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「若い人の将棋に寄せていく作業はやるようにしています」渡辺明名人、防衛達成後記者会見全文(2)

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

――藤井聡太竜王も加わって、これからA級順位戦が始まる。

渡辺明名人「それはもちろん、皆さん当然思うことでしょうけど(笑)。それは、はい。当然藤井さん、竜王含む五冠を持ってのね、このA級入りなので。当然注目が集まるとは思うんですけども。いや、ちょっとそれをでも今から考えるのはな、っていう気もするので(笑)。はい。うーん、もちろんそうですね。A級順位戦、名人になってからは、やっぱりだいぶ煮詰まってから『誰が挑戦者なるかな』とか、そういう思いで見てきたので。今年はまあ、藤井さんがいるからといって今までと違った見方をするとか、そういうことにはなんないかな、とは思います。やっぱりある程度煮詰まってきてから『誰が出てきそうかな』とか、そういう感じでちょっと終始していくっていうか。そういう感じになろうかな、とは思います」

――来期の防衛戦に向けて。

渡辺「来期に向けては、そうですね。あんまり現時点では・・・。そうですね。一年後、どういうコンディションで指してるかもちょっとわからないし。もうちょっと、暮ぐらいになってから考えます(笑)」

――3つのタイトル戦の総括は。

渡辺「年明けからのタイトル戦、いずれも自分より若い人との対戦だったので。もうそうですね、昨年なんかもそんな感じではあったんですけど。やっぱりそのタイトル戦っていうところでやってみて。いまの自分の立ち位置だったり、課題だったり。いいところだったり、わるいところだったりとか、まあいろんなところが見えてくるところはあるので。それを今回タイトル戦3つやって、まあいろいろ得たものもあったので。そのあたりをやっぱりこれから。よくなかった点についてはやっぱり、どういうふうに改善していくかってことは、考えていきたいですね。

――王将は失冠。棋王、名人は防衛。

渡辺「年明けの時点では3つあったんで、それは全部防衛できればもちろんよかったんですけど(苦笑)。それはなかなか、そうはいかないので。とりあえず2つ防衛できて。まあでもそうですね、次の戦いに向けてなんか準備していくっていう期間にしたいんですね」

――パソコン研究をした上での結果をふまえてどう判断するか。

渡辺「そこの点、序盤戦とかに関してはわりかしうまくいってた将棋は多かったかなと思うんですけど。でもところどころ足りなくて。わるくしてしまった将棋もありましたし。もちろん課題は序盤戦以外のところでも。むしろそれ以外のところの方が多かったので。ただなかなか、中盤戦、終盤戦の課題をこの年齢から克服していくっていうのは難しいんですけど。まあ、そういったことを少しは考えていかないといけないかな、っていうことは思いました」

――対人の研究会は。

渡辺「先ほど言ったのは、主にパソコンでの研究のところに関してで。人と指すこともたまにはあるんですけど。それとそうですね。やっぱりでも、若い人と指すと、なんか、まあやっぱり自分の将棋の古さっていうか(笑)。そういうのをすごい感じることは多いんで。それからやっぱり、どんどん若い人の将棋に寄せていくっていう作業は、がんばってやるようにしています」

――若手との差というのを具体的に。

渡辺「やっぱり戦術のところですね。序盤戦術のところで自分の感覚だったりっていうのがちょっと古いんだなっていうのがすごい感じることが多いんで。それがやっぱり特にこの1、2年ですごく感じることですかね。若い人と指すと、それはすごく感じます、はい」

――序盤の戦略を立てる上での考え方は。

渡辺「難しい質問ですね。いや、なかなか一口では言えないんですけど。まあ、対戦相手とのことも当然あるし。もちろん相手によって変わるんですけど。やっぱり番勝負を掛け持ちしたり、なんか続いたりってところでの戦法の選択だったりっていう、そういうローテーションだったり。そういうのがまあ、この数年はうまくいってるんで、こういう結果を出せているのかな、っていうのは思いますね。

――若手もAIを使って研究している上で屹立できている理由は。

渡辺「まあそうですねえ。どうなんだろう(笑)。それでも、そういう型だから特別力を入れてるってところもあるんでしょうけどね。自分のそういうところに。あとまあそういう作業がわりと向いてるんで。っていうところもあるでしょうし。うーん。まあ、そうですね。まあでもこの一年、勝つときの将棋はそういう勝ち方が増えたかな、っていうのはありますね。なんかあんまり中終盤、競(せ)ってというよりは、もう序盤でよくして、っていうか。そういう傾向が顕著になってきたかな、っていう。ちょっといいことなのか、わかんないですけど。まあその分、負けるときはなんか、中終盤でやられちゃうことも多いんで。そのへんは、バランスは難しいなと思います」

――タイトル戦に42回登場して31回獲得。タイトル獲得率が高い。

渡辺「そうですね・・・。それはでもやっぱりなんだろう。さっきちょっと話した戦法のローテーションだったり、とかそういうことはあると思うんですけど。でもそれはたぶん、皆さんやってることなんで。なんかその、なんていうんですかね。そういう相手だったりスコアだったりによってこの戦法を出していったりとか、っていうのが、特別自分だけがうまいとは思わないですけどね(笑)。たぶんそれは当然みんな考えることだとは思うので。そこがこの1、2年はうまくいってるんだろうな、っていうのはもちろん思ってるところですけど。ただ、みんな考えることだろうな、とも思うので」

――名人戦が終わったからやろうかな、みたいなことは。

渡辺「これからやろうと思ってるのは、しばらくちょっとできてなかったことですかね。まあなんか、なんだろう。野球観戦とかカーリングですかね。あとサッカー観戦とかですか(笑)。サッカー観戦はテレビですけど。それもなんか、あんまり見れてなかったんで。そのへんのタイトル戦のさなかになかなか時間がなくてできなかったことを、ちょっと、はい、やろうかなとは思ってます」

――この名人戦から昼、夕の休憩時間などが変更された。

渡辺「戦術はそんなに変わらないですけどね。まあただ(2日目夕方の)休憩が、そうですね、昨年より1時間早くなった(18時から17時になった)のは体感として、今年その違いはやっぱり感じましたね。というか昨年までがかなり、煮詰まったところで休憩になってたので。まあ、っていうか本来、僕は(2日目夕方の)休憩はいらない派なんですけど(笑)。あそこの休憩は。そうですね、だからまあ、けっこう煮詰まってて30分なので、あんまりがっちり食べたり休んだりっていう感じでもなく。けっこう局面が忙しくなってるんで。局面のことを考えてることが多かったですね。それで『もう30分経ってしまったかー』みたいな感じでした、やっぱり」

――永世称号の条件。通算5期(名人戦)と連続5期(棋王戦)を比べたときの難易度の違いは?

渡辺「それはもう全然違いますよね(笑)。だって、連続5期は基本1回しかたぶんチャンスないんで、普通の人は。通算だと、なんやかんや1回途切れても、もう1回ぐらいチャンスがあるんで。それはなんかやっぱり、全然難易度としては違うかな、っていうのはあります」

――視聴者に向けて一言。

渡辺「ABEMA将棋チャンネルで名人戦ご覧いただいた皆さま、どうもありがとうございました。名人戦終わって6月からはABEMAでは棋聖戦ですか。棋聖戦や王位戦、ABEMAトーナメントだと思うんですけど、引き続きそれ、楽しんでいいただいて。僕も解説とか行っちゃおうかな、っていう・・・。あははははは(笑)。ずっと対局者だったんで。タイミングが合ったら行きますんで、よろしくお願いします」

(渡辺名人の言葉はできるだけそのまま、記者からの質問は簡略に表記)

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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