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有名ラーメン店が食べ残した客に「死んでください」「二度と来るなゴミクズ」と罵倒! 店も客も残念なワケ

東龍グルメジャーナリスト
(写真:アフロ)

飲食店での食べ残し

飲食店で食べ残すことはありますか。

昨年、ある有名系列のラーメン店が、客が自分でよそった無料のご飯を食べ残したことに腹を立て、X(旧Twitter)に投稿。客に対して「死んでください本当に」「二度と来るなゴミクズが」など過激な言葉を用いたことで、大きく炎上しました。

これには非難の声が多く、思いのほか、事が大きくなったこともあり、翌日になってポストを削除し、新たに謝罪を掲載。「ご飯を残されるという行為があまりにも自分の中で悲しく悔しくて、とても強い言葉を使ってしまいました」と釈明しました。

反省の弁を述べており、トーンダウンしていったので騒動も鎮火しましたが、飲食店にとっていくつか重要なことがあるので、説明していきます。

食品ロスの問題

食べ残すのは好ましいことではありません。

まず食品ロスにつながることが問題です。2019年10月1日に食品ロス削減推進法が施行されており、SDGsの観点からも、食品ロスがよくないことはだいぶ周知されていると思います。

食品ロスの削減の推進に関する法律/消費者庁

食品ロス削減関係参考資料(令和5年11月30日版)/消費者庁

2021年度の日本におけるٴ食品ロス量は年間523万トンであり、国連世界食糧計画(WFP)による食料支援量である約480万トンの1.1倍。毎日大型(10トン)トラック約1,433台分を廃棄しており、年間1人当たりの食品ロス量は42kg、毎日おにぎり1個分(114g)の食べ物を捨てている計算となります。

これだけ多くの食品をロスしているので、ひとりひとりが毎日、食品ロスの削減を意識しなければならないことは明白です。

飲食店にとって負担

次に問題となるのは、食べ残しが飲食店にとって負担となること。

飲食店がゴミを捨てるのに、お金がかかることは一般的にあまり知られていません。事業系一般廃棄物や産業廃棄物などの事業ゴミを処理するには、お金がかかるのです。

廃棄物処理手数料について/東京二十三区清掃一部事務組合

自治体や委託業者によって料金は異なりますが、たとえば、東京都23区では、1キログラムあたり持ち込みが15.5円で運搬含めると40円(2023年10月1日からはそれぞれ17.5円と46円)。委託業者に処理してもらうのであれば、手数料が加味されるので費用が2倍くらいになります。

客が飲食店で食事してゴミを出してしまうのは仕方ありませんが、余計なゴミを出すと、飲食店に余計なコストがかかることを意識しなければなりません。客が多くのゴミを出すと、退店後の片付けにも時間を要してしまいます。そうなると、客席回転率が下がったり、次の入店客を待たせたりしてしまうのです。

したがって、無料のお代わりであれば当然のことながら、有料のお代わりであっても、最後までしっかりと食べ終えられるのか、よく考える必要があります。

食べ残しの理由

身体的に危険を伴うアレルギーがあったり、妊娠していたり、許されぬ宗教的な忌避や信条的な制約を有したりしていれば、食べ残してしまうのは仕方ありません。急に体調が悪くなった場合も、許容の余地があります。ただ当然のことながら、こういった場合には、できるだけ早く店に伝え、無駄な食べ残しを回避しておくべきです。

これ以外の食べ残しは、単なる好き嫌いであったり、食わず嫌いであったりするだけなので、客に責任があります。子どもではないので、偏食をしてどうにかして克服できればよいでしょう。

また、料理のボリュームが多ければ飲食店がオーダー時に確認したり、少食であれば客が申告したりする必要があります。

今回は単にお腹が一杯になって食べられなかっただけなので、計画性をもって注文しなかったことを客は内省しなければなりません。

食育にも反する

食べ物を平気で残してしまう行為は食育にも反しています。

食育は、2005年に成立した食育基本法で「生きる上での基本であって、知育・徳育・体育の基礎となるもの」です。食育基本法の第一章第三条では「食に関する感謝の念と理解」が記載されています。

食育/Wikipedia

食育基本法/e-Gov法令検索

食育の推進/農林水産省

食育って何?/文部科学省

小さい頃、茶碗に残った米一粒まで食べるように教育された人と、好き嫌いがあって何を残しても注意されなかったりした人とでは、食べ物を大切にする感覚が全く異なります。

食べ物を粗末にすることを何とも思わない人は、食材を育てたことがないのはもちろんのこと、簡単な料理さえもしないのではないでしょうか。少しでも、料理や食材に接していれば、食べ物を粗末にしないものです。

食べ物を粗末にする動画が制作されたり、この動画を面白く感じる人が存在したりする状況を鑑みると、食育がもっと必要であると痛感させられます。

飲食店にもできることがある

食べ残しに至る様々な理由があるにせよ、飲食店に前もって伝えたり、料理内容を確認したり、お腹の具合や体調を考慮しながらオーダーしたりしていれば、少しは食べ残しを防げます。

ただ、客が悪いからといって、飲食店が手をこまぬいてよいとは思えません。なぜならば、飲食店にもできることがあるからです。

件のラーメン店は無料でご飯を提供していました。無料であれば、少しでも得をしようと考える客が、無理して食べようとします。50円でも100円でも課していれば、客はもう少し慎重に考えてお代わりしていたはずです。

飲食店と客の間で“怒り”が生じるのは、互いの期待と実態が異なった場合。件のラーメン店は、ご飯を無料にして気持ちよくきれいに食べてもらいたいという思いがありました。しかし、それが裏切られたので、憤ったのです。

ご飯を有料にするか、もしくは、残したら罰金を科すかしなければ、同じような客がまた現れてしまうと思います。

不毛な価格競争

日本の飲食店は世界から非常に評価されています。

2013年12月に和食がユネスコ無形文化遺産に登録され、和食および日本料理、日本の食文化の素晴らしさが、改めて世界から認識されるようになりました。

2022年の農林水産物・食品の輸出額は、前年比14.2%増となる過去最高の1兆4,140億円を記録。世界から日本の食品が求められていることがわかります。

2023年12月5日に発表されたばかりの「ミシュランガイド東京2024」では、東京は引き続き世界で最も多くの星を獲得。三つ星の12軒、二つ星の33軒、一つ星の138軒は、それぞれ世界で最も数が多いです。

日本の食が評価されているのは、ユネスコ無形文化遺産の言葉を拝借すれば、素材の質や素材を活かした調理、健康面、季節感やイベントとの密接感です。ただ、その一方で、日本の食は値段が安くてコストパフォーマンスが高いからという声も散見されます。日本の飲食店は、低価格競争にさらされており、食材費や光熱費が高くなっても価格を上げられず、利益が増えないので、スタッフの給料や時給も上げることができません。

件のご飯も、ラーメン店での価格競争が熾烈なために、無料で提供されている面もあります。日本のラーメンは世界でも評価されているだけに、低価格や過剰サービスで勝負したりせず、しっかりと利益を確保していただきたいです。

そのようになれば、食べ残しは悪であることを前提としながらも、今事案のように客を罵倒するようなこともなくなるのではないでしょうか。

適度なボリュームは難しい

昨今の飲食店では、ボリューム問題、ポーション調整問題が大きな争点になっているように思います。

件のラーメン店はアラカルトだけですが、ファインダイニングなどではコースが中心。コース料理では、クラシックを意識した少ない品数で多量、もしくは、デギュスタシオンを志向した多皿少量に大別されます。昔とは違って、ボリュームたっぷりがよしとされる時代ではなく、食べきれないと文句をいわれるというのが、このご時世です。

“もう食べられない”という状態になるには、いくつかパターンがあり、主に塩味、油脂、糖分(糖質)の摂食量が大いに関係しています。ただ、どれくらい食べられるかは個人差が大きいので、完璧な答えなどありません。

一般的にラーメンにはただでさえ塩味と油脂、糖分(糖質)が過剰に含まれており、身体にもよくないとされています。それだけに、さらに糖分(糖質)を加えるご飯を“あえて無料”で提供することは、栄養学的な観点から必要性が高くないのではないでしょうか。

客を喜ばせるためには

客は飲食店で楽しむ権利はありますが、キッチンやサービスのスタッフをリスペクトしなければなりません。ただ、飲食店のスタッフは客に喜んでもらいたいと思えなければ、高いモチベーションを保ちながら営業していくことは困難です。

平気で食べ残すことは言語道断ながら、今事案のように、客に喜んでもらいたいという気持ちが空回りしていたのは非常に残念。

客を楽しい気分にさせるためには、まず自分が楽しい気分にならなければなりません。そういった意味では、飲食店には無理のない範囲で創意工夫を施して、客を喜ばせてもらえたらと思います。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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