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韓国が1年経ってもGSOMIAを破棄できない4つの理由

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
GSOMIAの破棄を求めた韓国市民団体のデモ(主催者提供)

 昨年の今頃は韓国では「破棄」か「延長」かで、GSOMIA(日韓軍事情報包括保護協定)の問題が大騒ぎとなっていた。しかし、今年は実に静かだ。

 日本の輸出厳格化措置とホワイト国(輸出管理優遇対象国)から除外されたことへの対抗措置として韓国政府はGSOMIAを延長しない方針を決定し、昨年8月24日に日本に終了(破棄)を通告したが、失効(11月23日)直前に終了宣言を留保した。その結果として、GSOMIAは自動継続されているが、協定上ではあやふやな、宙ぶらりん状態にあることには変わりはない。

 というのも、韓国政府が「我が政府は効力をいつでも終了できるとの前提で終了通報の効力を停止した」と説明しているからだ。即ち、「条件付き猶予」の状態が続いているだけで、協定が自動的に1年間、保証されたものではないと言うのが韓国の立場のようだ。

 実際に、韓国外交部はこの夏、国会に提出した業務報告で「終了通報効力の再稼働(reactivate)については慎重に検討している」として「我が政府はいつでも効力を終了できるとの前提で昨年11月22日に終了通報の効力を停止した」と説明していた。

 韓国政府はこの1年間、「日本が輸出規制を解除しなければ、破棄せざるを得ない」と日本を揺さぶってきた。文在寅大統領自身も昨年11月19日の「国民との対話」でGSOMIA終了を決定した原因は「日本側が提供した」として「日本がまず、対韓輸出規制を強化した問題を解決すべきである」との立場を明らかにしていた。

 輸出規制解除の期限も区切り、最初は今年3月迄、次が5月31日迄、さらに輸出厳格化措置が取られた7月1日迄、それが無理とわかると、自動延長通告期限である8月24日迄と、その都度デッドラインを設定し、輸出厳格化措置が撤回されなければ終了する考えであると言い続けてきたが、1年経っても日本の輸出規制は続いているのに今なお、有言不実行である。

 韓国大統領府は公式的には「これまでの説明と同じで、いつでも終了できる」と繰り返している。韓国がこの期に及んでも破棄に踏み切らないのは元徴用工判決に基づき日本企業の資産が現金化された場合に予想される日本の更なる経済制裁への対抗措置としてGSOMIAをカードとして温存しているとの見方もあるが、現実には破棄できる状況にはない。その理由は大きく分けて4つある。

 一つは、米国がGSOMIAの破棄は日米韓安全保障体制、米韓同盟関係、米国のインド・太平洋戦略に悪影響を及ぼすとして韓国側に維持を求めていることにある。

 米国務省は昨年11月の韓国のGSOMIA延長猶予決定に歓迎の談話を発表したが、その際、韓国の決定を終了猶予ではなく、延長措置として規定していた。また、この夏にはすでに「日韓両国が迅速かつ効果的に軍事情報を共有する力量は日韓の安全保障に利益になるだけでなく米国の安保利益にとってもより幅広い地域にとっても重要である」との見解を明らかにしていた。

(参考資料:「米国の圧力に屈した」!文政権のGSOMIA破棄中断に支持層が猛反発!

 米国との同盟強化を謳っている文政権としては最大の同盟国の意向は無視できない。米国に楯を突けば、米韓関係の悪化にとどまらず、米国を日本に追いやりかねない。まして、バイデン新政権にトランプ政権下で進められていた米朝対話の継続を求め、また、南北対話への理解を取り付けるには米国との良好な関係を維持しなければならない。

 次に、昨年2月の米朝首脳会談の決裂により北朝鮮が核とミサイル開発に本格的に回帰すれば、再び軍事的緊張が高まるからだ。

 金正恩委員長はトランプ大統領に核実験とミサイル発射の猶予を約束していたが、昨年大晦日の党中央委員会全員会議での演説で「核兵器とICBM実験発射中断など我々が取っていた非核化措置をもはや継続する理由がなくなった」と発言し、今年10月10日の軍事パレードに新型の大陸間弾道ミサイル「火星16」と潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)「北極星4」を登場させていた。北朝鮮が仮に発射ボタンを押せば、2017年のような一触即発の事態の再現もあり得るのでとてもではないがGSOMIAは破棄できない。

(参考資料:GSOMIAを破棄した韓国を後方支援せず、ミサイルをお見舞いする北朝鮮の3つの狙い

 さらに、国内の破棄反対の声を無視できないことだ。

 最大野党の「国民の力」や第3野党の「国民の党」は破棄には反対の立場を取っている。また文在寅政権内でも安全保障重視の国防部、米韓同盟関係強化に乗り出している外務省、そしてそれらを統括する国家安全保障会議の徐薫室長も「破棄には慎重でなければならない」と反対していることである。

 最後に、喫緊の外交課題である日本との関係改善を模索していることだ。

 側近の朴智元・国家情報院長と与党(共に民主党)所属の金振杓・韓日議連会長が11月に相次いで来日し、菅義偉首相らに徴用工問題の政治決着もしくは来年7月の東京五輪までの徴用工問題の棚上げなどを打診したのも日中韓首脳会談の年内実現のみならず、文大統領が政治生命を賭けている米朝及び南北関係改善に向けての日本の協力が不可欠であるからだ。

 政治決着の象徴として菅首相との間で第2の「小渕・金大中パートナシップ宣言」(1998年)を交わしたいのが本心ならば、また、東京五輪での米朝、南北、日朝、さらには南北日米の4者会談を真剣に考えているならば、GSOMIAの破棄はとてもできない話である。

(参考資料:日本に段々と擦り寄る韓国の「徴用工解決策」 保守系野党議員が「屈辱的外交惨事」と批判!

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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