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串カツ田中が「禁煙」でプチ炎上したワケ

石田雅彦科学ジャーナリスト、編集者
(写真:アフロ)

 健康志向の高まりと受動喫煙の害への知識が広まってきたからか、飲食店の禁煙化が進んでいる。東京都世田谷区発祥の居酒屋チェーン「串カツ田中」も2018年4月12日に「ほぼ」全店で全席禁煙化をアナウンスして話題になった。ところが、同社公式Twitterのツブヤキで批判コメントが寄せられ、ちょっとした炎上状態になっている。

悩ましい居酒屋系の禁煙化

 国の受動喫煙防止対策案が国会に提出されているが、モリカケ問題やセクハラ問題など安倍政権の対応のマズさから、審議が進まないまま時間ばかり経っている。こうした状況に業を煮やした東京都や自治体、民間企業などが徐々に独自の受動喫煙対策に乗り出し、半島情勢と同様、タバコ対策でも安倍政権は「蚊帳の外」になりそうだ。

 喫煙率が下がってきたとはいえ、日本の中高年男性の約1/3はまだタバコを吸う。同時に、彼らは仲間との飲み会や接待などで居酒屋へ足を向ける層でもあり、アルコールを提供する飲食店はなかなか禁煙に踏み切れないのも事実だろう。受動喫煙防止対策への抵抗が根強いのも、このあたりに一つの理由がある。

 串カツ田中といえば、創業地が世田谷区の住宅街でファミリー層にも人気の居酒屋チェーンだ。都内を中心にフランチャイズ店を増やし、2016年9月には上場もしている。

 そんな串カツ田中が、加熱式タバコも対象にした「全店約180店舗で全席禁煙化」(6月1日から)をアナウンスし、受動喫煙に悩まされていた女性やタバコを吸わない人に喝采を浴びたのは記憶に新しい。いよいよ居酒屋チェーンも禁煙かと、この動きが波及することに期待を寄せた人も多かったと思われるのは、同社の株価が翌日に大幅続伸したことでもわかる。

 同社ニュース(※1)によれば、アルコールを提供する居酒屋チェーンとして初めて「ほぼ全店舗」で全席禁煙化とある。禁煙化する理由(背景)としては、子ども連れ家族連れが多く、東京都や2020年の東京五輪の受動喫煙防止対策強化の流れもあり、国内1000店舗体制を目指す同チェーンとして考えたようだ。

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串カツ田中:ニュースより

 ただ、同社ニュースをよく読むと、小さく「一部フロア分煙化」となっている。また「ほぼ全店舗」の「ほぼ」というのは「立ち呑み3店舗を除く」となっていて、「一部フロア分煙」というのは「店舗が複数階に分かれている場合、階に応じて『喫煙フロア』と『非喫煙フロア』を設定する方法」らしい。

 筆者も串カツ田中が禁煙化することは知っていたが、「フロア分煙」という文言と「JT」の分煙解釈が脚注にあるのを読んで嫌な予感がしたのを覚えている。一部報道(朝日新聞など)によれば、同チェーンではフロア分煙が約20店舗あるが喫煙スペースは設けないという。

 居酒屋の禁煙化は、以前、禁煙の焼鳥屋を取材した際にオーナーから聞いて少しは知っているがなかなか大変だ(※2)。アルコールを提供する飲食店では酒類の売上げに依存していることも多く、酒を飲まない家族連れよりも宴会や接待で酒を飲んでくれる層のほうを歓迎する傾向がある。こうした層の喫煙率は前述した通り、まだ40%に近いからだ。

いっそ店名にタバコをうたえば

 串カツ田中の禁煙化のニュースを密かに歓迎していた筆者だが、5月に入って少し雲行きが怪しくなってくる。禁煙化を発表したのが4月12日で、その後の同社からのニュース(※3)によれば、立ち呑み業態3店舗、喫煙ブース(ルーム)を設置予定5店舗、フロア分煙22店舗となっていた。喫煙できるスペースを設置し、やはりフロア分煙の店舗もかなり多い。

 それより少し前の同社公式Twitterの5月2日のやりとりで、ある店舗に対して喫煙者と思われるフォロワーがタバコを吸えるようにリクエストの書き込みをしたところ、フロア分煙検討中が同じ日にフロア分煙に決定となった。この経緯について「中途半端な会社」「従業員がかわいそう」「対応を誤った」「フロア分煙では意味がない」などと批判が寄せられ、ちょっとした炎上状態になっている。

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同社公式Twitterの5月2日のやり取り

 基本的にタバコ煙は粒子も細かいし空気中に拡散していくので、かなり厳密に遮蔽しなければ受動喫煙を防ぐことはできない。タバコ煙の有害物質は、どれだけ少なくても健康に害を及ぼすことが明らかだ(※4)。

 フロア分煙や喫煙ブースの設置に意味はなく、そこへ出入りする従業員についていえば受動喫煙の危険度はさらに増す。タバコ煙が室内に残っていたり衣服についたまま被害を及ぼすことを三次喫煙(Third hand smoke、残留受動喫煙)というが、残留タバコ煙の有害物質の存在と三次喫煙による客への影響も無視できない(※5)。

 ところで、アルコール提供がメインではない家族向けのファミリーレストランチェーンの禁煙化はすでにかなり進んでいるが、串カツ田中のようなフランチャイズ形式のチェーンの対応はかなり悩ましいようだ。分煙から禁煙へ舵を切ろうとしているモスバーガー(株式会社モスフードサービス)も、禁煙化への転換費用などの調整に時間がかかっている(※6)。

 フランチャイズ業態の串カツ田中も同じ事情を抱えているのかもしれないが、そもそも4月の同社ニュースで「フロア分煙」としたのが間違いだったと筆者は思う。この文言に受動喫煙についての認識の甘さが滲み出ていた。ひょっとすると、分煙を囁くタバコ会社の甘言に惑わされたのかもしれない。

 なぜ串カツ田中の対応が批判されるのかといえば、禁煙化について腰がふらついているからだ。居酒屋という業種業態から考えれば無理もないが、全席禁煙化と大見得を切った以上、初志貫徹しなければ経営理念を疑われるだろう。

 どうしても喫煙者の客に気遣いしなければならないのなら、いっそ従来店と喫煙可の店は「タバコ串カツ田中」というように店舗名を分けたらどうだろうか。

※1:串カツ田中:ニュース「居酒屋チェーンでは初 6月1日(金)から串カツ田中は全店約180店舗で全席禁煙化し、より多くのお客様からのご愛顧を目指します。」2018/04/12(2018/05/15アクセス)「店舗禁煙化に関するお知らせ」(PDF)

※2:「都内で全席禁煙『焼鳥店』経営者の想いとは」Yahoo!ニュース個人:2018/03/04

※3:「6月1日からの禁煙化に関する最新情報」2018/05/11(2018/05/15アクセス)

※4:「WHOたばこ規制枠組条約第8条の実施のためのガイドライン『たばこ煙にさらされることからの保護』」(2018/05/15アクセス)

※5:TA Kraev, et al., "Indoor concentrations of nicotine in low-income, multi-unit housing: associations with smoking behaviours and housing characteristics." Tobacco Control, Vol.18(6), 438-444, 2009

※6:「拡がる『タバコ害』の意識〜生駒市45分ルールとモスバーガー禁煙化」Yahoo!ニュース個人:2018/03/30

科学ジャーナリスト、編集者

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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