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グーグルがERPを作り企業間資材調達を支配する日

坂口孝則コメンテーター。調達コンサル、サプライチェーン講師、講演家
(写真:ロイター/アフロ)

グーグルがERP事業に乗り出す日

私は「The調達2016」という冊子を配布しているのですが、現在、企業の調達・購買の関係者は、いかに技術トレンドを摂取していくか。そういった問題意識をもっています。

米国グーグルは「Google Express」というサービスをはじめました。この「Google Express」は小売業者と連携したネット上のショッピングモールで、即日配送をはじめとした対アマゾン戦略の急先鋒とみられています。これまでアマゾンに流れていたショッピングユーザーを一気にグーグルに取り込もうとしているのです。

顧客からの受注、そして在庫管理と発送。これらの一連のプロセス管理システムについて、サプライチェーンの用語では、TMS(transportation management system~物流システム)と呼びますが、その意味で、グーグルのTMSへの進出が始まったと読み解くことができます。

アマゾンの存在感があまりに大きいために、「Google Express」はさほど目立ちません。ただし、グーグルTMSは拡大していく可能性はありますし、アマゾンとの対決のためにグーグルは次々と施策を繰り出すでしょう。

小売業者、あるいは無数のメーカーがグーグルを販売プラットフォームとして選びたくなるような施策を繰り出すはずです。アマゾンよりもグーグルをプラットフォームとして使いたいと、どうやったら思ってもらえるでしょうか。

ここで大胆な予想をします。これまでの同社の戦略からすれば、答えは自明のように思われます。まずグーグルは子会社として3PLベンダーを買収するはずです。そして次に、グーグル版ERPを作成し、それを無料提供するでしょう。

3PLベンダー化は事業領域を拡充する

3PL(サード・パーティ・ロジスティクス)という言葉があります。企業の物流全体を請け負うベンダーを指し、顧客の物流を最適化するものです。アウトソーシングの形で、顧客の配送や在庫管理などについてシステム構築を含めて手がけます。

アマゾンは、生鮮食品販売の「amazon Fresh」では自社物流網を構築していますし、ドローンの活用をねらい、かつ街中の空きタクシーなどを活用した配送網も整備しつつあります。

アマゾンのこういった先行にたいして、グーグルはすべて一から勝負しないでしょう。まずは、立て続けに有力な3PLベンダーを子会社として買収し、そこから開発中の自動操縦技術などを注入していくのが流儀のはずです。

アマゾンはキバロボットを買収し倉庫の無人化を進め、さらにクラウドサービス等も先頭を走っています。物流が差別化に使われている現代、このアマゾンに対抗するためには、3PLを買収するなり、グーグル自体が物流システムベンダーにならねばなりません。

説明は不要でしょうが、ERP(Enterprise Resource Planning)とは「統合基幹業務システム」と訳されるもので、生産、営業、調達、人材、経理……などの業務を連携させるソフトウェアパッケージです。

この分野にグーグルが参入したらどうでしょうか。データベースのエンジニアも抱えています。そして、TMS(transportation management system~物流システム)やERP作成にかかわる優位性がいくつもあります。

まずグーグルは、Google MAPと、そのナビゲート機能をもっています。まさにこれらは物流上の最適順路を指示してくれますよね。たとえば何かの荷物を運ぶ際に、それぞれの手段(トラック・鉄道・空路・その他)ごとの費用や時間を概算であっても計算できれば、都度最適な物流方法を知ることができるはずです。さらにGoogle Fusion Tablesという地図情報サービスもあるから、物流状況を可視化できます。

さらにグーグルの開発する自動操縦機能が発達すれば、トラックは無人運転となるでしょう。代わりに作業者はトラック内で仕分けをおこない、トラックから配達先までの荷役のみを行うでしょう。

かつGmailの日付機能とGoogleカレンダーの連携機能を活用できはずです。サプライチェーン全体の所要時間を瞬時に把握することで、多くの企業でジャスト・イン・タイム納入が可能となります。

売り手側の企業はトラックのピックアップ期日を把握し、買い手側の企業も生産から出荷までの期日をアンドロイドフォンから確認するのです。しかも「Googleショッピング」で同社はすでに類似の経験をしています。

Googleドライブを活用すれば、商業書類や契約書類も保存ができ、必要に応じて関係者で共有・修正もできるようになります。もし国際ビデオチャットが必要ならば、グーグルベースのカメラチャットを使えます。保存が必要ならばYouTubeにアップロードしておけばいいし、そのうちリアルタイム翻訳も使えるかもしれません。企業間取引で必要な道具はほぼ揃っています。

ERPの無料化は荒唐無稽か、それとも事業戦略になりうるか

そこでふたたびさきほどの予想に戻りましょう。グーグルがERPを作って、生産、営業、調達、人材、経理といった分野をカバーし、そしてさらにそのERPを無料で配る、というのは荒唐無稽な予想でしょうか。私にはそう思えません。

もちろんグーグル以外の企業が参入する可能性もあります。しかし、こういった、ERP分野では予想もしなかったプレイヤーが登場することはある種の楽しみでもあります。それは、企業間取引にまつわる、調達・生産・出荷などのサプライチェーン分野が注目を浴びる、ということでもあるのですから。

コメンテーター。調達コンサル、サプライチェーン講師、講演家

テレビ・ラジオコメンテーター(レギュラーは日テレ「スッキリ!!」等)。大学卒業後、電機メーカー、自動車メーカーで調達・購買業務、原価企画に従事。その後、コンサルタントとしてサプライチェーン革新や小売業改革などに携わる。現在は未来調達研究所株式会社取締役。調達・購買業務コンサルタント、サプライチェーン学講師、講演家。製品原価・コスト分野の専門家。「ほんとうの調達・購買・資材理論」主宰。『調達・購買の教科書』(日刊工業新聞社)、『調達力・購買力の基礎を身につける本』(日刊工業新聞社)、『牛丼一杯の儲けは9円』(幻冬舎新書)、『モチベーションで仕事はできない』(ベスト新書)など著書27作

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