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オリンピック本来の魅力はメダルの数にあらず。日本代表苦しんだ7人制総括&スター紹介【ラグビー雑記帳】

向風見也ラグビーライター
優勝した女子ニュージーランド代表のウッドマン(写真:ロイター/アフロ)

 オリンピックは本来、世界の凄みに触れられるスポーツの競技会だ。国ごとのメダルの個数を比べる文化とは、本来ならば縁遠いところにある。

 東京大会のスケートボード中継で、瀬尻稜さんの解説が評判だった。人気の秘訣は「やべー」「ゴン攻め」という軽快な言い回しだけではなかろう。どの国の選手へも施された愛のある論評が、視聴者の競技理解度を底上げした。

 7人制ラグビーは男女とも、7月31日までに終わった。前回4位入賞の男子は26日からの3日間で12チーム中11位、前回10位の女子も29日からの3日間で同12位と、順位を大きく下げた。

 日本ラグビー協会は8月11日に総括会見を開き、本城和彦・男女セブンズ日本代表ナショナルチームディレクター、岩渕健輔・男子日本代表ヘッドコーチ兼同協会専務理事、ハレ・マキリ・女子日本代表ヘッドコーチが登壇する予定。ファンの求める検証作業は、それ以前の段階から「大会中」「大会までの過程」と分類して詳細におこなわれたいところだ。

 開催国が振るわなかったことで、今度の6日間の軌跡は列島のメダルラッシュ報道の陰に隠れる。

 ただし何度も言うように、オリンピックの本来のよさは世界の凄みが体感できる点だ。共有されるべきは各国の技術的、戦術的なよさである。本稿ではその視点で総括し、男女のベストセブンを選考する。

激しく組織的

 26日から3日間続いた男子の部ではフィジー代表が2大会連続で金メダルを得て、ニュージーランド代表が銀メダル、アルゼンチン代表が同メダルをそれぞれ初めて獲得した。

 上位陣の共通点は激しさと組織性だった。

 走者は防御ラインへ果敢に仕掛け、簡単には倒されずに前進。ラックを作る際には、邪魔する相手を援護役がはがす。端から端まで球を回す陣形を保ち、その過程でタフな姿勢を示せば、ボール保持時間を相手への圧力や自軍のスコアに昇華できる。特に、5位の南アフリカ代表、準優勝したニュージーランド代表はその典型だ。

 守っては鋭く防御ラインを押し上げ、相手を倒し切ればその場で球にへばりつくか、次の防御への準備に移るかを素早く見極める。その領域で見事だったのが、3位のアルゼンチン代表である。

 面白いのは、上記3チーム中2チームを直接対決で下したフィジー代表だ。日本代表と接戦を演じた初日こそやや低調も、2日以降はフィジアンマジックと呼ばれる幻想的なランニングに加えて防御でもアピールした。相手との間合いを詰めるスピード、相手を掴んで引き寄せる腕力は圧巻だった。攻守で爆発的な力を示したことで、ニュージーランド代表など一枚岩の強豪国も粉砕できた。

 フィジー代表が躍動したのは、女子でも然りだった。

 球を持って走り切る際、ピンチの場面へ駆け戻る際に、文句なしの走力を示した。初の銅メダル。起き上がりとリスタートの速さで8強入りの中国とともに、大会を沸かせた。

 組織だった女子チームには他に、決勝へ出た2組がある。

 フランス代表は堅守が見事で、キックオフでは相手へボールを渡しながら鋭い圧をかけた。横幅を保って揃って前に出つつ、外へ球を回されたら連携を取って網を移動させる。向こうのミスボールを拾ったと思えば、バトンを受け継いだ長身ランナーが一気にスコアする。

 堅守速攻で鳴らすこのフランス代表に、ニュージーランド代表は妥当なプレー選択で対抗した。試合開始早々、防御ラインの背後にキック。再獲得から一気に前進する。以後、間合いを詰めるタックラーも冷静にかわせた。

 こじ開けたスペースへ球を運んでスコアすれば、試合終盤にはフランス代表のミスや反則でより流れが傾いた。

 15人制と同じグラウンドを使って7対7で勝負する7人制ラグビーでは、とかくスペースを突くスピードがフォーカスされがち。しかし今度の東京大会では、組織としてタフなチームが勝てるというフットボールの真理が具現化されたと言える。

 以下、独自の大会ベストセブンである。

※( )内はチーム/背番号

<男子>

■フォワード

ジウタ・ワイニンゴロ(フィジー代表/4)…防御で飛び出した味方の裏側をトップスピードでカバー。タッチライン際の快走。アルゼンチン代表戦での勝ち越しトライ!

スコット・カリー(ニュージーランド代表/1)…ハイボールを安定して確保。パス回しにスイープにと衛星のように動き回る。左中間、右中間で突進して防御を引き寄せる。

ティム・ミッケルソン(ニュージーランド代表/2)…長身ながら地上戦に強い。激しい圧力。

■バックス

ジェリー・トゥワイ(フィジー代表/9)…隙間を射抜く。防御を引き寄せてのパス。

シレリ・マンガラ(フィジー代表/13)…上背こそないが腰が強い。迫る防御に捕まりながらもしなやかに前進してフィニッシュ。

ステッドマン・ガンズ(南アフリカ代表/12)…左右に振り回す攻撃の起点であり、人垣をロールですり抜ける突破役であり、向こうの大砲を押し戻す強烈なタックラー。

マルコス・モネタ(アルゼンチン代表/12)…タックルを蹴散らし、時にかわして前に出る。スペースがある時、もしくは敵陣22メートルエリアで球をもらった際の決定力が際立つ。準々決勝では前半途中に味方がレッドカードをもらいながらも南アフリカ代表に勝利。その際は自らの個人技(自陣からの独走トライ、タッチライン際で自ら蹴った球を追ってのフィニッシュ)が光った。

<女子>

■フォワード

サラ・ヒリニ(ニュージーランド代表/5)…懐の深さでラインブレイク。オフロードパス。

ポーティア・ウッドマン(ニュージーランド代表/11)…タフな突進と防御での献身。延長戦までもつれ込んだフィジー代表との準決勝では起死回生のロングランを披露した。

カロリーヌ・ドルアン(フランス代表/10)…ルーズボールへの反応、ジャッカル、チャンスメイク。好ランナーの好走をお膳立て。

■バックス

楊飛飛(中国代表/9)…小さくとも接点へ頭をねじ込める。ペナルティーキックからの速攻は機敏でフットワークも鋭い。

エバニア・ペリーティー(オーストラリア代表/6)…ブレイクダウンへ果敢に絡んで反則を誘う。ピンチのエリアへ懸命に戻る。攻めては防御と防御の間に駆け込み、大外へパスを放る。

アンヌ セシル・シオファニ(フランス代表/2)…大きなストライドで長距離を独走。フランス代表の堅守速攻というシステムを成立させた1人。

アロウェシ・ナコチ(フィジー代表/10)…バッキングアップも光るスピードスター。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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