ワンダーウーマンに魔女にキアヌに。こんな時だからこそお勧めしたいX'mas映画5選
2020年も明日から最後の1ヶ月に突入する。パンデミックの出口は一向に見えて来ず、庶民は今後も一層の自粛生活を強いられそうだ。それでも、劇場は出来る限りの感染対策を施して、観客が安心して映画を楽しめる環境作りに徹している。本来なら、今はクリスマス映画が話題になるシーズン。でも、今年はこの季節にピッタリの話題作が次々と公開延期になって、映画業界最大の話題は『鬼滅の刃』がいつ『千と千尋の神隠し』を抜いて歴代国内興収のトップを奪取するか!?である。
だからこそ、あえて今年のクリスマス映画からおすすめの5本をピックアップしてみた。ここで紹介するのは、クリスマスに家に籠って観たいクリスマス関連の過去作ではなく、正真正銘の新作映画(洋画限定)。では、行きます!
暮れに舞い降りた救いの女神、『ワンダーウーマン1984』
まず、コロナ禍で今年6月から公開延期が続いていた『ワンダーウーマン1984』が、12月25日の全米公開に先駆けて、いよいよ日本でお披露目される。映画ファンにとって本当に救いの女神だ。配給のワーナー映画はアメリカでは傘下にあるHBO Maxとの同時配信という形式を取ったが、同社は『TENET テネット』に引き続き、公開延期を選択する同業他社とは違い、劇場優先という姿勢を今回も崩さなかった。おかげで、今年のクリスマス映画が俄然クリスマスっぽくなった。
怖い魔女とネズミの対決。『魔女がいっぱい』
同じく、ワーナー配給の『魔女がいっぱい』は、ある意味、『ワンダーウーマン1984』よりむしろ、このシーズンに観るのには最適かもしれない。『チャーリーとチョコレート工場』(05)で知られるロアルド・ダールの原作を、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(85)のロバート・ゼメキスが監督し、ゼメキスと『シェイプ・オブ・ウォーター』のギレルモ・デル・トロが脚本を書いたと聞いただけで、わくわくしてしまう映画ファンは多いはず。期待に違わず、1960年代の豪華ホテルに現れた魔女軍団の秘密を知ってしまったために、ネズミに姿を変えられた子供たちのリベンジマッチは、設定といい、豪華絢爛な衣装といい、刺激的なビジュアルといい、奇想天外な展開といい、童心を引きずる映像作家、ゼメキスならではの遊び心に溢れている。何よりも、軍団のリーダー、大魔女=グランド・ウィッチを演じるアン・ハサウェイが、いわゆる従来の魔女のイメージを打ち砕く怪演ぶりで、新しいヴィラン像を披露してくれる。それは、代表作『プラダを着た悪魔』(03)で悪魔のような上司に仕えた彼女自身が悪魔に変身した瞬間。言い換えれば、若手演技派から”グレン・クローズ路線”にシフトした、喜ばしくも恐ろしい瞬間だ。これを見逃す手はない。
ゼメキスがあえてぬいぐるみの風合いを目指したと思しきネズミたちのモフモフ感がペット愛をくすぐるし、主人公の少年を引き取る心優しい祖母を演じるオクタヴィア・スペンサーが醸し出す、おおらかであったかい雰囲気は、ハサウェイの大魔女の対極にあるこの映画の肝。『シェイプ~』でも『gifted ギフテッド』(17)でもそうだったように、危機に瀕した主人公たちのサポート役をユーモラスに演じて、今やスペンサーほど心強い存在はないのだ。
キアヌ・リーヴスが笑いを運ぶ『ビルとテッドの時空旅行 音楽で世界を救え!』
若い頃に演じた当たり役で実に29年ぶりにシリーズ復帰を果たした『ビルとテッドの時空旅行 音楽で世界を救え!』のキアヌ・リーヴスも、人々に元気をくれる存在だ。キアヌ本人が最も大事な作品の1つにあげる本作は、ロック好きの青年2人が電話ボックス型のタイムマシンに乗ってあらゆる時代にワープするロック&タイムスリップ映画。その最新作は、歳はとってもロックを愛する気持ちを捨ててない大人子供のテッド(キアヌ)が、同じく相棒のビルと共に滅亡しようとする世界を文字通り音楽で救おうとする話だ。このキャラ設定自体がロックマニアで素朴な宇宙人みたいなキアヌそのもの。劇中ではしょっちゅう慌ただしく駆けてばかりいる姿は、今年56歳にはとても見えない。嘘だろう!?たとえハリウッドのメインストリームから遠ざかっても、自分が愛する映画だけを作り続ける俳優キアヌ・リーヴスの今が垣間見られる本作は、先日発表されたTIME誌の年間ベストテンにもランクイン。理由は「2020年という暗い年を明るい笑いで照らしたから」。終始緩く笑える演出も含めて、これはクリスマスを脱力して過ごしたい人向きだ。
時代を映す刺激的な写真がいっぱい。『ヘルムート・ニュートンと12人の女たち』
クリスマスにドキュメンタリー映画はアリか?アリだと思う。『ヘルムート・ニュートンと12人の女たち』は、かつて、長身の美女にボンデージ・ファッションを纏わせたSM的なファッション・フォトで一世を風靡したドイツ人写真家、ヘルムート・ニュートンの作品とその背景に迫る。ニュートンが一流ファッション誌のために撮った写真の多くは、ポルノ紛いだとか、女性蔑視だとか言われて論争を巻き起こしたが、時代は性のタブーやアートに対する評価がリセットされた1970~80年代。これは、今ほど絶対多数の意見によって世間の価値観が左右されなかった自由な時間へのオマージュであり、ニュートンと共にそんな時間を駆け抜けた女優やトップモデル(シャーロット・ランプリング、イザベラ・ロッセリーニ、グレイス・ジョーンズ、クラウディア・シファーetc)が次々と登場するセレブ・ドキュメントでもある。だから、あるジャンルのみを掘り下げるというよりも、写真、ファッション、そして映画と、いくつかのジャンルの近代史が同時に学べる絶好のチャンスかもしれない。もちろん、一見大胆で衝撃的だが、よく見るとニュートンの女性に対する畏敬の念が細部に宿る写真そのものが、最強の主役ではあるのだけれど。
クリスマスのNetflix最大のギフトは『Mank/マンク』
12月、Netflixはこのシーズンに相応しい勝負作の配信を相次いでスタートさせる。このシーズンとはもちろん、来年4月のアカデミー賞に向けたアワードシーズンだ。何しろ、Netflixは予想される候補作の数で、オスカーの歴史を塗り替えるかもしれないと言われているのだ。高校の卒業パーティを舞台にLGBTQ問題の新機軸を提案するライアン・マーフィのミュージカル『ザ・プロム』(12月4日より劇場公開/12月11日配信開始)、今は亡き若き名優、チャドウィック・ボーズマンにオスカーの期待がかかる『マ・レイニーのブラックボトム』(12月18日配信開始)、すでに配信中の『シカゴ7裁判』も、助演男優賞候補がひしめく実録集団法廷劇だ。
中でも、12月4日の配信開始に向けて11月20日から劇場公開されている『Mank/マンク』は、Netflix最大の勝負作。完全主義者のデヴィッド・フィンチャーが、当時は正当に評価されなかったアメリカ映画史に残る傑作『市民ケーン』(41)が製作された黄金期のハリウッドを、同作の脚本を担当したハーマン・J・マンキーウィッツ、愛称マンクを通して再現する。共和党のプロパガンダにも積極的に協力するし、フェイクニュースだって流してしまうメジャー・スタジオや権力者の姿には、これが今作られるべくして作られた作品であることが反映されている。フィンチャーは”ハイダイナミックレンジ”と呼ばれるデジタル撮影と、陰影に富んだ明暗法”キアロスクーロ”を用いて、まるでセルロイドで撮影したような風合いのあるモノクロ画像を手に入れる一方で、スタジオ敷地内のある場面でいかにも彼らしい視覚的なトリックを仕掛けるなど、随所で観客を刺激しまくる。マンク役のゲイリー・オールドマンがアルコール依存と闘いながら渾身の脚本を仕上げていく映画人の気骨を演じて、フィンチャーの期待に応えている。スターの宝庫と呼ばれたMGMの副社長、ルイス・B・メイヤーの剛腕ぶり、マンクと同業の弟、ジョー(後に『イヴの総て』(50)等でオスカーに輝くジョゼフ・L・マンキーウィッツ)との関係、等々、脇にも魅力的なキャラクターを配置した回顧的業界内ドラマ。観賞後は『市民ケーン』を再見、または初見したくなるのは必至で、この冬、映画好きの好奇心を最も刺激するのがコレだ。
以上、劇場と配信の両方から厳選した今年のクリスマス映画5選。これらの映画で来たるクリスマスをどうかハッピーに過ごして頂きたいと、心から願うばかりだ。
『ワンダーウーマン1984』
2020年12月18日(金)全国ロードショー
(C) 2020 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & (C) DC Comics
『魔女がいっぱい』
2020年12月4日(金)全国ロードショー
(C) 2020 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.
『ビルとテッドの時空旅行 音楽で世界を救え!』
12月18日(金) TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開
(C) 2020 Bill & Ted FTM, LLC. All Rights Reserved.
『ヘルムート・ニュートンと12人の女たち』
12月11日(金)よりBunkamuraル・シネマ、新宿ピカデリーほか全国順次公開
Arena, Miami, 1978 (C) Foto Helmut Newton, Helmut Newton Estate Courtesy Helmut Newton Foundation
『Mank/マンク』
Netflix映画『Mank/マンク』12月4日(金)より独占配信開始