昨夏、池田詩梨ちゃん衰弱死の家庭で13匹の猫がネグレクト… 改めて動物虐待を考える
今年6月1日から多頭飼育やペットの虐待などの罰則引き上げなどを盛り込んだ改正動物愛護法が施行されました。
その後、行政に勤めている大学の同級生の獣医師から「動物虐待」の通報が多いという知らせが届きました。まだまだ「動物虐待」についての正確な理解がなされていない状況も現場の獣医師として痛感しています。そこで今日は、動物虐待の中の「ネグレクト」について考えてみましょう。
まず、記憶が薄くなっているかもしれませんが、2019年6月に札幌市で、池田詩梨(ことり)ちゃん(当時2)が衰弱死する悲惨な事件がありました。シングルマザーの実母とその交際相手は逮捕、起訴され、傷害致死と保護責任者遺棄致死の罪に問われている交際相手の男性の初公判は来月行われます。詩梨ちゃんは同じ年齢の幼児の半分くらいの体重で、上半身にはタバコを押しつけられた火傷の痕などがあったそうです。しかし、この事件ではもう一つの虐待が問題になりました。
ざっくりまとめると、詩梨ちゃんが住んでいた同じ家には、寄生虫だらけの成猫と子猫計13匹がネグレクト状態だったので保護されたということです。交際相手の男性宅にも8匹の猫がいました。
実は動物虐待をされる家庭に幼児がいる場合は、そのペットと同じようなことが子どもや家族にされていることもあります。動物虐待を注意深く見れば、幼児虐待も起こっているケースがあり、防げることがあるのです。動物の虐待と人との関係に直結していることもあります。ただ私は動物の医療の専門なので、人のことは、専門家に譲ります。
動物虐待とは?
動物虐待とは「動物に不必要な苦痛を与える」ことです。
つまり、動物の肉体と精神に苦痛や多大なストレス等を与えることです。
==動物虐待の2つのタイプ==
ネグレクト
やらなければならない行為をやらないことです。直訳すると「飼育放棄」(人の場合は「育児放棄」)と表現されることもあります。積極的な虐待は、認識があるのですが、ネグレクトは虐待という認識を持たない人もいます。
実際は、虐待の中でこのネグレクトが、一番多いです。具体的には以下です。
・健康的な食事を与えない、衛生的な水を飲ませないなど健康管理をしないことです。
札幌市で詩梨ちゃんのところの成猫と子猫は、適切な食事をもらっていなかったようで、かなりやせ細っていたそうです。
・病気を放置して治療をしないことです。
・犬なら散歩に連れて行くなどは必要な世話です。それらをしないことです。
・ウンチを処理しないため、積み重なっていたり、オシッコも処理しないため、アンモニア臭があるような劣悪な環境で動物を飼育することです。
・飢餓のため、とも食いをしてそこに骨が転がっています。
・狭いケージに閉じ込められています。
・短い綱でつながれっぱなしの状態にします。
などです。
積極的な虐待
マスコミで騒がれる動物虐待といえば残虐な殺傷事件などは、この積極的な虐待がほとんどです。
やってはいけない行為を行う、または、行わせることです。具体的には以下です。
・暴力を加えるます(殴る、蹴るなど)。
・熱湯をかけるます。
・動物同士を闘わせます。
・心理的抑圧、恐怖を与えます。
など
実際にあった虐待 首輪の埋没(ネグレクト)
食欲がないし、首の周りが何かおかしいということで動物病院に犬が運び込まれました。数年前に、実際に私の動物病院であった話です。
飼い主は、犬の様子をあまり説明しないし言葉が少ない人だったという記憶があります。
筆者が、犬に触れようとしたら、手を噛みにきました。攻撃的な性格の犬でした。その前に、診察室に入ってきたとき、酸っぱいような嫌なニオイを放っていました。痛がって、とても触れるような状態ではありませんでした。鎮静剤をかけてよく観察しました。
(この犬の症状)
・異臭が漂う。
・首の辺りから、分泌物が出ていました(針金のような細い首輪がそこにありました)。
・首輪は筋肉まで埋め込まれていた。
患部を生理食塩水で何度も洗浄して、抗生剤を投与しました。こんな痛いところがあれば、犬が凶暴になるのも無理はないですね。この首輪の埋没はなぜ、ネグレクトなのか? 以下です。
・数日間で、首輪が皮膚に埋没しない。つまり長期間、放置されていた。
・化膿のために、ニオイがあるのに、飼い主が気がつかないのはおかしい。
・化膿のために、分泌物が出て毛が汚れるのに、飼い主が気がつかないのはおかしい。
・首輪が埋没したので、性格が凶暴になったのに、飼い主が気がつかないのはおかしい。
ネグレクトは、殴るなどの積極的虐待に比べて時間がかかる虐待です。
動物は長い間、苦痛を伴っていたのです。動物は人と同じように、痛みを感じます。ペットは言葉が話せないので「痛み」があるのか? と思われかもしれません。ですが、人が使うような鎮痛剤で動物にも効きます。怪我したり、お腹を壊したりすると悲しい叫び声をあげます。こんなことから、当然ですが、動物にも「痛み」はあるのです(このケースは、数年前で、まだ、虐待を見つけたら、警察に届けるのは、努力義務だったので、行政に届けていません。いまは、努力義務から義務になりました。動物の虐待が法的にどうか? ということは警察が決めることです。獣医師は、虐待の疑いがあれば、届けるように、動物愛護法が、改正されました)。
まとめ
積極的であってもなくても、動物虐待は動物愛護法により犯罪です。「動物の心身の状態・置かれている環境の状態」で判断します。殺傷・殴る・蹴るなどの虐待や遺棄、SNSなどの虐待動画・画像を見たときは、警察へ通報してください。
適切な食事や水を与えない等の不適切な飼育や、糞尿などが蓄積しているなど公衆衛生上の問題がある場合は、各自治体の保健所、または動物愛護センターへ通報してください。
「アニマルウェルフェア」の向上を考えた環境で動物を飼ってもらいたいものです。「アニマルウェルフェア」とは、動物の生活とその死に関わる環境と関連する動物の身体的・心的状態と定義されています。
動物虐待の裏には、その家庭の中に幼児虐待など弱い人が虐待されていることが多くあります。動物虐待に関心を持っていただくと、人の社会も改善される可能性もありますね。