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北朝鮮に君臨する「5人の女性」と正体不明の「謎の女性」

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
偵察衛星成功祝賀宴と訪露後の記念写真(右上)2枚とも金与正氏の隣(労働新聞から)

 米CIAや韓国国家情報院(NIS)などが今、注視している北朝鮮の女性と言えば、金正恩(キム・ジョンウン)総書記の夫人、李雪主(リ・ソルジュ)、娘の金主愛(キム・ジュエ)、妹の金与正(キム・ヨジョン)、秘書の玄松月(ヒョン・ソンウォル)、それに北朝鮮史上初の女性外相になった崔善姫(チェ・ソンヒ)の5人であろう。李母子と与正氏の3人は金ロイヤルファミリーの一員だが、玄秘書と崔外相はアウトサイダーである。

 今では5人とも隠された存在ではない。北朝鮮のメディアによってある程度はオープンにされている。

 李夫人(35歳)はすでに12年前にはお披露目されている。金正恩政権が発足した2012年7月に金総書記と共に陵羅人民遊園地竣工式に出席した際に「夫人」と紹介されてから今日にいたっている。

 娘のジュエ(11歳)はそれから10年後の2022年11月、大陸間弾道ミサイル「火星17」の発射場に姿を現した際に「お子様」と報道されて以来、新型戦術弾道ミサイル発射台の前線部隊への引き渡し式が行われた今年8月4日までに延べ25回にわたって軍関連を中心に父親の視察に同行している。

 妹の与正(37歳)副部長は2014年3月に行われた最高人民会議代議員選挙の投票会場に金総書記と一緒に現れて以来、10年以上も兄をエスコートし、サポートしてきており、今では「陰の実力者」として、又は「金総書記の代理人」としての地位を不動のものにしている。

 玄秘書(47歳)は普天堡電子楽団の専属歌手からモランボン楽団、三池淵管弦楽団団長を経て、2019年2月に党宣伝部副部長に起用されてから金総書記と行動を共にしており、また、2022年に外相に任命された崔氏(60歳)は1990年代から米朝交渉など国際舞台に出てきており、北朝鮮の「顔」として知られている。

この5人以外に注目を浴びた女性がいるとすれば、2022年に韓国のメディアが騒いだ「謎の女性」であろう。

2年前に金正恩総書記の異母姉ではないかと騒がれた女性(○)(朝鮮中央通信から)
2年前に金正恩総書記の異母姉ではないかと騒がれた女性(○)(朝鮮中央通信から)

 それと言うのも、この年の4月11日、平壌市内に建設された80階建て超高層アパートの竣工式でテープカットする金総書記を舞台の後方から見守り、その2日後には名物アナウンサーの李春姫(リ・チュンヒ)が金総書記から高級住宅をプレゼントされた高級住宅地区竣工式に忽然と現れたからである。

(参考資料:「金正恩の付き人」の女性は何者? 異母姉か? 韓国メディアも騒ぎ出す!)

 それまでは金総書記の儀典担当は金与正と玄松月両副部長の二人だけだったことからもう一人女性が加わったことで大いなる関心を集めた。それも全国民に義務付けられている金日成(キム・イルソン)・金正日(キム・ジョンイル)バッジを胸に着けていなかったので殊更、この女性に熱い視線が注がれることになった。

 北朝鮮でノーバッジが許されるのは唯一、金親子だけである。与正副部長も欠かさずバッジを着けている。ところが、この女性は李夫人同様にバッジの代わりに左胸にブローチを着けていただけであった。このためもしかしたら金正日前総書記の初婚の相手、金英淑(キム・ヨンスク)との間に生まれた娘、金雪松(キム・ソルソン)ではないかとの噂が広まった。韓国のメディアの中には金雪松と断定していたところもあった。金雪松ならば異母妹の与正氏と同等の立場にあったとしても不思議ではない。

 この女性が金総書記の身内なのか、それとも単なる付き人なのか、追跡したが、その後、この女性が金前総書記の娘ではなく、モランボン楽団に2016年からドラマーとして専属していた元楽団員であったことが判明した。

 韓国国家情報院もすでに把握しているようだが、名前は「ホン・ユンミ」で年齢は意外にも若く、24歳で、2018年に板門店での南北首脳会談の余興として行われたモランボン楽団の公演に加わっていた。結局のところ、玄副部長が自身の代行、あるいは補佐役としてモランボン楽団から引き抜き、儀典に関わらせていたことが判明した。

 この「謎の女性」騒動はこれで一件落着な筈なのに、昨年また、第二の「謎の女性」が現れ、米韓情報当局はこの女性の正体を暴くのに奔走している。

新たな「謎の女性」は昨年9月の金総書記の訪露に金与正、玄松月両副部長らと一緒にお供し、また2023年11月23日の偵察軍事衛星発射成功祝賀宴では金ファミリーと一緒にメインテーブルに座っていた。

 それを裏付ける写真が2枚ある。

 1枚はロシアから帰国直後の9月20日に撮った記念写真で、金与正副部長と並んで金総書記の真後ろに立っていた。

 もう一枚がは軍事偵察衛星の祝賀宴の写真だが、ここでもこの女性は金副部長の隣に座っていた。メインテーブルの真ん中には金総書記が座っており、向かって左側にジュエ、李夫人、一人空けて、与正副部長と並んで座っていた。ちなみに玄松月副部長の姿は確認できなかった。

 この2枚の写真を見る限り、只者ではないことは一目瞭然だが、未だに正体が明かされていない。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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