新球団の名づけ親は元プロ野球選手!!江草仁貴氏(阪神~西武~広島)が「火の国サラマンダーズ」と命名
■独立リーグ球団の名づけ親になったわけとは
「火の国サラマンダーズ」―。
この名前を聞いてピンとくる人は、かなりの野球通だろう。九州に新しく誕生した野球の独立リーグ・熊本のチーム名だ。これを命名したのがなんと、元プロ野球選手(阪神タイガース―埼玉西武ライオンズ―広島東洋カープ)の江草仁貴氏なのである。
「熊本に大学の同級生がいて、『こういうの公募してるよ』って教えてくれて…」。
単純に「ちょっとやってみようかな」と興味本位だった。過去に何かのネーミングを考えたことがあるわけでもなかった。
「正直なところ、考えたのは1時間くらいかな。熊本といえば…で、最初は馬刺しが浮かんだけど、食っちゃうなとかつまらんこと考えたりして(笑)」。
ひらめきだった。“降りてきた”といった感じだろうか。
「なんかカッコイイのがいいなと思って、『火の国』『火の国』…って考えてたら、あ!サラマンダーって火の精霊じゃんって思いついて、ほかでサラマンダーズってないよなと。めっちゃカッコよくない?って思って、決めた」。
火の精霊だなんて、なかなかの博識だ。たしかに「サラマンダー」は四大精霊の一つで、火を司る精霊だ。
「あ、ゲームで知った(笑)」。
なるほど。ゲームは役に立つものだ。そして、応募したことも忘れたころに連絡が来た。最終の2候補にまで残り、ネット投票の得票数が多いほうに決まることが告げられた。
応募はニックネームでだったが、そこで初めて関係者に素性を明かすことになり、大いに驚かれた。そりゃそうだ。まさか元プロ野球選手が応募してくるなんて、予想外だったに違いない。
そしてネット投票の結果、みごと「火の国サラマンダーズ」に決定した。燃え盛る炎のような情熱を感じさせるネーミングが、多くの人々の心に響いたようだ。そこに込められた「苦難に負けず信念を貫く強さを持ったチームに」という思いも共感を呼んだのだろう。
「素直に嬉しかった。こんなこと、人生であるんだなぁと思って、本当に嬉しかった」。
たしかに“名づけ親”なんて、そうそうなれるものではない。我が子のような感覚か。
「絶対に応援しようと思っている。もう、気にして見ます、ちゃんと。やっぱり地元に愛されるチームになってほしいな。あ、それと名づけ親として始球式がしたい(笑)」。
副賞としてもらった温泉宿泊券を利用して、熊本への旅行も計画している。そこで始球式…となったら、注目度も上がる。「火の国サラマンダーズ」にとって、これほど強力な“広報部長”はいないだろう。営業面での江草氏の影響力にも大いに期待できそうだ。
九州独立プロ野球機構(BFK)は、この「火の国サラマンダーズ」と「大分B-リングス」の2球団で構成され、来年3月20日に開幕する予定だ。
■大阪電気通信大学・野球部の投手コーチとして
さて、そんな江草氏には2年前にも引退後の近況を語ってもらっている。当時、大学野球のコーチと実業家の“二足のわらじ”を履いて奮闘している日々を明かしてくれたが、現在も大阪電気通信大学で投手コーチとして指導に当たっている。
「確実にチームの力は上がってきている。あとは結果を出すだけ。早く1部に上がりたい、それだけ」。
阪神大学野球連盟の2部東リーグに属しているが、今年はコロナ禍で試合数が激減し、目算が狂った。来年春季リーグ戦では「1部に上がれるだけの力はある」と自信をのぞかせる。
有望選手の入部もかなり増えた。高校球児が大学を選ぶにあたって、元プロ野球選手である江草コーチの指導を受けられるということは、大きな“決定打”となっているのだろう。
指導者として江草氏が、重点を置いていることがあるという。
「学生野球なんで、やっぱりこれから社会に出るために必要なこととか、勉強してほしいこと、今やらなきゃいけないことっていうのを優先しながら。野球以外の生活であったりだとか、そういうのを大事にしている」。
この考えは、コーチに就任した当初から変わっていない。これをベースに、野球においての指導も徹底している。
「目標に向かってのアプローチの仕方。まずノートをしっかり書け、と。大きい目標…たとえば優勝したいとか、プロになりたいとか、そういうのを決めさせて、それに対して夢を実現するためにどうやっていけばいいのかというのを考えさせる」。
目標設定と、そこにどう向かっていけばいいのか。そのためには日々の過ごし方が大事だと説く。これも一貫している。
「ただ毎日を適当に過ごさない。今日の練習が終わった~、はい、明日も練習だね~、じゃなく、今日はどういう練習をしたから、じゃあ明日はこういうのをやろう、とか、この練習はどういうときに必要なのか、とか、そういうことを考えながらやってほしい。ただやっただけという無駄な一日は作らないようにしなさいとは言っている」。
同じ内容の練習でも、やらされているのと己の意識を持ってやるのとでは、成果はまったく違うだろう。その意識改革のヒントは与え続けている。
■地元・福山市に恩返ししたい
そして地元・広島での活動も広がっている。介護事業に関してはコロナ禍もあり「アドバイザー」という立場に変わったが、テレビやラジオ、講演、オンラインでのトークライブなど精力的に出演している。
トーク力にさらに磨きがかかり、オファーは後を絶たない。
また先日は、福山市の小学校で6年生を対象に「食と運動」をテーマに「ごはんを食べるたいせつさ、運動することのたいせつさ、そういうのをしゃべって、一緒に運動してみようかってやった」と、特別授業を行った。
「地元の福山には恩返ししたいっていう思いがあるんで、子どものためになることをやろうっていう感じ。スケジュールさえ合えば行って、僕にできることがあればやっていきたい」。
福山市でのボランティア活動にも積極的で、スポーツイベントなど子どもたちに対して何か形にして残していきたいという思いで動いている。
■アスリートとして、どんな発信をしていくのか
さらに今後、計画していることがある。
「このご時世だし、YouTubeとかオンラインサロンとか、そういうのもやってみたい」。
このところ元プロ野球選手が次々とYouTubeチャンネルを開設している。ただし江草氏の場合、野球に特化するつもりはないという。
「スポーツというくくりで、何かできたらなと思っている。僕は基本的にほかのスポーツの人をすごくリスペクトしてるんで。そういう意味でいろんなことを教えてもらったりとか、実際に家でもそうだけど、野球と考え方がまったく違うこととかもたくさんあるんで、ほんと勉強になる」。
“家で”というのは、言わずと知れた奥様の元プロバレーボール選手・竹下佳江さん(現株式会社姫路ヴィクトリーナ取締役球団副社長)のことである。オリンピックや世界選手権など、全日本代表選手として世界の大舞台で活躍してきた佳江さんを尊敬し、別世界である話をいつも興味深く聞いているという。
ということは夫婦共演もあるのでは?
「いやぁ、それは…出てくれないんじゃないかな(笑)」。
妙に照れているが、それはファンにとっても期待するところだ。江草氏の意外な素顔が見られるかもしれない。
ほかにも他競技の選手との交流も多い江草氏だからこそ、広くスポーツ界を舞台におもしろい発信をしてくれるに違いない。
愛嬌のある笑顔と軽妙なトーク、幅広い知識と頭の回転の速さ…。今後ますます活躍の場を広げていくであろう江草仁貴氏から目が離せない。
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≪キレダス体験会≫
秋季リーグが終わり、練習初日となった大阪電気通信大学野球部で、キレダスの体験会が行われた。(キレダスとは⇒ボールのキレを出すキレダス)
2人一組になってキレダスを投げたあと、通常の硬球に持ち替えてキャッチボールを行った。それぞれ反応はさまざまだったが、見守った江草コーチはこう語る。
「本当にいいものだなと思った。当然、合う合わないというのはあるけど、やっていることはすごくいいことなので、体の使い方だとか何かのヒントには絶対になるはず。素直な心でまずやってみて、何か自分のヒントになればそれだけでもいいと思う。投げ方がよくなるのがベストだけど、そうじゃなくても、これをやったことによって色々つながる部分がある。貴重な体験をさせてもらえた」。
選手を少しでも成長させてあげたいという思いが、言葉ににじみ出ていた。
(写真について A…江草仁貴氏提供 B…筆者撮影)
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