過剰な自粛と「不謹慎狩り」の心理:本当のチームジャパンとは:熊本地震
■人はなぜ自粛するのか
人は、苦しんでいる人に「共感」します。身近な人ならなおさらです。騒いだり楽しんだりする気になれず、宴会を取りやめることもあるでしょう。また、苦しんでいる人に気を使うことももちろんあります。これは、自然な自粛です。
災害発生時には、「サバイバーズギルド(生存者罪悪感)」を持つ人もいます。生き残ってしまった申し訳なさから、楽しむことができなくなります。
「献身の三角形」と呼ばれる心理も影響します。苦しんでいる被災者がいて、頑張っている自衛隊やボランティアがいて、それなのに何もしていない自分を意識してしまうと苦しくなるのです。これは、「24時間テレビ」をもている人にも同様に働く心理です。
問題は、過剰で、萎縮とも言える自粛が起きてしまうことです。
■人はなぜ「不謹慎狩り」をするのか
特にネット上で目立ちます。笑顔の写真に「不謹慎だ」と食いついたり、新曲発表を不謹慎と責める人もいます。芸能人や、放送局、大企業がターゲートになることもあります。
女優の井上晴美さんが非難されたのは、「不謹慎だ」という意見と「苦しいのはお前だけではない」と言った意見だったでしょうか。
○ともかく誰かを攻撃したい人
一種の遊びでしょう。乱暴な言葉で、誰かを攻撃したいと思っている人がいます。相手は、本当は誰でもよく、みんながそれに乗ってくれて、騒ぎ、祭りになれば大喜びです。
○自称正義の味方
今は、自粛すべきだ、我慢すべきだ、それこそ正義だと感じている人がいます。そこには、さまざまな心理が働くでしょうが、人にも押し付けます。自粛に反している人には、攻撃します。ネット上でトラブルを起こす人は、しばしば「正義の味方」です。
○共感疲労
膨大な報道を見ているうちに、被災者に共感しすぎて心身の不調をきたすのが、共感疲労です。不眠、頭痛、食欲不振、抑うつ気分などに襲われます。さらに、他の人がまるで全く共感していないように楽しく振舞っていたり、普通にしていると、怒りが湧いてきます。
■ノイジーマイノリティー
「不謹慎狩り」などと呼ばれる過剰な自粛要請は、一部の人たちからだけでしょう。しかし、この人たちの声は多きく、特にネットを介して一定の影響力を持つ「ノイジーマイノリティ」となります。
別にその程度は構わないと思っている人は、特に意見を言わないサイレントマジョリティーです。
事なかれ主義に陥れば、過剰な自粛が生まれます。事なかれ主義徒は言わなくても、トラブルが起きた時のリスクと解決コストを考えれば、事前に自粛しておくことは、合理的かもしれません。
■自粛ムードと本当のチームジャパン
個々の判断としては合理的だとしても、全体が行ってしまえば、自粛ムードが醸し出され、社会は必要以上に沈滞してしまいます。
さて、私たちが一つとなって、オールジャパンで、チームジャパンで災害を乗り越えるとは、どういう意味でしょうか。それは、みんなが同じことをするという意味ではありません。チームのメンバーには、それぞれの役割があるのです。
沈痛な思いで沈み込むこともあるでしょう。同時に、誰かが工場で働き、誰かが明るく歌います。一つになるとは、一つの思いになるということで、同じ行動をとることではありません(「一致する」「一枚岩で」とは:満場一致の組織はいずれ潰れる:キャラクターと役割を活かした組織のあり方:Y!ニュース個人有料)。
被災地にも、さまざまな段階があり、様々な人がいます。様々なニーズもあるでしょう。みんなが被災地のことを思い、復興を願いつつ、多様なな行動で被災地を支えることこそが、チームジャパンなのだと思います。