欧州スーパーリーグ創設の黒幕は、国際サッカー連盟FIFAの会長だった? 怒ってぶちまけるスペイン会長
「誰も騙されないぞ」
4月20日(火)第45回欧州サッカー連盟(UEFA)の総会がスイスで開かれた。
この総会は、スーパーリーグ創設が4月18−19日の未明に発表されたほぼ翌日に開かれた。
「あんな夜中に創設の声明を出すなんて。ヨーロッパ人は寝ているのに、アメリカや中国しか見ていないんだろう」と批判された。しかし、その日のうちにはもう、欧州中で批判が沸騰していた。
そんな状態の総会で、国際サッカー連盟(FIFA)の会長であるジャンニ・インファンティーノは、演説を行った。
大変厳粛な様子で、スーパーリーグ創設を「断固として認めない」、これは「既存の機関に反した」計画であると述べた。
さらに、分離しようとした12のクラブ(イギリス、イタリア、スペイン)は「結果に苦しむことになるだろう」と脅した。
出席者たちは、会長の明確なスピーチに、にこやかに拍手を送るしかなかった。
しかし、スイスのニヨンにある欧州サッカー連盟本部の廊下では、別の声がささやかれていたという。「誰も騙されないぞ」と・・・。
ル・モンド紙に掲載された記事を、再構成してお届けする。
10ページの疑惑の文書
スーパーリーグ構想の存在は、既に欧州サッカー界には知れ渡っていた。そして、数ヶ月前から、国際サッカー連盟FIFA会長の立場は、欧州サッカー連盟内で疑いの目で見られていたという。
FIFAは公には、「そのような試合は認められない」、「そのような試合に参加するクラブや選手は、FIFAや各連盟が主催するいかなる試合にも参加できないだろう」と断言していた。
しかしその一方で、ある報告書が、欧州サッカー連盟の中で出回り、疑惑が高まっていた。『ル・モンド』紙が入手した10ページの文書には、スーパーリーグに関する機密情報がまとめられている。これは年初にリーダーの間で広く出回ったのだという。
衝撃の3項目
この文書には、何が書かれているのか。
まず、スーパーリーグの12クラブは、2023年ー24年のシーズンから、FIFAの大会の一つで、あの五里霧中の「クラブ・ワールドカップ」の新フォーマットに参加するとみなされている。
このクラブ・ワールドカップは、今年2021年から、24チームで4年に1回開催となる予定だった(結局今年の大会は、コロナ禍で中止となった)。しかし文書によれば、またまた変更され、32チームに拡大され、毎年1月に「3週間」開催される、とある。
次に、「資格のあるチームのリストがWO1と合意されている」と書いてある。
さらに、「10億ユーロ(約1300億円)の連帯基金の提携が、WO1との間にある」という。この金額を「分配」することで、スーパーリーグのチームが「3億2000万ユーロ(約416億円)」を「おそらく」プール出来るだろうとされている。
コードネーム「WO1」とは何者か
この「WO1」とは誰を指しているのだろうか。
「WO1」は、「ダブリュー・オー・ワン」と呼ぶのだろう。もちろん、かの有名な「007」(ダブル・オー・セブン)から来ているのに違いない。
スペインのリーグ「ラ・リーガ」のハビエル・テバス会長によれば、この「コードネーム」はジャンニ・インファンティーノFIFA会長を指すのに使われているという。
1月に行われたAFPとのインタビューで、テバス会長は、FIFA会長がこの名前で「スーパーリーグに関する書類に登場している」と語っていたのだった。
テバス会長は22日の記者会見で、怒りのあまりか、FIFA会長を名指しで非難した。
「インファンティーノFIFA会長は、複数の会議に参加し、仕事をし、スーパーリーグが創設されることを奨励しました」
「ジャンニ・インファンティーノは、大至急、自分の立場を公にも個人的にも明らかにし、なぜあれらの会議に出席したのか、なぜある時期にこの計画を奨励したのかを述べなければならないと思います」
「私はインファンティーノに重大な疑惑をもっています。彼の役割は私を悩ませます」
偉大な戦略家のご都合主義
22日、ル・モンド紙はFIFAに取材した。しかしスーパーリーグに関して返ってくる答えは、「発表されているとおりです」との内容だったという。
そして、クラブ・ワールドカップについては「議論の一環として、世界中のクラブを含む、すべての主要なサッカー関係者に相談しました」と答えた。
また、スーパーリーグの権利を所有している民間企業はコメントを控えたとのこと。
欧州サッカー連盟の廊下では、「偉大な戦略家、ジャンニ(・インファンティーノ)のご都合主義と皮肉」が強調されているという。
インファンティーノ氏は、欧州サッカー連盟の事務局長だった時代から、主要アドバイザーの一人であるイタリア人のマリオ・ガラヴォッティ氏とともに、スーパーリーグのトップであるレアル・マドリードのフロレンティーノ・ペレス会長と非常に良い関係を築いてきた。
欧州サッカー連盟のアレクサンダー・チェフェリン会長は、インファンティーノFIFA会長の「最良の敵」であると見なされている。チェフェリン氏は、2019年のインファンティーノ会長の再選の際には、支援を控えていた。ちなみに二人とも弁護士である。
そして一体、インファンティーノFIFA会長は、何をしたのだろうか。この計画を阻止するために何かをしたのか。それとも、これほど大きな不評の波が押し寄せるまでは、この計画を奨励していたのか。
影響力のある某リーダーは、以下のようにまとめたという。
「もしスーパーリーグが実現すれば、欧州サッカー連盟は弱体化し、チェフェリン会長は信用を失っただろう。
逆にもし、スーパーリーグが実現しなければ、分裂しそうになったサッカーファミリーをまとめ上げ、欧州サッカーの問題というレベルになったとする世論を組み上げた人物として、君臨することができるということだ」
つまり、どちらに転んでも、自分は安全な位置にいて得をする、というのである。
スーパーリーグ関係者の専門家によると、「彼は最後の瞬間まで、風向きを見ていた」という。その手法は、ボリス・ジョンソンが、EU離脱が決まる前に、実は2つの異なる声明を書いていたのと、まったく同じだというのだ。1つはヨーロッパ(EU)に賛成、もう1つは反対という内容である。
政治家のなかでは、間違いなく今回の決定投票権を握った重要人物に見えるジョンソン首相を引き合いにだすところが、意味深である。
FIFAは、19日に発表した声明のなかで、各関係者に「連帯とフェアプレーの精神」を呼びかけた。スーパーリーグを「エリートの金儲け」と非難して、「私たちのクラブ」を守ろうとしたサポーターや選手たちは、良い面の皮だ。
インファンティーノ会長は、何を考えていたのだろうか。何か真剣にサッカー界の改革を考えてのことだったのだろうか。それとも、ただの利権か。チェフェリン会長というライバルに勝ち、欧州サッカー連盟を抑えることだったのか。
しかし・・・「連盟」などという機関が肥大化して腐敗しだすと、際限がなくて腐臭がひどい。やはりアメリカの民間(私営)プロリーグのあり方のほうが、まだマシだろうか・・・。
一サッカーファンとしては「もう騙されないぞ」と、つぶやくしないのだろうか。