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#旧統一教会 の講演で分速1200万円超稼いだトランプ氏は何を話したのか 問題の根源は日本共産党?

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
UPFから巨額の講演料を得たトランプ氏。写真:UPFのYouTube動画より

 2024年の米大統領選の共和党指名候補争いにおいて、支持率はもちろん、選挙資金集めでもリードしているトランプ前大統領。同氏の元には、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の関連団体「UPF(Universal Peace Federation=天宙平和連合)」からも巨額のお金が流れている。毎日新聞によると、同氏は「UPF」から、ビデオ出演3回分の講演料として、計250万ドル(当時の為替レートで約3億円)という巨額の講演料を受け取っていた。

 トランプ氏が、巨額の講演料を稼いでいることについては、今年7月、ワシントン・ポストCNNなどの米メディアも報じていた。それによると、2022年に「UPF」が開催した2つのワールドサミットにビデオ出演したトランプ氏は、講演料200万ドルを受け取っている。

 毎日新聞の入手した公文書を見ると、2つのワールドサミットに対し、100万ドルずつ受け取っているのに加え、2021年にビデオ出演した際の講演料50万ドルが加わって総額250万ドルとなっている。

 大統領選に出馬した候補者たちは、米政府倫理局(OGE)に財務報告書を提出する義務があるが、7月に提出された財務報告書によると、トランプ氏は退任後、海外での事業や講演、ホテル事業、ゴルフ事業などにより約1ビリオンドルの収入を得ている。うち、講演料については、トランプ氏は各講演で15万ドル〜250万ドルを得ており、総額1270万ドル近く稼いでいた。つまり、トランプ氏が「UPF」から得たという250万ドルの講演料は、その約20%を占めていることになる。

 そのような巨額な講演料をもらったトランプ氏は、いったいどんなことを話したのか?

 「UPF」は2022年2月に行われたワールドサミットでトランプ氏に100万ドルの講演料を支払っているが、同サイトによると、トランプ氏はビデオ出演で基調講演を行っており、講演時間は9分18秒。トランプ氏はこの講演で、1秒間に約1792ドル=約20万8,000円(当時の為替レートの$1=116円換算)を稼いだことになる。1分間では1,200万円超だ。以下がそのビデオである。

 トランプ氏はまず、「UPF」と総裁の韓鶴子氏に感謝し、少女の時に北朝鮮から脱出した韓氏の話は世界に感動と勇気を与えている、教祖の文鮮明氏とワシントン・タイムズ(教団系の米保守系日刊紙)を創設したことにも感謝していると称賛後、スピーチを始めた。スピーチ前半では、

「私が大統領に就任した時、専門家たちは韓半島の状況を絶望視していた。弱さ、優柔不断、古い考え方は、危機、対立、そして憎しみを生み出しただけだった。私は古い発想を捨て、大胆な新しい外交を推進した。同盟国である日本の安倍晋三首相や韓国の文在寅大統領と協力して、強力な措置を講じた。金正恩総書記と初めて直接会い、対談して、非核化の必要性を訴えた。金総書記と信頼関係を築き、歴史を作り、将来の突破口になる基盤を作ることに成功した。金総書記は長距離ミサイルを核実験を止めることを約束してくれた」

と自身の対北朝鮮政策は成功したと自賛。しかし、北朝鮮のミサイル実験の回数が増え、緊張状態が高まっていることに言及し、スピーチ後半では、

「金総書記はアメリカの指導者を尊敬も信頼もしていない。私が大統領だったら、ここまで事態が悪化することはなかっただろう。アメリカの現在の指導者の弱さをアメリカ自体の弱さだと思わないでほしい。この2つは異なるものだ。アフガンからの撤退とその後の処理問題や他の地域で見せたアメリカの失態は、ある特定の現職政治家たちの支持率を下げたかもしれない。しかし、米国民の意思は強固なものとなり、彼らは変化を望んでいる。アメリカは今まで以上に強く偉大な姿で戻ってくるだろう」

とバイデン政権の弱さを批判し、強いアメリカに回帰すると訴えた。とても耳慣れたスピーチ内容だ。しかし、そんないつもの内容に「UPF」は1分1200万円超も支払っていた。

 ちなみに、このワールドサミットには、アメリカからは、大統領選に出馬しているマイク・ペンス氏もビデオ出演した他、元国務長官のマイク・ポンペオ氏、元下院議長のニュート・ギングリッチ氏、元国防長官のマーク・エスパー氏、元副大統領のディック・チェイニー氏、元副大統領のダン・クエール氏といった共和党の重鎮たちもスピーチを行っている。

 同サイトによると、今年5月初めに開催されたワールドサミットでもトランプ氏はビデオで1分間の祝辞を送っており、ポンペオ氏とギングリッチ氏も参加してスピーチをしている。

 ちなみに、ギングリッチ氏は2019年に名古屋で行われたワールドサミットでもスピーチをしたが、今年のスピーチでは、日本で旧統一教会が問題に直面している件について、こう述べている。

「日本では信教の自由に対するいくつかの課題、特に、統一教会の取り組みに対する課題があります。我々は調査を通じて、こうした問題の根源は、当然のことながら、日本共産党にあることが分かりました。したがって、私たちはそのような勢力に断固として立ち向かい、日本の指導者たちに信教の自由を守るよう強く求めなければならないのです」

 どんな調査を行ったのかには言及していないが、ギングリッチ氏は、日本で旧統一教会が直面している信教の自由という問題を日本共産党のせいにしたわけである。もっとも、歴史を辿れば、統一教会は反共政策を打ち出してきた保守政党を支持して、日米の政治に食い込もうとしてきた。同氏の発言はそんな歴史に根差していると思われるが、問題の背景には、2022年のワールドサミットにもビデオ出演し、旧統一教会との関係が取り沙汰されていた安倍元首相の銃撃事件があったことについては触れていない。

 アメリカでは「ムーニーズ」と呼ばれる旧統一教会のメンバーたちが、ニクソン政権時代からアメリカの政界に食い込むべく、米共和党と関係作りをしてきたと言われている。「ムーニーズ」は、今も、共和党の重鎮らを毎年のようにワールドサミットに招待し、彼らに巨額な講演料を支払って、政界への影響力を維持し続けている。毎日新聞によると、「UPF」は大統領選に出馬しているマイク・ペンス氏にも55万ドル(約6,000万円)の講演料を支払っている。

 一方、日本では、旧統一教会に対する解散命令請求が決定したものの、自民党と教団側との関係断絶は不透明なままと東京新聞が報じている。

 日本でもアメリカでも、切れることがない政治と宗教の結びつき。その闇はあまりにも深い。

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在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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