時間もニオイで感じる?犬の素晴らしい嗅覚とそれ故の注意点
「鼻が良い動物は?」と聞かれると多くの人が「犬!」と答えるのではないでしょうか。
実際にはゾウやクマなど犬よりも鼻が利くとされている動物もいるのですが、犬は鼻が利くだけでなく、それを人に伝える能力を持つという点が特別です。人に対して協力的な犬は、その嗅覚に関する研究がかなり進んでいます。
わずかなニオイでも嗅ぎ分けることで、犬は時間の経過や相手の体調まで知ることができます。この記事では犬の嗅覚に関する興味深い研究と、嗅覚が鋭い犬だから必要な飼育時の配慮についてご紹介します。
犬がわずかなニオイでもわかる理由
まずは犬の嗅覚についておさらいしておきましょう。
犬は人間の数千倍もの嗅覚を持つと言われています。ただし、犬の種類によっても鼻の良さは違いますし、感じ取れるニオイの種類によってもその感度は異なります。
犬が人に比べて桁違いに優れた嗅覚を持つのは、鼻の中のニオイを感じ取る粘膜層(嗅上皮)の広さが大きく異なるためです。人の嗅上皮は1円玉から10円玉くらいの広さですが、犬は千円札より少し大きいくらいで人の50倍以上の広い嗅上皮を持っています。このため、犬はわずかなニオイも感じ取ることができるのです。
また、犬には複雑に混ざったニオイから個々のニオイを嗅ぎ分ける「ニオイの階層化」という能力があります。麻薬探知犬が麻薬のニオイをかばんの奥底からでも感じ取ることができたり、警察犬が犯人のニオイを追跡することができたりするのはこの能力によるものです。
犬は時間の経過をニオイで感じる
人と違いわずかなニオイの変化を感じ取ることができる犬は、ニオイの変化から時間の経過も感じ取ることができるといいます。
そもそも時間というのは人間が作り出した概念です。動物には時計を読むことはできませんので、時間の経過は太陽の動きや気温の変化など環境の変化で感じることになります。
犬の場合そんな環境の変化の中でもニオイの強弱で時間を認識していると考えられています。例えば飼い主が外出したとき、飼い主のニオイは時間と共に薄れていきます。もし帰ってくる時刻がいつも同じなら犬は「これくらいニオイが薄まったら飼い主が帰ってくる」ことを学ぶでしょう。
エサの時間を正確にわかっている犬も同じです。エサを食べ終わり、そのニオイが時間とともに徐々に薄まってきて、ある一定の薄さまで達すると次のエサが出てくることを犬は覚えているのです。
また犬はニオイの強弱で過去と未来を認識しています。強いニオイは最近付けられたもの(現在)、弱いニオイはつけられてから時間が経っているもの(過去)と理解しているのです。警察犬は犯人の足取りを追うときも、ニオイの弱いところからニオイの強い場所に向かって進んでいくからこそ、最終的に「今」犯人がいる場所へとたどり着くことができます。
病気のニオイがわかる犬
犬はその鋭い嗅覚から、様々ながんや感染症の患者をニオイを嗅ぎ取ることで判別できるそうです。病気を見つけるために訓練された犬は「医療探知犬」と呼ばれ、世界中で研究が進められています。
医療探知犬によりマラリア感染の子どもを靴下のニオイから7割の精度で嗅ぎ分けることができたほか、肺がん患者および乳がん患者の呼気を9割近い精度で嗅ぎ分けることができたとの報告もあります。
病気を患っていることや死期が近いことをニオイによって気づける動物は犬以外にも報告されていますが、その結果を人間に伝えることができたり、訓練を行うことでその精度を上げたりできるという点は犬ならではです。
犬による検査は、尿や呼気などのニオイを嗅いでもらうだけなので検査を受ける側の負担が軽いことが大きなメリットです。セラピー犬などにこういった訓練を行えば、介護施設などでの病気の早期発見に一役買いそうですね。
優れた嗅覚を持つ犬のために注意してあげたいこと
人と犬の嗅覚は大きく異なるため、人が平気なニオイでも犬にとっては苦痛である場合があります。特に、人工的なニオイは犬が苦手なものが多いため気を付けてあげましょう。
例えば、コロナ禍以降どこの家にもある消毒用アルコール。アルコールはそもそも犬猫には危険なものですが、犬の場合はニオイを感じるだけでもくしゃみがでてしまうことがあります。
さらに人間でもニオイがきつく感じるマニキュアや除光液も揮発性が高く、鼻の良い犬にとっては危険です。同じ部屋でネイルをすると犬の具合が悪くなってしまうことがありますので、極力同じ部屋で行うことはさけ、終わった後もしっかり換気しましょう。
香水や柔軟剤なども避けた方がいいかもしれません。犬にとって「良いニオイ」は大好きな飼い主であるあなたのにおいであることを忘れずに、たとえ人にとって良い香りでもニオイが強いと思ったものはなるべく避けてあげてくださいね。