広がるスマホの広告遮断 世界で4億人超、中国で1.6億人が利用
アイルランドのページフェア(PageFair)という企業がこのほど公表したスマートフォン利用者の広告遮断に関する実態調査によると、広告を遮断してウェブのコンテンツ閲覧しているユーザーの数は、全世界で約4億1900万人に上り、世界のスマートフォン利用者数である19億人の22%を占めるという。
中国では1.6億人が広告をブロック
このうち、初期設定で広告遮断しているウェブブラウザーを利用している人の数は4億800万人。この数は1年前から90%増と、ほぼ2倍に達している。
その利用者数を国別に見ると、中国が1億5900万人で最も多く、これにインドの1億2200万人が次ぐ。
そしてこの後、インドネシア(3800万人)、パキスタン(1000万人)、ロシア(470万人)、サウジアラビア(390万人)、ブラジル(290万人)、マレーシア(230万人)、米国(230万人)と続くという。
なお、同社は広告遮断ブラウザーの利用者が多い国として17カ国をリストに入れているが、ここに日本は入っていない。
アジア太平洋が93%を占める
しかし、こうしたウェブブラウザーの利用者はとりわけアジア太平洋地域に多く、その世界全体に占める人数の比率は93%に上っている。
アジア太平洋地域では36%のスマートフォンユーザーが広告遮断ブラウザーを利用しているという。これに対し、北米と欧州を合わせたこれらブラウザーの利用者数は1400万人にとどまっている。
同社の分析によると、アジア太平洋地域などの新興国では、初めてインターネットに接続する機器がスマートフォンという人が増えている。
そしてそのデータ通信にかかる費用は比較的高額で、通信速度も遅い。こうした状況の中、スマートフォンで広告を遮断する人も増えているという。
リポートによると、同社はこれまでに合計45種のiOSとAndroid用の広告遮断ブラウザーを確認した。
そのうち、中国の電子商取引大手アリババ・グループ(阿里巴巴集団)が提供するブラウザーの利用者数は、ほかの同様のブラウザーの合計利用者数よりも多いという。
また台湾エイスース(華碩電脳)は昨年12月に広告遮断ブラウザーを手がける企業と提携したが、これに伴い今年同社はそのブラウザーをプリインストールした新型スマートフォンを3000万台販売する計画だという。
昨年の経済損失は2.4兆円
米ザ・バージは、こうしたネット広告の遮断について、「派手派手しい広告を見ないという選択肢が与えられるべきだとする主張がある一方、広告ベースのビジネスモデルを脅かす存在だと危惧する声もある」と伝えている。
また米ニューヨーク・タイムズは、「広告ブロックソフトの急増がオンライン収益を脅かす」と題する記事の中で、「オンラインコンテンツは広告収入でコストが賄われているが、広告遮断は、それを人々が閲覧する際に合意する暗黙の契約に違反する」という反対派の意見を伝えている。
このリポートをまとめたページフェアは、広告遮断に対抗する技術やサービスを提供する企業。そのため、アジアで広がるこうした習慣がもたらす影響を強調したいのかもしれない。
だが同社の指摘するように、この問題は深刻なものになりつつあると言えそうだ。
前述のザ・バージの記事はページフェアのデータを引用して、世界でネット広告が遮断されたことによる昨年1年間の経済的損失は、218億ドル(約2兆4000億円)に上ったと伝えている。
(JBpress:2016年6月2日号に掲載/原題「アジアで広がるスマホの広告遮断、過去1年で約2倍 中国、インド、インドネシアで顕著」)