「#理想の夏ボディ」、体形への社会的圧力にNO/ノルウェー
「#夏ボディ」(#sommerkroppen)というハッシュタグがノルウェーのSNSで目に付くようになってきた。
企業やメディアが提示する「理想の体」像に警報を鳴らす動きがノルウェーでは以前から目立っている。
日本から来た筆者からすると、ノルウェーでは広告が少なめだ。女性雑誌を読む人も少なく、ファッションや化粧品のトレンドが会話で話題となることも少ない、と筆者は感じる。しかし、ノルウェーで生まれ育ってきた人々は、「この国には広告がありすぎる」と言う。
以前取材した「ノルウェーの若者をみじめにさせるメディアと広告金賞は?大手新聞社の社会的責任とは」でも見られるように、広告やSNSに溢れる「理想像」はストレスの原因だと、若者たちが声をあげる傾向がある。
左派政党からは、理想の女性像を連想させる街頭広告を禁止する声も目立ち、一部の自治体ではそのような政策も実行されている。
ノルウェー国営放送局NRKの高校生ドラマ『スカム』で、ヴィルデ役を演じた女優Ulrikke Falchさんは、社会が若者に押し付ける理想像に大きな疑問を投げかけており、SNSなどでの活動が注目を浴びている。
雑誌のモデルと自分を比べて、悲観的になることがあれば、Ulrikke Falchのインスタグラム(ulrikkefalch)のアカウントを覗いてみてもいいかもしれない。英語で投稿されており、「あなたは今のままでいいのよ」、「他者が押し付ける完璧や理想を目指さなくてもいいのよ」というメッセージに溢れ、若者たちから大きな支持を集めている。
ノルウェーのブロガーであるLene Wikanderさんは、「#夏ボディ2017」(#sommerkroppen2017)というコラムを国営放送局NRKに寄稿し、その勇気ある姿勢が絶賛された。自身のぽっちゃりとした裸の後ろ姿の写真を掲載し、「いろいろな身体があるのだ」と声にした。ノルウェーの人々がよく理想とするのは、日焼けした小麦色の痩せた身体、筋肉がある男性の身体。でも、それだけではないはずだ。「夏のボディ」はほかにもたくさんあっていいはずだと。#sommerkroppen2017というハッシュタグで色々な身体を投稿し、インスタグラムに流通している「理想の身体像」のイメージをみんなで変えようという動きが出ている。
クラッセカンペン紙の15日付けの記事では、「#夏の体毛2017」というタイトルが目立った。水着や、肌を見せる服を着る夏。なぜ「体毛処理をしなければ」と人々は感じてしまうのか。「体毛処理は自分で決めたことだという人は、自分で選んだわけではない。社会の期待に応えようとしているだけだ。体毛を標準化し、女性の身体は本当はどう見えるのか、互いに見せあう責任が私たちにはある」というフラグスタさんとダルさんからのコラムが掲載されている。
スナップチャットやインスタグラムでの写真の加工機能に嫌気がさす若者たちからのコラム記事も目にするようになった。「スナップチャットは私がどう見えるべきかフィルターを推奨してくる」と、加工して綺麗にみせようとする(しなければいけないと感じさせる)流れに疑問を呈す。
「化粧をしなければいけない」という女性への期待にも、疑問の声をあげる人々がいる。とある女性雑誌は、有名な女性政治家などにすっぴんで登場してもらう特集をする。「ある日、すっぴんでいたら、顔色が悪いねと言われたの。素肌の私が本当の私なのに」と、すっぴんの写真をSNSに投稿する著名人もでてきた。
このような例はあげ始めるとキリがない。外見に対する世間からの押し付けに抵抗する動きは、ノルウェーでは新しいものではない。一方で、左派の主張だとも指摘されやすく、右派政党は行き過ぎた広告禁止には懐疑的だ。
SNS依存が多い若者は、大人たちが経験しなかった新しい種類の社会的圧力にさらされ、ストレスが増加していると指摘されている。肌をさらに見せることになる夏に入り、理想のボディ像にNOという声がまた大きくなっている。
Text:Asaki Abumi