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パナソニック、大勝のワケ

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)

よもやの大勝も、確かな基本プレーの積み重ねゆえである。1対1のフィジカル勝負からタックル、状況判断、パス、キック、ランの精度、コミュニケーション…。パナソニックが難敵東芝を、55-15で圧倒した。

トーナメントでは、メンタルの比重がより大きくなる。どれだけ相手より勝ちたいと思うか。「その意識が高く、ボールに対してどん欲に80分間戦ってくれた」と、パナソニックの中嶋則文監督は満足そうだった。

「どれだけ自分たちのアタック、ディフェンスができるかにフォーカスして準備してきたんですけど、それを試合に出た23選手がプレーで出してくれた。やるべきことをやってくれた。試合に出られなかった選手もいい準備をしてくれました」

基本に忠実にやるべきことをやる。その象徴が前半26分のトライだった。攻守が目まぐるしく入れ替わる。中盤で、東芝ロック梶川喬介の突進を、パナソニックのNO8ホラニ龍コリニアシが低いタックルで確実に倒す。そこに素早くフッカー堀江翔太がジャッカルに入る。ブレイクダウン。

ボールが密集の右にこぼれる。すかさずロックのダニエル・ヒーナンがボールに飛び込む。ロックの劉永男が相手をはじき飛ばす。ボールを奪取。ヒーナンが拾い、フランカーのバツベイ・シオネがパスアウト。

ラックを連取し、最後は名SOのベリック・バーンズが逆サイドに大きく放り、WTB山田章仁が相手ラインの後ろにだれもいない状況を見て、とっさに左足でキック。FB笹倉康誉がインゴールで拾って、中央に走り込んだ。ゴールも決まり、これで22-3となった。勝敗の流れは決まった。

オーストラリア代表の経験豊富なバーンズが端正な顔を崩す。

「チームとして戦うことが一番、大事だった。タックルで1対1で前で止める。しっかりボールキャリーをする。基礎的なことができたことが大きかった」

そう、大事なのは基本プレーなのだ。バーンズにしても、的確な状況判断(予測や判断のはやさ)はともかく、キック、パス、ランがきちんと正確にできている。それができるフィジカル、からだができている。

パナソニックの強みは基本のつよさなのである。「この1年、フィジカルでどこにも負けないからだ作りを目指してきました」(中嶋監督)のコトバ通り、東芝とのフィジカル勝負でも一歩もひけをとらなかった。

タックルではひとり目が相手の芯に入る。確実に倒す。ブレイクダウンでは、二人目がボールに働きかける。はやく寄って、足をかく。パナソニックの練習では、そんな基本プレーの反復しかしない。強さのヒミツを聞けば、36歳プロップの相馬朋和が「基本プレー、それだけ」と愉快そうに笑った。

「もしアタックだったら、ボールがどこにいくか理解している。ディフェンスだったら、ひとり目が相手を倒して、二人目がボールに働きかける。ひとりが必ず、ひとりに働きかけて、そこで相手に仕事をさせないようにする。シンプルでしょ。だから、できるんです。難しいことはひとつもない」

基本プレーとともに大事なことが、「見て判断する」ことだとも。

相馬はチーム14年目。浮き沈みを経験してきたベテランがふと、漏らす。

「初優勝の時と比べると違うと思う。サイズもスピードも。いろんな意味でスケールアップしている。ひとり一人のアスリートとしてのレベルがすごく高いと思います」

強いチームとはそういうものだろう。意識も部内競争も激しい。その中で若手も勝ちながら自信を膨らませていく。

鍛練の積み重ねは何より、尊い。記者会見。チームの成長を説明した後、5年目のフッカー、主将の堀江翔太がいたずらっぽく笑った。

「僕も、“6年前よりかは、努力の成果がすごい”と書いておいてください」

約80人のメディアであふれ返った会見場がどどっと沸いた。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2024年パリ大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。酒と平和をこよなく愛する人道主義者。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『まっちゃん部長ワクワク日記』(論創社)ほか『荒ぶるタックルマンの青春ノート』『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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