新型コロナはいつまで人にうつる?新型コロナから回復し退院・療養解除となった人から感染する心配はない?
2021年8月現在、日本国内における新型コロナの感染者は100万人を超えました。
これら感染者の多くは回復後に社会生活に戻っていますが、こうした新型コロナから回復した方から感染が広がることはないのでしょうか?
新型コロナと診断されたらいつまで入院・療養が必要なのか
現在の退院および療養解除基準は以下のようになっています。
人工呼吸器等による治療を行わなかった場合(軽症・中等症)
① 発症日から10日間経過し、かつ、症状軽快後72時間経過するまで
② 症状軽快後24時間経過した後、24時間以上間隔をあけ、2回のPCR検査で陰性を確認できるまで
人工呼吸器等による治療を行った場合(重症)
①発症日から15日間経過し、かつ、症状軽快後 72 時間経過するまで(※ただし発症日から 20 日間経過するまでは退院後も適切な感染予防策を講じる)
② 症状軽快後24時間経過した後、24時間以上間隔をあけ、2回のPCR検査で陰性を確認できるまで
無症状病原体保有者の場合
① 検査日から10日間経過するまで
② 検査日から6日間経過後、24時間以上間隔をあけ2回のPCR検査陰性を確認できるまで
感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律における新型コロナウイルス感染症患者の退院及び就業制限の取扱いについて(厚生労働省 2021年2月25日)
変異ウイルスについては当初PCR検査で2回の陰性を確認するまでは退院できませんでしたが、現在は従来の新型コロナウイルスと同様に、PCR検査で陰性を確認していなくても、発症から10日経ち症状が軽快していれば退院できるようになっています。
退院・療養解除となれば(体調に問題がなければ)職場に復帰可能となりますので、発症から最短で10日経てば職場に復帰できることになります。
「まだ発症から10日しか経ってない人が働いて、周りの人に広がったりしないの?」と心配される方もいらっしゃるのではないでしょうか。
新型コロナの感染性のピークは発症前後にある
新型コロナウイルスに感染すると、概ね5日後くらいに発症しますが、この症状が出る発症前後に最も感染性が強くなる(人にうつしやすくなる)ことが分かっています。
症状がない時期にも感染性があるのが新型コロナの大きな特徴の一つであり、症状がない人も含めてマスクを着ける「ユニバーサル・マスク」が感染対策でも重要になっています。
また症状がない、もしくは軽い時期に人にうつしやすいことが、この感染症が広がりやすい理由の一つと言えます。
いつまで新型コロナは感染性があるのか?
では新型コロナはいつまで感染性があるのでしょうか?
感染性がいつまであるのかについて評価するためにはPCR検査は不適切とされます。
なぜなら、PCR検査はウイルスの遺伝子の特定の領域を検出しているものであり、ウイルスそのものではないため、死んだウイルスの断片を拾っているだけのことがあるためです。
ときどき発症から30日以上経ってもPCR検査が陽性になり続ける患者さんがいらっしゃいますが、だからといってずっと感染性が続いているわけではありません。
この点においては、PCR検査よりも抗原検査の方が感染性のある時期にのみ陽性になりやすいため感染性を判断しやすいと考えられています。
「いつまで感染性があるのか」をより正確に評価するための方法の一つとして「ウイルス培養」を用いた方法があります。
生きたウイルスが培養できるということは、その時期には感染性のあるウイルスがたくさん排出されていると考えることができます。
したがって、この「培養できるウイルスが分離できるまでの期間」は概ね「感染性有り」と捉えることができます。
韓国で行われた21人の患者から採取された89の検体を評価した研究では、ウイルスが培養されたのは29検体(33%)であり、97%の検体が発症から10日以内(1検体のみ発症12日後)でした。
つまり、ほとんどの新型コロナ患者では発症して10日以内に感染性はなくなります。
また、台湾から100例の確定患者とその濃厚接触者2761人(このうち22人が後に新型コロナウイルス感染症を発症)についての報告では、濃厚接触者のうち発症したのは、発症前または発症から5日以内の確定患者と接触した人だけであり、発症から6日以降に確定患者と接触した人のうち新型コロナに感染した人はいませんでした。
重症の新型コロナ患者では、ウイルスの排出期間が長くなると考えられていますが、発症後20日を超えて他者への感染が起こった事例はこれまでありません。
以上から、
・発症する3日前〜発症後5日が最も感染性が強い
・軽症〜中等症の人は発症10日後には感染性はなくなっている
・重症の人も発症後15日、最長でも発症20日後には感染性はなくなる
ということになります。
現在の入院や療養期間はこれらのエビデンスを元に決められたものです。
唯一の例外は、重度の免疫不全のある方では持続感染が起こり、ウイルスの排出が続くことがあることです。
例えば、慢性リンパ性白血病と低ガンマグロブリン血症という持病を持った方が新型コロナに感染し、発症から70日後にウイルス培養が陽性になった事例が報告されています。
こうした重度の免疫不全のある方では、隔離解除の基準は慎重に判断される必要があります。
退院・療養解除後の新型コロナ患者から感染が広がることはない
このように、退院基準を満たした人はすでに感染性がなくなっているため、周囲の人に感染を広げることはありません。
したがって、就業再開のためにPCR検査をして陰性を確認する必要もありませんし、治癒証明書も必要ありません(厚生労働省からも通知が出ています)。
復職前にこのような不要なPCR検査や治癒証明書を求めることは、患者さん自身にとっても医療機関にとっても負担になるだけです。
また「まだ感染するかもしれない」という非科学的な理由で新型コロナから回復した方を不当に扱うことがあってはなりません。
社会において、新型コロナに感染し退院した人、療養解除になった方への理解がより一層進むことを切に願います。