NMB48・加藤夕夏が吉本新喜劇とのミュージカルで覚醒 川上千尋、塩月希依音、石田優美も存在感
吉本新喜劇とNMB48によるミュージカル『ぐれいてすと な 笑まん』の大阪公演が5月22日に閉幕し、5月26日より東京公演がスタートする。
同作は架空の星にある国・なんばを舞台に巻き起こるコメディ。お笑い集団・新喜劇とアイドルグループ・NMBが、笑うと伝染する感染症の騒動に巻き込まれる物語だ。
吉本新喜劇とNMB48のミュージカルは「大阪のエンターテインメントの最高峰」
吉本新喜劇とNMB48は言わずと知れた大阪を代表するエンターテインメント集団である。
63年の歴史を誇る吉本新喜劇は、「大阪の笑い」を作りつづけてきた。誰かがボケたら舞台上にいる全員がこけるなど、作品のなかに登場する「定番」はいずれも大阪人のDNAに染みついている。大阪の人々が他人の話にオチを必ず求めてしまう要因のひとつには、そんな吉本新喜劇の存在があるからではないだろうか。毎週土曜日の昼、癖のようにテレビのリモコンで「4チャン(吉本新喜劇が放送されているチャンネル番号)」をつけてしまう大人や子どもも少なくないはずで、笑いを身近に感じさせてきた。
一方のNMB48は、歌やダンスだけではなく喋りのうまさにも定評がある。その「最高傑作」となったメンバーが、バラエティ番組を席巻中の渋谷凪咲だ。彼女の大喜利力を芸人たちは絶賛しており、麒麟・川島明も「アイドルで天然や毒舌の子はいるけど、(渋谷は)しっかり大喜利が強い。なにかを振ったときに、絶対にエピソードや笑いで返してくれる。芸人が見習ったほうが良いぐらい。どんな姿勢からもシュートを打ってくれる」と、その力にうなる。もちろんグループには渋谷凪咲のほかにも個性派が多数そろっている。AKB48グループきってのタレント集団である。
『ぐれいてすと な 笑まん』はそんな両者が組み合っているとあって、「大阪のエンターテインメントの最高峰」と言うべき充実の内容だった。
加藤夕夏の資質に島田珠代が太鼓判「ミュージカルスターになれる」
目を見張ったのが、NMB48のメンバーたちの活躍である。とりわけ加藤夕夏の覚醒は、NMB48だけではなく演劇界にとっても大きな収穫だ。前述した渋谷凪咲に続いて、全国的なスターになってもおかしくない。
加藤夕夏は同作のなかで、昏睡状態から目を覚ます新喜劇座員・川畑(川畑泰史)の妻・夕夏を演じている。ポジションとしてはメイン級で、なんばに笑いを取り戻すために奮闘する川畑を献身的に支える役である。
芝居面で素晴らしいのは、夕夏が自分の本音を飲みこむところだ。目標実現に向かって邁進する川畑を応援しながらも、自分自身の幸せについて問い直し、それを言葉になかなかできないもどかしさをかかえる。そんな彼女の心模様は、観ているこちらも日常のどこかに思い当たるものがあり、複雑な気持ちにさせる。この作品のテーマである「笑顔」の根っこの部分をしっかり訴えかけてくる。
また、歌も抜群だ。ただ単にうまいだけではない。作品のメッセージ性を会場全体に届ける「歌の力」を持っている。もちろんミュージカルの基本となる声量も良い。これは自身のYouTubeチャンネルでヨガの動画をアップするなど、普段から身体のバランスを整え、また鍛えている成果が結びついているのではないか。
筆者が鑑賞した大阪公演の回のアフタートークでは、共演者である吉本新喜劇の島田珠代が「うーか(加藤夕夏の愛称)は歌が上手。ひとりでボイスレッスンにも行っていた。ミュージカルスターになれるんじゃないかと思うくらい、エエ声をしている」とべた褒めすれば、川畑泰史も「プロフェッショナルを感じるんです。お芝居って気持ちを入れるしかない。(劇中で)好きな人がいたら、好きになるしかない。それができているから、こちらもお芝居がやりやすいんです」と実力を高く評価した。
加藤夕夏は、劇中で川畑泰史のことを好きになるように「自分をコントロールしました」と言い、「吉本新喜劇のグッズが売っている店に、川畑さんの靴下とかを買って身につけていました」と自分なりの役への入り方を振り返った。
ミュージカルなど舞台の仕事に意欲的で、劇団そとばこまちの作品にも出演する加藤夕夏。アイドルとしても、NMB48のシングル表題曲の選抜を22作連続でつとめている。これはグループの最多連続記録である(更新中)。NMB48を代表するメンバーのひとりだが、今後はこれを機に役者としても開眼するのではないか。
石田優美は化けそうな気配、笑いどころは川上千尋&塩月希依音
舞台のなかでおもしろい存在感を放っていたのは、加藤夕夏だけではない。なかでも、化けそうな気配があったのは石田優美だ。
舞台上の振る舞いを観ているとやや乱暴なキャラクターが似合いそうで、吉本新喜劇のメンバー相手に攻めの姿勢を崩さないところも見事だった。3月27日のNMB48のシングル表題曲選抜メンバーを決める投票イベントでは選抜落ちを味わい、悔し涙を流した石田優美。そういった負けん気の強さが芝居にも生かされている気がした。彼女の良い意味での派手な雰囲気は、映画、ドラマなどで映えそうだ。
川上千尋、塩月希依音はこの舞台で一番の笑いどころを担った。
「アドリブのモンスター」である吉本新喜劇・すっちーの強引なパスもなんのその。「間の笑い」で爆笑をさそう。すっちーも彼女たちの対応を気に入ったのか、ノリを加速させていく様子がうかがえた。きっと「ふたりならもっと踏み込んでも大丈夫だろう」となったのではないか。公演回によってこの3人のパートは空気感に変化があるので、何度鑑賞しても笑えるだろう。
終盤の吉本新喜劇とNMB48の両メンバーによる歌唱シーンは素直に感動できる。吉本新喜劇の「偉大なるマンネリ」の笑いに、NMB48の予測不可能さとメンバーの個性がまじり、約3時間、飽きさせることがない舞台となっている。
ミュージカル『ぐれいてすと な 笑まん』は5月26日から5月29日まで明治座(東京)にて公演開催