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WHOがやっとした「パンデミック宣言」に「中国からOKが出たんだろ」の声 なぜ宣言が遅れたのか?

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
WHOのテドロス事務局長が、やっと、新型コロナの「パンデミック宣言」を行った。(写真:ロイター/アフロ)

 新型コロナウイルスに感染していると確認された人々の数が世界で12万人に迫るのを目前に、WHO(世界保健機関)が、やっと「パンデミック(感染症の世界的流行)宣言」に踏み切った。

中国からOKが出たのか

 ツイッターは「遅すぎる」という声で溢れている。

「無能なバカたちは何週間も前に宣言すべきだったのよ」

「遅すぎる。ウイルスは世界中に拡散してしまった。WHOは1月に宣言すべきだった」

「なぜこんなに時間がかかったの?」

「こうなることはわかっていたよ」

という声から、

「WHOのボスである中国から、やっと、パンデミック宣言してもいいというOKが出たんだろ」

「私たちはもうとっくにパンデミックって呼んでるわよ」

「気づくのに3ヶ月しかかからなかったのね」

という皮肉な声まで様々だ。

迅速な対応に出ていない国がある

 WHOのテドロス事務局長は「パンデミック宣言」をした理由について、

「警告を与えたいほどのウイルス拡散や疾病の深刻さ、そして、警告を与えたいほど対応が取られていない状況を深く懸念している。今では、114カ国で、11万8000以上の感染例と4291人の死者が出ている。今後、感染者数や死者数、それに感染者を抱える国々の数が、もっと増加すると予測している」

と述べた。

 つまり、ウイルスの拡散はもちろんだが、国々が迅速に強い対応に出ていないことを懸念し、「パンデミック宣言」をしたのだ。

 WHOは、韓国や中国は新型コロナのコントロールが可能であることを証明したが、キャパシティーやリソース、解決策不足のため、コントロールに苦労している国々があると指摘、強い対応が講じられないと、健康福祉システムが脆弱なアフリカの国々に拡散し、感染者数や死者数が爆発的に増加すると懸念している。

 また、封じ込め努力に力を入れる重要性も訴えている。ウイルス封じ込めに取り組むことで、国々は新型コロナの拡散スピードを抑えて、軽減対策に取り組む時間を得ることができるというのだ。

なぜ宣言が遅れたのか?

 しかし、なぜ、こんなにも「パンデミック宣言」が遅れてしまったのか?

 米紙ワシントン・ポストによると、背後には、新型インフルエンザ(豚インフルエンザ ウイルスA/H1N1)で得た教訓があるようだ。

 2009年に、新型インフルエンザが発生した際、WHOは「パンデミック宣言」をした。各国政府はワクチン購入に莫大な予算を費やした。しかし、実際には、恐れられていたほどは死者が出ず、酷い状況にも至らなかったため、結局、ワクチンはあまり使われることはなかった。そのため、ワクチンを購入した政府は、「パンデミック宣言」をして恐怖を駆り立てたWHOを非難した。

 たやすく恐怖やパニックを駆り立ててはならない。WHOは新型インフルエンザの際に行った「パンデミック宣言」後に生じた混乱から、そんな教訓を得たのだろう。実際、テドロス事務局長は、2月24日、記者会見で「パンデミックという言葉は恐怖を引き起こす可能性がある」と話していた。

 非難を受けたWHOは、2013年、それまで取ってきた6フェーズ(段階)のアプローチを廃止した。WHOは、疾病の警戒水準が高まるとともに、警戒レベルを1フェーズずつ上げ、最後の6フェーズ目で「パンデミック宣言」を行っていた。しかし、新型インフルエンザの際に起きた混乱から、6フェーズのアプローチでは「パンデミック宣言」をした際にパニックが起きると懸念したのだ。WHOは現在、「パンデミック宣言」はリーダーたちの判断に委ねて行うアプローチを取っているという。

 しかし、今回、パニックを起こしたくないあまりに遅過ぎる「パンデミック宣言」を行ったことで、WHOは信用を損なったという指摘もされている。

 「パンデミック宣言」が今後、各国の新型コロナ対策にどんな影響を与えるか注目されるところだ。

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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