野球選手も子どもも必見!ボールのキレを出す「キレダス」は故障防止にも役立つ
■「キレダス」とは?
たくさんの穴が開いたボールに棒、その先には羽がついている。不思議な形状をしているこの道具、名前を「キレダス」という。その名のとおり、投げるボールのキレを出すというものだ。
投手の投げるボールを評するときに使われる「スピード」「コントロール」「キレ」。スピードは数字に表れるし、コントロールは目で見てわかる。
では「キレ」とは…?「キレを出す」とは…?なぜ「キレダス」を使うと「キレ」が出るのか…?
そんな疑問に、「キレダス」を開発した「スマイルプランナー社」の代表・津口竜一さんが答えてくれた。
「どのスポーツでもそうだけど、理論的に難しい理屈とかで説明されてもわからない、とくに小学生くらいだと。シンプルに上達するものがあれば、それに越したことはない。このキレダスはまさにまっすぐ飛んだらいい、飛ばなかったらダメっていう、すごくシンプルなもの」。
まっすぐ飛ばすためにしっかりした投げ方をしなければならないという要素が、この「キレダス」には詰まっているのだという。小学生でも感覚的な部分を目で見ることができ、「どうしたらまっすぐ飛ぶか」と考えながら投げることができる。
そして、それができれば実際のボールを正しく遠くに投げられるし、思考力も養われるというわけだ。
「まっすぐ投げられない要素としては、体全体がしっかり使えていない、上半身だけの手投げになっている、早めに突っ込んでいる、手首が折れているということがある。中でも多いのが手首を折るということ」。
手首が折れているとボールとの接地面が短くなり、スピンがかけられないという。いわゆる「おじぎする」「棒球」と言われるボールがそうだ。逆にスピンのかかったボールは手元で伸びる「キレ」のあるボールということだ。
つまりこの「キレダス」をきちんと投げられるということは、しっかりと体全体が使え、手首が立っているということになる。
「社会人時代のエースの方が球速は130キロちょいくらいしか出ないのに、バッターはことごとく打てなかった。それを見たときにスピードよりコントロールとキレだなと思って。そういう視点でプロを見たときに、もちろんスピードはあるに越したことはないけど、キレのあるピッチャーって長く、歳とっても投げている。そっちのほうが必要なんだなっていうことに気づいた。『キレダス』はそれを出すための最適な道具なので、自信をもって勧められる」。
そう言って、津口さんは胸を張る。
■「キレダス」誕生秘話
そもそも「キレダス」はどのように誕生したのか。
千葉大学からTDK硬式野球部(秋田)に進んだ津口さんは、社会人日本代表に選ばれるなど、148キロ左腕としてドラフト候補にも挙がった。2006年には都市対抗優勝も経験した。野球を引退してからはずっと「野球界、教育界に貢献したい」という思いを抱いてきたという。
昨年9月、TDK時代の後輩だった藤田剛士さん(現スマイルプランナー開発部長)に見せられた動画に目が釘付けになった。
「なにこれ?めっちゃいいやん!」
そこに映っていたのは、ボールを投げる子どもの“ビフォー・アフター”の映像だった。
当時、野球教室をしていた藤田さんは子どもたちに言葉で伝えることの難しさを痛感していた。「肘を上げろ」「ボールを前で放せ」と言っても、子どもたち自身の感覚では「できている」と答える。しかし実際はできていない。そのギャップを埋めるにはどうしたらいいか試行錯誤した。
「紙飛行機を飛ばすようなイメージで前で放してみて」と言っても、なんと紙飛行機を知らないという。
「だったら物を作ろう。野球だからボールを持たないと意味がない。ボールの感覚でできる紙飛行機っていうイメージで」。
何度か形を変え、試作品を作った。そして実際に子どもたちに使ってもらった。すると、みるみる変化が表れたのだ。
「最初は手首を折って真下に落ちていたのが、まっすぐになるようにというのを繰り返ししていくうちに、ちゃんと投げられるようになって。その後、実際のボールに持ち替えて投げたときには、今まで垂れていたのが伸びるようになった」。
子どもたちにもわかりやすい道具だ。矢が下を向いていると手首が折れている、まっすぐだと正しく投げられている。子どもたちも自覚し、納得して取り組める。
子どもたちの劇的な変化に驚いた藤田さんは、道具を使う前と使ったあとの投球動画を撮影し、津口さんに見せたのだ。
そしてそれを見た津口さんも「この年齢の子が投げるボールの質じゃない。この道具を使ってこんなに変わったのなら、すごくいいものだ」と飛びつき、自身も試してみた。
「僕ももう野球を辞めてから10年以上経つけど、現役のときの感覚が一気によみがえってきた。軽く投げたボールがサーッといくような感じがあって、『え?』となった」。
おもしろくなり、さまざまな小学生や中学生にも試してもらった。するとみんな、たちまち良くなる。キレのあるボールを遠くまで投げられるようになる。
「これはもう商品化しないといけないな」と急ピッチで工場を探し、製品化にこぎつけた。当初は長さが3種類あったり、羽の形状も違ったりで改良に改良を重ねた。
そして今年2月13日、とうとう「キレダス」が産声を上げたのだ。この「キレダス」というネーミングは、津口さんが「5分くらいで思いつきで(笑)」つけたというが、わかりやすい。
「僕らはいいものだと自信があったので、徐々に口コミで広がっていけばと考えていたら、翌月には野球YouTuberの方に紹介されて、一気に加速して…」。
またたく間に上はプロ野球選手から下は幼稚園児にまで広まり、発売開始から半年で2万本もの数を売り上げた。
「アンケートをとったら2000人くらいの人から回答がきて、『すごくいいです』『変わりました』と嬉しい声ばかりで、ほんとにいいものだなって確信しているところ」。
一時は生産も追いつかないほどの売れ行きに嬉しい悲鳴をあげ、急遽、生産体制を強化した。
■「キレ」とは?
多くの人が使って実感しているボールの「キレ」。その「キレ」について津口さんはこう話す。
「キレを構成する要素としては回転数もそうだけど、回転軸というのがある。回転軸がまっすぐでスピンをかければ必然的に空気抵抗が少なくなるんで、初速と終速の差が小さくなるというのはある。つまりボールが垂れずに手元で伸びる感覚」。
「キレダス」が正しく投げられていれば、回転軸がまっすぐに近く、スピンをかけられているということになる。
また、その感覚を掴むことで再現性も高まり、悪くなったときの修正の仕方も体得できるようになるという。
今後、科学的な根拠も検証していく予定だが、なんといっても実際の使用者が「キレダス」の効果を実感していることが大きい。
■「キレダス」を体験した兵庫ブルーサンダーズの選手たち
この「キレダス」の体験会があるということで、実際に見てみたいとお邪魔した。体験したのは関西独立リーグ・兵庫ブルーサンダーズの選手たちだ。津口さん、藤田さん、そして三浦泰揮さん(スマイルプランナー営業統括部長)の説明を聞きながら、それぞれ「キレダス」を使っての“キャッチボール”が始まった。
「うわーっ!」「むずっ!」など、あちこちで声が漏れる。手から放たれた「キレダス」はなかなかまっすぐに飛ばない。しかし、そこは野球選手だ。しばらく続けていると、徐々にまっすぐきれいに飛ぶようになってきた。
その後、通常の硬球に持ち替えて投げてみると・・・。ヒュンと伸びのある球が相手のグラブに納まる。これにはまた「すごい!」「違う!」と歓声が上がる。
選手みんな、顔が輝いている。野球を始めたころの少年に戻ったかのようにはしゃいでいる。その様子を津口さんたちも目を細めて見守っていた。
では、体験した選手たちに聞いてみよう。
【友田大悟 投手】
指導者の方にはよく「前で放す」とか「体の近くで」とか言われてきたんですけど、言葉だったらわかりにくい部分が大きい。でも、「キレダス」を投げると、リリースが理にかなってないところだったら絶対にボールがいかない。逆に理にかなってるリリースの場所だと勝手にボールがいってくれるんで、言葉抜きで自分のフォームの中で正解を見つけられる点がすごく自分にとってプラスに働いたかなと思います。
実際のボールを投げたとき、前よりもパワーを抑えたというか、リラックスした感じで投げたのに、力んだときと同じくらいのボールがいっていた。マウンドから実際に投げたときに感覚をしっかりすり合わせて、「キレダス」の感覚で放ることができれば、自分的には楽しみかなと思います。
【來間孔志朗 投手】
「キレダス」をやった後のキャッチボールがだいぶ良くなった感じがあった。なんか軽い力感でボールがいってる感じ。「キレダス」は感覚的に力まずに投げなきゃいけなかったので、それにすり合わせたら、思ったよりも軽い力感でボールがスーッといったので、これからぜひ取り入れたい。
【西村太陽 投手】
よかった。なんか放す感覚とかが最近までちょっとおかしかったんで。思いきって放れないみたいな、力が入らないっていうか…。
だけど、「キレダス」をしてから前にも(体重が)乗るようになった。「キレダス」をちゃんと投げようと思ったら、自然とそういう体の使い方ができるようになった。
そのあとのキャッチボールでは、ここ最近ではないような球がいって、めっちゃよかったです。
【山科颯太郎 投手】
やっぱ伸びっていうのが、みんな違うようになっていた。キレが出てて。
僕はめっちゃ抜けて、難しかったんですけど。今、調子悪くて投げ方悪いんで、そのせいかなと思って。
今後もやっていきたいです。
【小山一樹 捕手】
普段、意識したことないというか、新しいことを学べてよかったです。
今まで力に頼ってきたようなフォームで、それでケガもしてきたと思います。これまでの自分の地力だけじゃ長く続かないし、正確性の部分でもよくない。今日も実際あんまりできなかったんで、練習したい。
シーズンももう少しなんですけど、より良くなるようにやっていきたいです。
【山科聖 内野手】
今までにない感覚だったんで、最初は思うとおりにできなかったんですけど、説明とか聞いてだいぶ体現できるようになりました。
実際のボールで投げると手首が立つような感じで、抜けはしましたけど、回転は前よりは断然良くなったかなと思います。
■「キレダス」今後の展望
選手それぞれが楽しみながら、何かを掴んだようだ。今後の成長が楽しみになる体験会だった。
現役選手はもちろんのこと、小さい子どものうちから正しい投げ方を身につけることができ、それが故障防止にもつながる。なにより「ボールを投げるという原点の純粋な楽しさを感じてもらえる」と津口さんたちも「キレダス」の普及を喜ぶ。
さらに「僕らにはもうひとつのミッションがある」と語る。
「『キレダス』って、野球をやっている大人より小学生のほうが変化率が大きい。たとえば一日で遠投が10m、20m伸びたりというのがザラに起こっている。純粋な人口減少にともなって、またほかのスポーツとの兼合いもあって、野球人口が減ってきている。小学生のうちから『キレダス』で投げる楽しみを知れば、まったく野球に興味なかった子でももしかしたら野球の道に進んでくれるかもしれない。進まなくても投げるという動作においてケガの少ないフォームを身につけられるので、ほかの球技にも活かせる。なので小学校低学年に導入して、投げる力を底上げしたい」。
いずれは「キレダス」を小学校の必須教材にしていきたいと意気込んでいる。
近いうち、あちこちの校庭で「キレダス」に興じる子どもたちの姿が多く見られそうだ。
(写真撮影はすべて筆者)