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このご時世、ソウルはどこまで本気?平壌との夏季五輪・パラ共同開催――市長選の結果次第で振り出しへ

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
韓国大統領の諮問機関、民主平和統一諮問会議のHPより筆者キャプチャー

 韓国と北朝鮮の関係が断絶状態にあるなかで、ソウル市が2032年夏季五輪・パラリンピックの「平壌(ピョンヤン)との共同開催誘致」の提案書を今月1日、国際オリンピック委員会(IOC)に出した。32年開催は既にオーストラリアの東部ブリスベンが有力候補となっているのに加え、南北共同開催ムードも「北朝鮮リスク」によって下火になっている。出遅れ感が拭えない今回の誘致提案も、7日投開票のソウル市長選の結果次第では振り出しに戻る可能性も指摘されている。

◇南北首脳会談の宣言に明記

 韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領と北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)総書記が18年9月に首脳会談を開いた際、署名した平壌共同宣言には「(南北は)32年夏季五輪の共同開催を誘致するため協力することにした」と記されている。

 その翌年にはソウル市は韓国国内で誘致都市に選ばれ、共同開催費用が5兆5800億ウォン(約5500億円)で、うち韓国側の負担は約7割▽鉄道・道路などのインフラ投資に投じられるのは28兆ウォン(約2兆7500億円)で、その8割近くが北朝鮮での施設投資――というコストもはじき出していた。

 だが2回目の米朝首脳会談(19年2月)決裂を受けて南北関係も悪化の一途をたどり、北朝鮮は20年6月には、開城(ケソン)工業団地の南北共同連絡事務所を爆破して、韓国との対話窓口をすべて閉じた。

 韓国側でも誘致に力を入れていた朴元淳(パク・ウォンスン)ソウル市長が死去して市長不在の状態となり、推進力が極端に低下していた。

 共同開催に向けた動きが足踏みするなか、IOCは今年2月24日の非公開理事会で、32年の候補地をブリスベンに一本化することを決めた。会場の8~9割で既存施設を活用する▽オーストラリアは南半球にあり7~8月が冬とはいえ温暖である――などが評価され、正式決定を目指してIOC側と対話を続けることになった。

 かつてIOCは開催地決定を「原則7年前」としていた。だが招致熱の冷え込みを受けて決定方法を変更。名乗りを上げた都市と個別に協議を重ね、理事会が「開催に見合うと判断した都市」をIOC総会に提案し、採決されるという流れとなった。

 したがって現状では最終的に「32年開催はブリスベン」と決まったわけではない。このためソウル市は、IOC側に他の競合都市とも引き続き協議するよう要請し、自らも誘致提案書を送って声を上げた形だ。

 夏季の開催地については24年がパリ、28年がロサンゼルスと決まっている。

◇ソウル市長選「野党勝利なら廃棄」か

 ソウル市が公開した資料によると、市は開催ビジョンを「Beyond the Line、Toward the Future(境界と限界を超えて、未来に向かって進む)」と定め、コスト削減と環境破壊を最小限に抑える▽共同開催により、みながともに歩む▽南北がつながり東西が和合して平和を実現する――など、五つのコンセプトを明らかにしている。

 一方で、市当局者は韓国メディアから「北朝鮮側とプランを共有しているのか」と問われて「韓国統一省が北朝鮮との協議を目指す」と述べており、北朝鮮側との実務協議を経ずに提出したという状況が浮き彫りになっている。

 こうした状況に対し、韓国国内では、特に保守陣営に強い不満が渦巻いている。

「平壌側のサインもないのに、どうやって共同で文書を作って提出するのか」

「深刻な人権問題が指摘される金正恩体制下で、どんな五輪を開催するのか」

 韓国のスポーツ界でも見通しを悲観する声が相次ぐ。

「結局は『北朝鮮リスク』によって、共同誘致の推進に歯止めがかかった」

「南北関係が冷え込んだ状況では、IOCと“持続可能な対話”そのものが難しい」

「北朝鮮が核開発を進め、韓国を威嚇する状況下で共同開催推進を主張すること自体、そもそも話にならない」

 誘致に決定的な影響を及ぼすソウル市長選は今月7日、釜山(プサン)市長選とともに投開票される。不動産問題などで文在寅政権への批判は収まらず、両市長選で与党候補は苦戦している。

 韓国メディアは「ソウルで与党候補当選なら共同開催案は維持される」「野党勝利なら廃棄に向けた手順を踏むことになる」との見通しを伝えている。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

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