原宿に新たなパワースポットが出現⁉ 注目の現代美術家・笹田靖人が原宿を“遊ぶ”体感型アート展が話題
国内外から高い評価を得ている現代美術家・笹田靖人が原宿を“遊ぶ”
トップクリエイターが、原宿を題材に作品を制作、原宿に仕掛けていく「Creator’s Power Spot 原宿」プロジェクト第一弾「Play原宿1」。
参加クリエイターはカツセマサヒコ(小説家)、上出遼平(ディレクター)、野性爆弾・くっきー!(芸人)、松本花奈(映画監督)、Mika Pikazo(イラストレーター/キャラクターデザイナー)、After the Rain(そらる×まふまふ/音楽ユニット)そして0.3ミリペンを使い細密画を描く現代美術家・笹田靖人だ。その独特の発想力と圧倒的な技術から生み出される細密画は、国内外から高い評価を得ている。東方神起や叶姉妹とのコラボでも話題を集めた。
7月30日、原宿・竹下通りのサロン(竹下ワーフ原宿)で開幕した『笹田靖人 原宿POWER SPOT』は、壁と床一面に笹田の作品を張り巡らせた、その脳内をイメージした空間だ。海外からの旅行者、親子連れ、若い人たちとあらゆる世代の人達が訪れている。その空間で人気なのが、子供達を中心に来場者が大きなキャンバスに自由に絵を描き、そこに笹田が絵を加え一枚の作品を完成させるコラボだ。特に笹田は子供達の発想力や絵の描き方に、大きな刺激を受けているという。
「僕を見いだしてくれた、ファッション業界の方、原宿に恩返しができる」
人通りが絶えない竹下通りに面したその空間に一歩足を踏み入れた瞬間、強烈なエネルギーに包まれる。笹田が絵に込めた情熱や創造力が高い熱量となって来場者にパワーを与えてくれるようで、まさにパワースポットだ。笹田に原宿という場所から感じるもの、来場者に何を感じて欲しいのかをインタビューした。
「僕は今芸術をやっていますが、見い出してくれたのはファッション業界の方々なんです。CA4LAという帽子のお店の社長の好意で、表参道で1か月間個展を開くことができ、その個展の写真がきっかけで、ファッションブランド「Yohji Yamamoto」の山本耀司さんと知り合うことができました。なのでこの街に助けてもらったという思いがあるので、今回のお話をいただいた時は、ようやく帰ってこれた、恩返しができると思いました」。
山本耀司に認められ、世界デビュー
笹田は岡山県出身。京都の大学で学び、最初に原宿に来たときは、「ここは自分に合わない。もう二度と来ないだろうな」と思ったという。
「原宿はファッションの街で、おしゃれな人がたくさんいるじゃないですか。僕はお金がなかったので母親が作った洋服を着ていたりしたので、『あ、自分とは関係ない街なんだ』と思いました。でも僕の絵をいいと言ってくれる人は、ギャラリーの人ではなく、ファッション関係の方でした。その方たちが認めてくれて『笹田、お前のキャンバスを洋服に変えてみないか』ってチャンスを与えてくれました。それで作った様々な作品に対して、感度の高い人たち、新しいものが好きなこの界隈の方達が反応してくれて、『ああ、僕がいる場所は芸術界でなくてファッション界かもしれない』って思いました」。
山本耀司に認められ、いきなりパリコレに連れて行かれ、笹田が絵を描いた革ジャンを来たモデルがランウェイを闊歩。ファッション業界で認められたと同時に、笹田の名前と作品が徐々に広がっていき、ギャラリーからも個展の誘いがきたという。
「閉ざされているけど閉ざされていないこの空間と僕の絵は、情報量が多くて、“間”に耐えられない僕そのもの」
「Yohji Yamamoto」とのコラボは、現在も続いている。笹田は自分が認められたのはまずファッション業界、表参道、原宿という街だったという恩を忘れることなく活動し、今回の「Play原宿1」にも積極的に取り組んでいる。『笹田靖人 原宿POWER SPOT』は原宿の象徴・竹下通りにあり、ドアを開けると壁も床も笹田の巨大な絵が覆っている不思議な空間だ。エネルギーに満ちている空間だが、それは笹田そのものだ。
「竹下通りって日中はとにかく人の流れが激しくてエネルギーが溢れていて、その一角に作ったココってちょっと不思議なスペースだと思いませんか?閉ざされているけど閉ざされてないというか。この絵は僕がこれまで書いたたくさんの作品をコラージュして、一枚の作品にしました。とにかく情報量が多いんです。僕自身もすごくしゃべるので、作品と僕自身が本当に同じなんです。間(ま)に耐えられない(笑)。初対面の人にもずっとしゃべっています。それがもう全部絵に出ている。余白があったり、ちょっとでも描けるスペースを見つけたら、すぐに描いてしまいます。僕は絵を描くことしかできないし興味がないので、生活の全てが絵に向かっていて、この絵が生きている証になっているんです」。
熱い。笹田はインタビューでもこちらに全力でエネルギーをぶつけてくる。力を抜くとか、ペース配分とかは一切考えない。「要は、賢く生きるということができない」と語っていたが、だから絵に込められた迸るエネルギーがパワーとなって、見た人の心をザワザワさせる。
来場者とコラボして、作品を完成させる。子供たちの感性に大いに刺激を受ける
笹田の心をザワザワさせるのは、この会場で大きなキャンバスに子供達と一緒に絵を描いている時だという。子供の純粋さとエネルギーに大いに刺激を受けている。
「子供って本当にすごいですよ。若い人や大人に『描いてみませんか?』と言うと、すごく迷うんです。それでいざ描いてみると、うまく描こうとするんですよ。うまく描けないのはわかっているけど、体のいいもの、当たり障りのないものを描こうとする。でも子どもたちはまずはインクが出るか出ないかを、いきなキャンバスの上で確かめるんです(笑)。最初はビックリしました。それでぐちゃぐちゃに塗って、もうペン先がつぶれようと、次に描く人のことなんか考えないでグリグリ塗っていくんです。誰も僕に描き方を『教えて』なんて言わないです。で、「お兄ちゃん、すげえだろ」って言うから「キリンを描いてるのかな」っていうと「これは、配達する車だ」と。その概念が新鮮(笑)。ペンを次々と替えるし、もうアイディアが止まらなくてすごいですよ」。
「大人はなんでも線で捉えて描くんです。でも子供達は例えばバナナを描いてもやっぱり色から入るんです。大人はバナナを縁取って、後から中を塗れば完成するという計算が見える。でもバナナを色から捉えて描いて、そこから何も考えていない子供達の描き方が僕に近い。何も考えない、それが子供のような絵をかく秘訣なんです」。
「来て下さった方が描いた絵に、自分の絵を重ねて、密度を上げて、そこから見えてくるものがある」
と、興奮気味に語ってくれた。笹田は普段からほとんど人に会わず、アトリエでひたすら絵を描くことに没頭している。だから人とコミュニケーションを取るこの展示会が新鮮で、子供の感性に触れることで、発見や気づきが多いという。
「僕が小さい時は親に褒められたくて絵を描いていたのに、ここに来て描いてる子たちは、そういう気持ちが全くないんです。逆にいうと今の子供達ってこんなに芸術家肌なのかなって感じるようなアグレッシブな子が多いです。子供が描いているところを見守っている親が、子供に感動しています。僕が子供に『何でここはこうしたの?』って聞くと『これはこうで』って、訳がわからない理屈なんだけど(笑)、ちゃんと説明してくれるんです。自分が描いた絵をちゃんとプレゼンできる子供を見て親は、『うちの子ってこんなに情熱があったのか』って感動しています。僕は子供達が描いた絵の上に自分の絵を重ねていきます。もっともっと重ねて、もっと密度を上げて、そこから見えるものがある。普通のギャラリーではできないことだし、だから僕もこの展示会の期間中は思い切り楽しもうと思っています」。
海外からの来場者も多い。「言葉は通じないけど絵だと通じる」
海外からの来場者も多いが、日本人とはまた違う楽しみ方をしていて、それぞれの国民性を感じることができて、それも新鮮だと教えてくれた。
「海外の人は『描いて』って言わなくても描いてくれるんです。それも座り込んで2時間くらい描いています。それで描き終わったら、今度は僕の絵を見てクロッキーしています。海外の美術館では、イーゼルを置いてデッサンする人が多いじゃないですか。あの感じで楽しんでくれます。ここは子供達をはじめ、海外の人達や一緒に絵を描いてくださる方と僕とのコラボレーションの場で、みんなの力で作り上げるというか、特に海外の人とは言葉が通じないのに、絵だと通じるんです。絵だと仲良くなれるんです。絵だと誰も喧嘩しないし、戦争も起きない。世界中の人たちが、『あ、ここに描けばいいのね』という共通認識をもってくれる。それが素晴らしいと思う」。
「混沌というか混乱というか、こういう訳のわからないものを面白がって受け入れてくれるのが、原宿という街」
笹田は改めて原宿という街の面白さと懐の深さを感じている。
「こういう訳のわからないものを受け入れてくれるのが、やっぱり原宿。混沌というか混乱というか、でもそういうものだからこそおもしろいんだ、という目で見てくれるのはやっぱりこの街ならではだと思う。この空間が実験室のような感じです」。
「笹田靖人 原宿POWER SPOT」は8月31日まで開催している。会場では新作グッズとして『原宿パワースポットGirl』がデザインされたTシャツ、トートバッグ、クリアファイル、ステッカー、ポストカードが販売されている。
開催期間:8月31日(木)まで
開館日:毎週木曜日〜日曜日
時間:13:00~19:00
場所:竹下通り 竹下ワーフ原宿1F
入場料:無料