欧米で苦戦予想のスイッチライト好調も… 任天堂決算五つの視点 20年3月期第3四半期
任天堂の2020年3月期の第3四半期連結決算(2019年4~12月)が発表されました。売上高が前年同期比2.5%増の約1兆227億円、営業利益が同19.5%増の約2629億円でした。いくつものメディアが記事を書いていますが、ただ数字が並んでいるようにしか見えず、「ポイントが分からない」という方もいるのではないでしょうか。そこで、今回の決算の見どころについて、五つの視点で見てみます。
決算の基礎知識となる「売上高」と「営業利益」の意味が分からない人は、こちらの記事に目を通していただければと思います。
視点の一つ目は、通期(2019年4月~2020年3月)の決算予想を上方修正したことです。特にニンテンドースイッチの年間出荷目標を1800万台から1950万台に引き上げたことでしょう。現時点(2019年4~12月)の出荷数は約1774万台ですから、通期予想の上方修正は当然です。私は3カ月前の決算発表のときに同社へ「スイッチの年間出荷目標数を上方修正しないの?」と聞きましたから、同じことを質問した記者は少なくないはずです。
二つ目は、任天堂がスイッチの出荷数を手堅く見る姿勢を変えていないことです。修正後の目標を達成するために、残り3カ月で必要なスイッチの出荷数は、たった約176万台です。ちなみに2019年4~6月の出荷数が約213万台、7~9月が約480万台で、3月にビッグタイトル「あつまれ どうぶつの森」の発売を控えています。修正目標もほぼ達成確実で、むしろどこまで上積みができるかでしょう。
三つ目は、任天堂がスイッチの見通しに慎重にならざるを得ない理由があることです。前年度(2018年4月~2019年3月)でスイッチについて年2000万台の目標を掲げながら、約1695万台の出荷に終わりました。スイッチは社会現象になるほどのヒットをしたわけですが、目標には300万台以上届かず、株主から「見通しが甘い。強気すぎた」と言われたら、反論の余地はありません。上方修正ならともかく、下方修正は絶対に避けたいところでしょう。なお現段階でスイッチシリーズの出荷数は、昨年度を上回っているので、スイッチシリーズの4期連続増は確定しています。しっかり売れていても、ゲームファンとは違い市場の目は厳しいのです。
四つ目は「携帯ゲーム機は売れない」と業界関係者からこぞって厳しい見立てをされていた「ニンテンドースイッチライト」の売れ行きが、「現段階では」という条件付きですが力強いことでしょう。
スイッチライト単体の出荷数
19年第2四半期(7~9月)約195万台
19年第3四半期(10~12月)約324万台
スイッチ単体の出荷数
18年第3四半期(10~12月)約942万台
19年第2四半期(7~9月)約285万台
19年第3四半期(10~12月)約758万台
スイッチライトを含めないスイッチ単体で見ると“前年割れ”でした。意地悪く言えば、スイッチライトがスイッチの売り上げを食べた……とも読めてしまうのです。そしてスイッチライトは、米国は日本以上、欧州も日本の出荷数に及ばないもののやはり売れています。このままスイッチライトが売れ続けるのか。現段階で判断するのは時期尚早で、次の決算となる通期の数字も見たいところですね。
最後は、一つ目の視点の補足になりますが、通期決算予想の上方修正で、売上高は1兆2500億円のまま据え置き、営業利益は400億円増の3000億円にしたことです。業績が好調であれば売上高と営業利益の両方が増えるので、その理由を任天堂に尋ねました。ニンテンドースイッチライトの見立てなどで当初の計算に見込み違いがあったこと、一方でデジタル販売が好調だったことから利益が膨らんだ……ということでした。スイッチシリーズが当初計画を上回っているのに、そこまで売上高が減ったのが気になりますね。逆に言えば、デジタル販売の稼ぎっぷりが恐ろしいわけですが。
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個人的には、スイッチシリーズの年間出荷目標の1800万台は、この第3四半期で超える可能性大と見ていたので、その点は残念ですね。もしかしたらネットで話題になった「ポケモン」の騒動が響いたのかもしれませんが……。
どうしてそこまで期待をするかと言えば、任天堂のゲーム機ブランドが実質一本化された効果の大きさ、実質値下げとなったスイッチライトの投入、WiiやDSの社会現象と比較してしまうことでしょうか。WiiやDSがヒットした当時は、無料のスマホゲームが定着していなかったので状況は違うのですけどね。決算を見ていると、たとえそこに書かれていなくても、基本利用料無料のスマホゲームの影響力を意識せずにはいられません。