数と増加比の推移(第74回東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議資料より)
東京都における新型コロナ患者の新規感染者数と増加比の推移(第74回東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議資料より)

日本国内でも2021年12月下旬からオミクロン株の市中感染例が報告され始め、年末年始から新型コロナの感染者が急増しています。

2022年1月中旬の時点で、東京や大阪ではすでにオミクロン株が8割を超えて主流となっています。

オミクロン株は変異株の中で最も感染者数の増加が速い

イギリスで5症例目が報告されてからの日数とそれぞれの変異株感染者の推移(UKHSA publications gateway number GOV-10924)
イギリスで5症例目が報告されてからの日数とそれぞれの変異株感染者の推移(UKHSA publications gateway number GOV-10924)

アルファ株やデルタ株など、世界中で様々な変異株が流行してきましたが、これまでの変異株の中でもオミクロン株は最も感染者数の増加が速いとされます。

イギリスでは、感染者数が20万人に達するまでにかかる期間がデルタ株では約100日だったのに対して、オミクロン株では半分の約50日でした。

オミクロン株はデルタ株よりも濃厚接触者が感染しやすい

デルタ株とオミクロン株の濃厚接触者の感染しやすさ(UKHSA publications gateway number GOV-10869より)
デルタ株とオミクロン株の濃厚接触者の感染しやすさ(UKHSA publications gateway number GOV-10869より)

オミクロン株では、濃厚接触者になった人が感染しやすいことも分かっています。

デルタ株と比べて、オミクロン株は

・濃厚接触者となった家族が感染者となる頻度:1.42倍

・家族以外の濃厚接触者が感染者となる頻度:2.63倍

と算出されており、全く同じ状況で濃厚接触者となった場合に、デルタ株では感染していなかった状況でもオミクロン株では感染しうるということになります。

なぜオミクロン株は感染しやすいのか?

このように、オミクロン株はデルタ株よりもさらに感染力が強いようです。

その理由として、

・上気道で増殖しやすい

・潜伏期が短い

・ワクチンや過去の感染による免疫から逃れやすい

などが考えられています。

オミクロン株は上気道で増殖しやすい

オミクロン株とデルタ株が増殖しやすい部位(doi: https://doi.org/10.1101/2021.12.31.474653および香港大学の報告より筆者作成)
オミクロン株とデルタ株が増殖しやすい部位(doi: https://doi.org/10.1101/2021.12.31.474653および香港大学の報告より筆者作成)

オミクロン株の特徴として「感染力の強さ」「重症化しにくさ」が分かってきましたが、これはウイルスの増殖する部位がこれまでの新型コロナウイルスと異なるためではないか、ということを示唆する複数の研究結果が出てきています。

ヒトでのものではなく、実験室での肺組織を使った研究や、動物実験ではありますが、オミクロン株は従来のウイルスよりも肺組織で増殖しにくい、そして上気道で増殖しやすいといった研究結果が香港ベルギーイギリス、そして日本からも報告されています。

実験室や動物実験での結果は、必ずしもヒトでの病態を反映しないことがありますので、これらの結果をそのままヒトに当てはめることはできませんが、これらの研究結果が感染したヒトでも起こっているとすれば、上気道でウイルスが増殖しやすいので飛沫に含まれるウイルス量が増えて感染力が強くなっている一方で、下気道でウイルスが増殖しにくいことで肺炎を起こしにくく重症化しにくいことにつながっている可能性があります。

潜伏期が短いためサイクルが速くなる

潜伏期が5日、3日である場合の感染の広がりやすさの比較(筆者作成)
潜伏期が5日、3日である場合の感染の広がりやすさの比較(筆者作成)

新型コロナでは感染してから発症するまでの期間(潜伏期)は約5日とされていました。

しかし、オミクロン株ではこの潜伏期が従来の新型コロナウイルスよりも短くなっているようです。

アメリカのネブラスカ州、そしてノルウェーからの報告では、オミクロン株による感染者に接触した後に発症した人の潜伏期は約3日でした。また韓国からも平均潜伏期間は3.6日であったと報告されています。

従来の新型コロナウイルスよりも潜伏期が約2日短くなっている、ということになります。

感染者が同じ人数に感染させることを前提とした場合、図のように潜伏期が短い方が感染者が増加するスピードが速くなります。

オミクロン株の感染者が広がりやすい理由の一つとして、潜伏期(正確には発症間隔 serial interval)が短くなっているためと考えられます。

ワクチンや過去の感染による免疫から逃れやすい

従来の新型コロナウイルスとオミクロン株の免疫逃避の強さの違いと感染しやすさ(筆者作成)
従来の新型コロナウイルスとオミクロン株の免疫逃避の強さの違いと感染しやすさ(筆者作成)

日本では約8割の方が新型コロナワクチンの2回接種を完了しています。

このため、デルタ株などの従来の新型コロナウイルスに対して免疫を持つ人が多くなっていたため、感染が広がる余地が少なくなっており感染者が少ない状況が続いていました。

しかし、オミクロン株は新型コロナワクチンを2回接種している人が持つ免疫や、過去に感染した人が持つ免疫からも逃れて感染が成立しやすい、という特性があります。

このため、デルタ株が広がりにくかった地域にも、オミクロン株が侵入して感染者が増加しています。

オミクロン株の感染の広がりやすさの一部は、この特性によるものと考えられています。

オミクロン株に対しても感染対策の原則は変わらない

新型コロナウイルス感染症の感染経路(Nature Reviews Microbiology volume 19, pages528–545 (2021))
新型コロナウイルス感染症の感染経路(Nature Reviews Microbiology volume 19, pages528–545 (2021))

このように、オミクロン株は従来の新型コロナウイルスよりも広がりやすい特性があります。

しかし、特殊な経路で感染するようになったわけではなく、これまでと同じ感染経路で、これまで以上に感染しやすくなっただけですので、これまでの感染対策が無効になったわけではありません。

新型コロナの感染経路は、

・接触感染:ウイルスで汚染した物、感染した人の手などに触れることで自分の手などにウイルスが付着し、その汚染した手で目や鼻など粘膜に触れる

・飛沫感染:会話などで発生する飛沫を浴びる

・エアロゾル感染:特に換気の悪い屋内では飛沫の飛ぶ距離(1-2M)を超えて感染が起こり得る

の3つであり、この3つの感染経路を意識した感染対策が重要です。

接触感染に対してはこまめな手洗い、飛沫感染やエアロゾル感染に対してはマスク着用と3密を避けることで感染を防ぐことができます。

これらの基本的な感染対策を、これまで以上に丁寧にしっかりと行うようにしましょう。

手洗い啓発ポスター(羽海野チカ先生作成)
手洗い啓発ポスター(羽海野チカ先生作成)

【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】

感染症専門医

感染症専門医。国立国際医療研究センターを経て、2021年7月より大阪大学医学部 感染制御学 教授。大阪大学医学部附属病院 感染制御部 部長。感染症全般を専門とするが、特に新興感染症や新型コロナウイルス感染症に関連した臨床・研究に携わっている。YouTubeチャンネル「くつ王サイダー」配信中。 ※記事は個人としての発信であり、組織の意見を代表するものではありません。本ブログに関する問い合わせ先:kutsuna@hp-infect.med.osaka-u.ac.jp

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